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 4 ホームルームと魔力測定

「さて、明日から本格的に授業が始まるわけだが、まずはその前にこの学院の基本的なことを説明しておく。疑問点がある者は、都度質問してくれて構わない」


 フェリペ先生が教壇から降りて、クラスの中を歩き回りながら話始めた。


「昼食は寮と方式は一緒だ。今日は初日なので食堂まで誘導されるはずだから、指示があったら全員まとまって行くように。学生の人数が多いのでダラダラ食べないこと。食事が済み次第次の者に席を譲るように。天気の良い日はテラスで食べることも出来るぞ」

「テラスはどこにあるのですか?」


 最前列の女の子が手を挙げて早速質問をする。


「食堂に行けばすぐ分かる。目の前だ。今日は曇りだから中の方が良いと思うが、天気が良い日は大勢テラスで食べているから上級生の真似をすれば良い」

「ありがとうございます」


「じゃあ次。学生は何らかの委員会、もしくはクラブに所属する必要がある。昼食後に講堂で “学院執行部” から新入生に向けた詳しい説明と各委員会、各クラブの内容紹介があるのでちゃんと聞いて、各々所属先を検討するように」

「所属出来るのは一人一つですか?」

「いや。複数への所属も可能だ。ただしきちんと遣り遂げることが重要だからよく検討した方が良いと思うぞ」

「一度所属したら、卒業まで変更は出来ないのですか?」

「一年ごとに所属は変更は可能だ。まあ複数年継続している者が多いがな」

「オススメは魔導薬クラブですか?」

「もちろんそうだ」


 どっと笑いが起こった。


「執行部の説明会の後は “魔力測定” だ。今日は魔法師団から測定のために団員が数名来校してくれている。調べるのは二種類。魔力量と属性だな」

「先生!」

「何だ?」

「魔力量なら、入学試験の時にもう測定してますよね?」

「ああ、あれな。確かに学院の入学試験の時に “魔力量測定” は全員経験しているな。だが、あれはあくまで入学基準を満たしているかどうかを調べるだけの “簡易測定” なんだ。光れば基準以上で合格、光らなければ不合格。誰か学院の合格基準になっている魔力量を言える者はいるか?」


 フェリペ先生が教室内を見回す。マティアスがすっと手を挙げた。


「じゃあ、マティアス」

「五です」

「正解! で、今日は今現在の正確な魔力量を調べてもらうんだ。訓練によって魔力量は今後も伸びる可能性があるので、三年次終了時に再度測定の機会がある。マティアスは騎士コース希望だろ? 騎士コースに進みたい場合の最低魔力ラインは当然知ってるよな?」

「七です」

「よし、正解! 四年次から騎士コースを考えている者は後々後悔しないためにも、自分の今の魔力量と伸びを意識しながら日々の生活を送った方が良いな。騎士コース希望の者は特例措置として一学年と、二学年の終了時にも三学年の測定時に一緒に測定してもらうことも可能だから覚えておくといい」


 数名が頷いている。


「魔力量の測定が終わったら次は属性の確認だ。属性に関しては学院への登録は “主属性” だけで構わないので、既に主属性が分かっている者は報告するだけで今日は終了だ。詳しい属性を知りたい者は残って測定を行う。終わり次第、各自の寮に戻って構わない」

「属性によってはクラスが変わるのですか?」

「いいや。このクラスは一年間このメンバーで固定だ。もちろん担任も含めて」


 女の子たちがクスクス笑っている。


「確かに属性別に少人数で行う授業もある。この学年だと “魔導錬成” だな。先ずは全員の属性を調べて各属性毎の人数を把握した上でクラス編成をするので、錬成の授業スタートは来週以降になるだろう」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー 



「以上で執行部による委員会及びクラブの説明を終了します。興味のある方、質問のある方は遠慮なく各委員会、各クラブを見学してみて下さい」


 執行部に所属する上級生たちが説明を終えて下がっていく。

 入れ替わるようにして舞台には白色の長いローブを着た男性があがった。どうやらあれが魔法師団の制服のようだ。


「準備のため十五分ほど休憩を入れます。その後この場所で順に魔力測定を行いますので、時間になりましたら再び着席してお待ち下さい」



「どうする? 何に所属するか決めた?」


 講堂を出た途端、ルシオが興奮気味にアスールとマティアスに質問を投げかける。周りの皆も今聞いたばかりの話題で盛り上がっているようだ。


「どうしようかな……。興味を引かれたのはあったよ」

「僕は剣術クラブだな」


 マティアスはもうすでに心を決めているらしい。


「ふうん。マティアスは決まりかぁ。アスールは何で迷ってるの?」

「迷っていると言うか、もっと詳しく知ってから決めたいんだよね。見学出来るって言っていたから、今度行ってみるよ」

「で、何なの?」

「そう言うルシオはどうするの?」

「うーーーーん。悩んでる。料理か魔導具か、それとも両方か」

「えっ、料理?」

「そうだよ。説明してた人優しそうだし、すっごくクラブの雰囲気良さそうだったし、何より作ったものをすぐに食べられるって良いよね」

「それが主な理由だろ?」

「まあ……否定はしないよ」


 ルシオは相変わらず食べ物に弱い。


「僕は魔導具研究部かな。前にカーリム博士に魔道具をいくつか見せてもらったことがあるんだけど、それがすっごく変わってるんだよね。どういう仕組みなのか興味ある」

「魔導具研究部って研究だけじゃなくて魔導具の制作もするって言ってたよね。そう言えば、シアン殿下も魔導具研究部に所属されてるんでしょ?」

「そうだよ。兄上は新しい魔導具を試作しているみたい。詳しくは教えてくれないけどね」

「アスール、見学に行くなら僕も一緒に行きたいな」

「良いけど……僕は料理クラブには見学に行かないからね」

「ああ、そっちは一人で行くよ!」

「そろそろ時間だ。講堂に戻ろう」



 マティアスに急かされて三人は席に戻った。


「では、準備が整いましたので始めます」


 舞台上には長テーブルが二つと小さい机が一つ用意されていて、それぞれの長テーブルに魔導具が並んでいる。


「最初は “魔力量測定” です。こちらのテーブルで行います。測定出来る団員が三名居りますので空いている席へお進み下さい。測定結果の書かれた用紙を受け取り、次のテーブルへ移動して下さい。次にそちらで “属性” を調べます。結果を用紙に記入してもらい、最後にクラスと名前を記入して、あちらに座っている担当者に用紙を渡して終了です。既に属性が判明している方はご自身で属性を記入して提出して下さい。それではAクラスの方から順にお願いします」


 前方に座っていた数人が立ち上がって舞台に上がり測定を受けはじめる。アスールたちも列に並んだ。


「お先に!」


 ルシオが空いた席をめざとく見つけ、そこに座る。すぐにその横の席が空いたのでアスールも腰掛けた。


「こちらの魔導具のこの部分に右手を開いてのせて下さい」


 担当の女性に指示された位置に手を置く。

 前回カーリム博士が使っていた魔導具とは全然見た目も違うものだが、今回も前回同様に掌から何かが引き出されるような感覚がする。

「はい、結構です」と言った後、女性が用紙をアスールに手渡した。

 アスールはそれを受け取ると、隣のテーブルには寄らず、小さな机の前の列に並んだ。

 記入出来るスペースが空くのを待つ間、アスールは中央のテーブルで行われている属性検査の様子を眺めてみる。やはり先日カーリム博士が持って来たものとは全く別の魔導具だ。


「あの時の “巻き物” の方がロマンがあって良いのに……」

「やはり殿下もそう思われますか?」


 アスールは不意に声をかけられたことに驚き、その場から飛び退いた。


「博士!」


 そう。そこに居たのはカーリム博士その人だった。

 博士は自ら運んで来たらしい机を、元から置いてあった机と並べて横に置き「こちらの机もお使い下さい」と言って並んでいた学生を誘導し終えると、アスールに向かって手を振り、ゆっくりとした足取りで舞台から降りていく。

 アスールは空いたスペースで素早く記入を済ませると、すぐに博士を追いかけた。



「お久しぶりです。カーリム博士」

「こんにちは、アスール殿下。やはりこちらでお会い出来ましたね。御入学おめでとうございます」

「ありがとうございます。……あの、少しお話しても?」

「ええ、構いませんよ」

「先日城で博士が使っていた魔導具と、今日ここにあるものでは見た目が全く違うのですが、仕組みは一緒なのですか?」

「まあ、だいたいは同じです。あの時のあれは私物でしてね、今では使う人もほとんどいないような、アンティークと言えば聞こえが良いが、時代遅れの骨董品です。それでも私にとっては大事な仕事道具ですよ。もちろんちゃんと仕事にも使える品です。御安心を」


 カーリム博士は照れくさそうに笑った。


「今そこで使っているのは全て最新型なので測定も判定もとても正確で早いです。でも、殿下が指摘された通り “浪漫” は無い……」

「学院の測定でロマンを追い求めると、列はどんどん長くなりますしね」

「確かにそうです。殿下はお好きですか? ああ言った古い魔導具が」

「はい。とても心惹かれます!」

「そうですか。でしたら、いつか機会があれば私の研究室にお越し下さい。いろいろ “浪漫溢れる品” をお見せできると思いますよ」

「ありがとうございます。是非」


「カーリム博士! 申し訳ありませんが、お手伝い願えますか!」


 舞台の上から若い団員に呼ばれて、博士は舞台上の測定会場へと戻っていった。


(博士の研究室って、本当に訪ねて良いんだろうか? ただの社交辞令かな?)


 アスールはもう少し博士と話をしたかったのにと、博士を連れて行ってしまった魔法師団の団員の背を恨めしそうに見つめていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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