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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
376/394

42 二人を連れて島へ行こう!(2)

「僕は、絵本、それか、子ども向けの物語、探しています。僕の母、クリスタリア国のお話言った。この国に来た、思い出になる。探して、持って帰りたい」

「母さん、何か知らない?」

「今日も何軒かの書店で聞いてみたのですが、そんな内容の話は聞いたことがないって言われて……」


 ゲオルグの話によると、ロートス王国では子ども向けとしては有名な物語で、絵本にもなっていると言う。

 話の内容はこんな感じだ。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



むかしむかし。東の東のそのまた東に、強い王が治める国があった。

その国のお城には、強い王と優しい王妃と賢い王子と愛らしい王女が住んでいた。

強い王の治める国はとても豊かで、その国に暮らす民は皆とても幸せに暮らしていた。


強い王の国の隣には、(ずる)い王が治める国があった。

その国のお城には、狡い王と意地悪な王妃と怠け者の王子と不機嫌な王女が住んでいた。

狡い王の治める国は貧しく、その国に暮らす民は皆あまり幸せではなかった。


狡い王は考えた。自分たちの国が豊かでないのは、隣の国が富を独占しているからだと。

「だったら奪えば良い」

狡い王は考えた。強い王の国の愛らしい王女を攫って来よう。

「愛らしい王女と怠け者の王子とを結婚させれば良い」


強い王は知らなかった。愛らしい王女がお城を抜け出して、一人で散歩をしていることを。

狡い王は知っていた。愛らしい王女に誰一人護衛がついていないことを。

愛らしい王女は攫われた。


強い王は怒り狂い、優しい王妃は悲しみの涙をながし、賢い王子は考えた。

狡い王はほくそ笑み、意地悪な王妃は嘲笑い、怠け者の王子は相変わらず怠けたままだ。

愛らしい王女は捕われ、不機嫌な王女はますます不機嫌になった。


賢い王子は考えた末に、友人の海賊に助けを求めることにした。

「君が妹を助け出すことができたなら、僕が君のために父親を説得しよう」

賢い王子は知っていた。友人の海賊が愛らしい王女を愛していることを。

賢い王子は知っていた。愛らしい王女の方も海賊を愛していることを。


海賊は狡い王の国へ行き、狡い王を打ち負かし、愛らしい王女を助け出した。

意地悪な王妃は逃げ出し、怠け者の王子は追放され、不機嫌な王女だけが国に残った。

強い王は王女の救出を喜び、優しい王妃は嬉し涙をながし、賢い王子は約束を守った。


東の東のそのまた東に、賢い王が治める国がある。

その隣には、すっかり機嫌の良くなった女王が治める国がある。

どちらの国も今は豊かで、二つの国に暮らす民は皆とても幸せに暮らしている。


近くの海に浮かぶ島には、新しい国ができたらしい。

勇敢な元海賊と愛らしい元王女が、仲良く治める国ができたらしい。

小さな勇敢で愛らしい王子が生まれて、仲良く暮らす国ができたらしい。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「へぇ。そんな内容だったんだね!」

「王女と海賊かあ……」


 テレジアのアルカーノ家で、夕食の後片付けを手伝いながらゲオルグが探している本があるとアニタに相談している時に、アルカーノ家のやんちゃ坊主二人と遊んでいたアスールとルシオは、ゲオルグが本を探していることは知っていても、その内容までは詳しくは知らなかったのだ。


「王女と海賊……。近くの海に浮かぶ島? ねえ、なんだかさ……」

「だよね。僕も今、丁度そう考えていたところだよ」


「はあぁぁぁ。そうよ。貴方たちが考えていることで正しいと思うわ。アスール、ルシオ」

「「ですよね?」」

「「「ん?」」」」


 リリアナが大きな溜息を一つ吐いてから言った言葉に、アスールとルシオは大きく頷いた。

 レイフとゲオルグとウェルナーの三人がポカンとしている。


「えっ、なに? 考えていることって?」


 レイフがリリアナに説明を求めた。


「ゲオルグ君が探している本を書いたのは、間違いなくスサーナよ」

「王妃様、ですか? あの時、亡くなられた?」


 突然スサーナ妃の名前が出たことにゲオルグは驚いたようだ。


「ええ。確実に」

「なぜそんなことが貴女にお分かりになるのです? やはり原作をご存知なのですか? 今この屋敷にあったりしますか? 叶うのなら、その本をゲオルグに見せてあげることはできませんか?」


 ウェルナーも混乱しているようだ。


「本?……本は無いわ。どこにも無いわよ」

「無い?」

「ええ。そんな本はね、最初から存在していないのよ」

「存在していない?」

「そうね。もしあるとしたら、ここに」


 そう言ってリリアナは両方の手を胸の前で重ねると、その両手を自分の胸にそっと置いた。


「スサーナ・フォン・ロートス。貴方たちの国のあの日亡くなられた悲劇の王妃はね、私の大切なたった一人の妹だったのよ」



 驚きのあまり言葉を失っているゲオルグとウェルナーに向かって、リリアナは過去の自分の生い立ちと、今の自分の立場を語りだした。


「物語の王女様ほどでなないけれど、私たちは先王の姪。二人とも、スアレス公爵家の娘よ。スサーナはそんなこと感じたことはなかったかもしれないけれど、私は公爵家の令嬢って立場に、ずっと息苦しさを感じていたの」


 リリアナはそう話しながら、その視線はずっと窓の外を見つめている。真っ暗な夜の景色の向こうに、いったい彼女は何を見ているのだろう?



「物語の王女様と同じで、私もよく屋敷を抜け出してヴィスタルの街に出ていたわ。もちろん護衛など無しでね」


 リリアナは何かを思い出したのだろう、クスリと笑った。


「市場を歩いたり、広場で行き交う人を観察したり、時には海岸を散歩したりね。でも、ある時、人通りの少ない路地に間違って入り込んでしまった私は、ちょっと人相の良くない感じの人たちに遭遇してしまったの。今だったらそんな人たちなんて蹴り倒してさっさと逃げるところだけど、当時の私は一応深窓の公爵令嬢だったものだから、簡単に囲まれちゃったわけ。そこに助けに入ってくれたのがミゲルよ」

「ミゲル? ミゲルって誰、ですか?」


 ゲオルグは、リリアナが通常の速さで話すクリスタリア語を、残念ながら全ては理解できていないようだ。


「僕の父親。オルカ海賊団の頭領。ミゲル・オルケーノだよ」

「オルケーノ? 父親、アルカーノ、違った?」

「オルケーノもアルカーノも、どっちも同じなんだ」

「レイフ、待って! それって……喋っちゃ駄目な内容じゃなかったっけ?」


 ルシオが慌てている。


「そうだね。あははは。国家機密級の爆弾ネタだよね」


 レイフはなんだか吹っ切れたかのように笑っている。

 レイフは公爵家の養子となった時に、家にまつわる過去の多くを語らないことを、スアレス公爵家と約束させられているのだ。


「爆弾ネタって……」

「だって、そもそも元スアレス公爵令嬢の母さんが、あそこまで喋っちゃてるんだ。もう後はたいした違いはないでしょ?」

「……ああ、まあ、そうかもね」

「僕、レイフの秘密、誰にも言わない!」

「もちろん、僕だって!」


 ゲオルグがレイフの手を取った。ウェルナーも慌てて同意する。


「分かってるよ! 友だちだもんね」

「「そうだよ!」」


「だからね、ゲオルグ君。この国に、貴方が探しているような本は存在していないのよ。その話は、あの子(スサーナ)がロートス王国へ行ってから書いたものだと思うわ」


 自分の息子とロートス王国から来た二人のやり取りを優しい眼差しで見つめながら、リリアナがゲオルグにそう告げた。


「そう、でしたか」

「ガッカリさせてごめんなさいね。それより、そんな素敵なスサーナの本があるならば、逆に私が貴方の国のその本を手に入れたいくらいだわ」

「良いですよ! ロートス王国帰ったら、僕、貴女のため、本送ります」

「本当に? 嬉しいわ! 楽しみにしているわね」

お読みいただき、ありがとうございます。

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