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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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39 ゲオルグ・フォン・ギルデンの探し物

 これならば、テレジアの港まではあっという間に到着しそうだ。

 いつものメンバーに加えてロートス王国からの二人が加わったことで、賑やかさに拍車がかかっている。


「ねえ、ウェルナー。君、次は何を食べてみたい?」

「この果実水に使われている果実ってなんだろうね? かなり酸っぱいけど、後味が爽やかで美味しいと思わない?」

「こんなのは僕の国にはないよ。初めて食べる味だ! うん。美味しい! ルシオも試してみて!」


 食べ物の話題で盛り上がっているのは言わずと知れたルシオ・バルマーと、ロートス王国からの留学生、ウェルナー・ルールダウ。


 二人は出港後しばらくすると売店の前に張り付いて、それ以降ずっとあんな調子なのだ。



「ウェルナーが、あんなにルシオと話が合うとは思わなかったね」

「そうだね。食いしん坊キャラが二人に増えちゃったみたい」

「ウェルナーは、料理も、上手だよ!」

「そうなの?」


 どうやらこの定期船は、乗船客の胃袋を掴んで離さないのが戦略なのか、途中の港で停船するたびにその地その地の名物料理を積み込んでいる。


「もしかしてルシオとウェルナーの二人はこの定期船が用意する全ての食べ物を片っ端から味わうつもりじゃないよね?」

「まさかそこまでは……」


 アスールたちも最初は付き合っていろいろと味見をしていたが、流石にお腹がいっぱいになってしまい、デッキに置かれた椅子に座って、呆れ顔で食べ物を頬張り続ける二人の様子を眺めている。


「でも、僕嬉しい。ウェルナー、凄く楽しそう!」

「そうだね」


 ウェルナー・ルールダウは先の政変の際に国王ヴィルヘルム・フォン・ロートスの騎士だった父親を失い、しばらくの間、家族と共に母親の実家であるギルデン公爵家に身を寄せていたそうだ。

 ウェルナーとゲオルグ・フォン・ギルデンとは従兄弟同士であり、それ以来ずっと仲の良い友人でもある。



「ウェルナー、ずっと大変なこと、いっぱいだった。クリスタリア国、一緒に来て良かった」

「ああ、そうだね」


 テレジアに近付くにつれて、夏の日差しはどんどん強まっていく。

 デッキの上には楽しそうな乗船客の話し声に混じって、船に乗り合わせたらしい吟遊詩人の歌声も聴こえてくる。



「ねえ、ゲオルグ。君は、旅行中にやりたいこととか、欲しい物ってないの?」


 レイフ・スアレスが尋ねた。


「欲しい物?」

「そう! もしも何かあるなら、僕に言ってよ。僕は王都よりもテレジアの方が馴染みがあるし、アスールやルシオよりも断然詳しいよ」

「……それなら。僕は本、探してる」

「本? それってどんな本?」

「たぶん絵本、それか、子ども向けの物語」

「それって、クリスタリア国のお話の本ってことで良いのかな?」

「そうだと、思う」


 ゲオルグの話では、ゲオルグが子どもの頃からずっと大好きだという絵本が、元々はクリスタリア国の話らしいのだ。


「折角この国に留学来られた。絵本、クリスタリア語の勉強なる。この国の思い出にもなる。是非、持って帰りたい」

「本かあ。……カミル兄さんに聞けば分かるかな?」



 カミル・アルカーノはレイフの一番上の兄で、現在はテレジアにあるアルカーノ商会を取り仕切っている人物だ。残念ながらアルカーノ商会では本は取り扱ってはいない。


「ねえ、レイフ。絵本だったら、カミルさんよりもアニタさんの方が詳しいんじゃないの? 小さな子どもが居るんだし」

「ああ、アニタ義姉さんか! 確かにそうだね。アスールの言うことは正しいかも。義姉さんに会ったらすぐに聞いてみよう!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 テレジアにゲオルグとウェルナーが滞在する一週間の宿泊は、予定通り皆で商会の近くにある宿に泊まることになっている。

 だがテレジアに到着した初日のこの日、折角テレジアまで遊びにきているのだからと、皆はアルカーノ家に夕食に招かれた。

 その日のテーブルの上には、料理好きのアニタが腕を奮って作ってくれたご馳走が所狭しと並んだ。


 夕食を食べ終えた五人は、食事のお礼にと、それぞれにできる仕事を手伝うことにした。


 ゲオルグとレイフの二人は、アニタの皿洗いの手伝いを買って出ることにした。その手伝いの合間を利用して、アニタからゲオルグが欲しいと言った本に関しての情報を得ようという作戦だ。

 アニタが洗った食器をその横でゲオルグが拭き、綺麗になった大量の皿はレイフが食堂にある食器棚まで運んで片付けた。



「ごめんなさいね。そういった内容の絵本も、子ども向けの物語も、残念だけど私は知らないわ……」

「そう、ですか」

「王都程ではないけれど、テレジアにも何軒か大きな本屋もあるし、明日にでも時間を見つけて探しに行ってみたらどうかしら?」

「そう、ですね」



 ちなみに他の三人、アスールとルシオとウェルナーは、アルカーノ家のやんちゃ坊主たちの世話をしている。居間から何をしているのかは分からないが、楽しそうに遊んでいる声が食堂まで聞こえて来ていた。



「お疲れ様、ゲオルグ。それで? アニタ義姉さんはなんだって?」


 丁度食器を全てきちんと食器棚に戻し終えたレイフがゲオルグに尋ねた。


「アニタさんは知らない、言ってた」

「そっか、残念。まあ、そんな簡単に探し物は見つからないか……」


 ゲオルグが軽く頷いた。


「しばらく滞在するんだし、アニタ義姉さんの言うように、明日にでも書店に探しに行こうよ! 店員に聞けば何か分かるかも知れないよ」

「そう、だね」

「じゃあ、そろそろ皆で宿の方に移動しようか。あまり遅くなると、先に行ったダリオさんが心配して戻ってくるよ」

「そう、だね」

「ああ、その前に……。ヴェントゥスたちをカミル兄さんに預けなきゃ! 宿には連れて行かれないんだった!」



 テレジアに滞在中、ピイリア、チビ助、ヴェントゥスら三羽のホルクは、アルカーノ商会にある鳥小屋で預かってもらうことになっているのだ。

 その間ここの住鳥たちは、まだいろいろな環境の変化に慣れていない雛のヴェントゥスを気遣って、島の鳥小屋の方へ移動させられている。


「ヴェントゥスも、家族旅行、だね」

「あはは。そう言われてみれば確かにそうだね!」




「あんなに小さくて可愛かった二人が、すっかり悪ガキになっていてビックリした……」

「ルシオ、すっかり二人に懐かれていたね」

「あれを懐かれてるって言うの? 僕のこと、遊び道具かなにかと勘違いしてたよ、絶対!」


 レイフの甥っ子たちは、アスールとルシオが初めてテレジアにやって来た四年前に比べて、当然だが随分と成長している。玄関を出たルシオは、すっかり疲れ果てた様子だ。



「それで? 何か分かったの? 本は、すぐに手に入りそう?」

「アニタさん、知らない、言っていた」

「そっか……。あれ、レイフ。アニタさんが君のこと、呼んでいるんじゃない?」


 ルシオに言われて皆が後ろを振り向くと、アニタが何か叫びながら追いかけて来ているところだった。


「本当だ。なんだろう? 悪いけど、皆で先に宿の方に向かっていてくれる? この道を真っ直ぐだから分かるよね?」

「大丈夫だよ」

「話を聞き終えたらすぐに追いかけるから」

「分かった。先に行ってるね」

お読みいただき、ありがとうございます。

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