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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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36 絡み合う人間関係

「気付けば、今回も目の前まで前期試験が迫って来てるよ……。なのに、提出課題が終わってない……。どうしてだろう?」

「ルシオ、それ本気で言ってる?」

「割と本気……。レイフは? もう全部終わったの?」

「もちろんだよ! もう全部提出し終えたに決まっているだろう? ルシオ、終わっていない課題って、後いくつ残っているのさ? 何が残っているの?」

「えっと……」


 レイフはルシオのノートのページをペラペラと捲りながら「もっとここは丁寧に書いた方が良い」とか「参考文献はあの辺りに置いてあった筈だよ!」などと言いながら、友の課題の進行具合を細かくチェックしている。


 レイフは几帳面で計画的に課題を確実に進めるタイプだ。一方のルシオは途中の進行は遅れることも多いが、結果的には必ずなんとかするタイプだ。

 一見ルシオとレイフの二人は正反対のタイプで反りが合わないようにも見えるが、なかなかどうして、かなり良い組み合わせだとアスールは思っている。


「ちょっとレイフの勧めてくれた本を探してくるよ!」


 そう言ってルシオは席を立っていった。


 アスールたち三人は、試験勉強をするために揃って図書室にやって来ている。

 アレン・ジルダニアのところだけでなく各研究室は、前期試験が近付いて来たために学生の出入りが禁止されたのだ。

 その為、ほとんど毎日のように顔を合わせていたアレン先生とも授業以外で会うこともないし、試験が終了するまでは “温泉” の調査も中断するしかない。



「ねえ、アスール。あの話、聞いた?」

「あの話って?」


 レイフが小声で話しかけてきた。

 アスールたちがいつも使っている図書室の最奥のキャレルの周りに人が居ることはほとんどない。それでも図書室内なので、あまり大きな声では話せない。まあ、ルシオはほとんど気にしていないようだが。


 学院入学後しばらくしてこのキャレルを見つけて以来、この辺りの席はアスールのお気に入りの場所となっている。ギルベルトも在学中はよくこの場所を利用していたし、ベアトリスやローザもたまに利用しているようだ。

 そのことは学生たちにもよく知られているようで、皆が気を遣ってくれているのだろう、段々と最奥のキャレル付近の席を使う者は減っていった。

 アスールが最高学年生となった今となっては、もはや専用スペースといっても良いくらいに試験前であっても常にこの近くの席だけは空いている。



「ゲオルグとウェルナーが、夏期休暇中にクリスタリア国内を旅するらしいって話だよ」

「ああ、ゲオルグからチラッと聞いたよ。まだ行き先ははっきりと決まっていないって言っていたけど」


 ゲオルグ・フォン・ギルデンと、ウェルナー・ルールダウの二人はロートス王国からの留学先だ。

 例年留学生は言葉の問題もあってDクラス(実技科目の多い騎士コース)に配置されるが、二人ともアスールたちと同じAクラス(分科コース)に在籍している。

 理由はこの学年にはゲオルグたちの他にジング王国からも二人の留学生がいるため、Dクラスだけで留学生を四人も受け入れることができなかったためだ。


 アスールが中庭でゲオルグと話しをして以降、レイフとルシオも含めた三人はロートス王国の二人が滞在している留学生棟に遊びに行ったり、王宮に招いたり、皆で王都散策を楽しんだりと、忙しい時間の中かなり頻繁に交流を繰り返していた。



「それなんだけど、夏期休暇が始まってすぐに二人をテレジアに招こうかと思ってるんだけど、アスールはどう思う?」

「テレジアに? それって、島へってこと?」

「島へは……どうかな。そこは検討中。僕個人の判断では決められないからね」


 あの島はアルカーノ家の個人の所有地で、そこに住む住人は皆 “オルカ海賊団” の関係者ばかりなのだ。いってみればあの島は海賊島。かなり秘密の多い島でもある。


「まあ、島へも一泊くらいなら大丈夫かな」

「それ以外はどこへ? アルカーノ商会のあの本部に、大人数で押しかけて泊まれるの?」

「あそこ? それは無理だね。僕ら三人とダリオさんだけならまだしも、ロートス王国の二人が一緒に動くとなればディエゴさんも今回は同行するって言い出すと思うし……宿泊先は商会所有の宿になるかなぁ」

「アルカーノ商会って、宿まで経営しているの?」

「テレジアに一軒だけだよ」


 レイフとはもう五年の付き合いになるが、お互いに知らないことはまだまだあるようだ。



 ディエゴ・ガランはレイフの側仕えとして学院に帯同している人物。実際は彼の護衛であり、スアレス公爵家の養子となったレイフの教育係でもあるのだ。

 その上、ディエゴの妻のギーゼラ・ガランはロートス王国のシュミット侯爵家の出身。

 ギーゼラの兄のアレクシス・シュミットはヴィルヘルム王の従者であり護衛騎士だった人物で、ヴィルヘルムと一緒にクリスタリア国に滞在していたことがあると以前ローザが言っていた。

 未確認だが、おそらくアレクシスは例のキールの事件で命を落としていると思われる。


 亡くなったウェルナー・ルールダウの父親も、元ヴィルヘルム王の護衛騎士だ。ウェルナーの話によれば、彼の父親も若い頃に一年程クリスタリア国に滞在経験があると言うのだから、つまり二人は同僚という間柄だったということだ。

 ウェルナーがディエゴの妻のギーゼラのことを知らない可能性は高いが、ディエゴの方はウェルナーの父親のことを知っているに違いない。

 人の縁というものは、こうも複雑に絡み合っているものなのだろうか?



「ゲオルグとウェルナーの二人も一緒だと言うことは……。つまり今回の船旅は、アルカーノ商会所有の船で行くんじゃない! ってことだね? まあ僕は、定期船も嫌いじゃないよ!」


 いつの間に書棚から戻って来ていたのか、ルシオが顔を寄せ合い小声で話し込んでいた二人の間に割り込んできた。


「定期船も楽しいよね。そりゃあアルカーノ商会所有の船の方が速いし快適だけど、定期船には定期船の味わいもある! 特に売店で売ってるちょっと変わった香辛料がたっぷりかかった肉を挟んだパンが美味しいんだよ。後、暑いデッキで飲む冷たい果実水も良いよね!」

「ぷはは。本当にルシオは面白いよ!」


 レイフが思わず吹き出した。


「えっ、なんで笑うの?」


 ルシオの声が静まり返った図書室内に響き渡る。


「ルシオ!」

「ごめん……。でもなんで笑われるのか、さっぱり分からないよ」


 ルシオは不満気だ。


「そろそろ寮に戻る? 話の続きは夕食の後、誰かの部屋でにしない?」

「だったらアスールの部屋だね! 良いでしょ? アスール?」

「僕は構わないよ」

「ほら、そういうところだよ、ルシオ!」


 ルシオの提案を特に疑問も持たずに受け入れたアスールを横目に、レイフがクスクス笑いながらそう言った。


「何が?」

「君は悪意の無い唯の食いしん坊だねってこと!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「それでは、アス兄様は夏の成人祝賀の宴が終わった翌日に出発されるのですか?」

「そうだね。今回はルシオが祝賀の対象者だし。僕は別に良いけど、ルシオが参加しないのは不味いでしょ?」

「アス兄様も祝賀の宴に参加しないなんて、絶対に駄目だと思います! 参加は王族としての義務ですわ!」


 学院に入学した最初の夏、アスールはその義務をすっぽかして、ローザにだけ秘密にしてテレジア旅行に出掛けたことがある。ローザは未だにそれを根に持っているらしい。


「ローザは夏期休暇の予定は決まったの?」


 アスールは都合の悪い話題をすり替えることにした。


「まだです。ですが、お母様と離宮に行くことになるかと……」

「そうなんだ」

「だって、今回はアス兄様のお友だちもご一緒なのですから、私が行きたいと言ってはお邪魔になるのでしょう?」

「ああ、それを気にしているの?」

「……はい」

「だったら、少し日程をずらすのはどうだろう? ゲオルグたちのテレジア滞在だって数日だけのことだし、その後は他の町を見て歩きたいって話だよ。彼らがテレジアを離れる頃にローザが島へ入れば良いのではないかな?」


 アスールの提案にローザの顔に明るさが戻った。


「でもたぶん、ローザとエマの二人での移動は父上がお許しにはならないと思うよ。お祖父様か、別の誰かに同行して貰わないとだね」

「そうですね。次に王宮へ戻った時にでも、お父様に相談してみますね!」

お読みいただき、ありがとうございます。

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