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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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35 それぞれの夏の計画(2)

「アスールとローザは? 二人は、今年の夏期休暇中はどう過ごす予定なの?」


 ベアトリスが聞いた。


「僕は今日アレン先生から、東の鉱山近くに発見された泉の現地調査に、夏期休暇の後半に行く予定だと言われたばかりです」

「そこへは長く滞在するのかしら?」

「いいえ。現地の宿舎に滞在できる日数が最高でも一週間らしくて『それよりも長く滞在したいなら野宿でもするか?』って、先生はルシオに冗談を言ってました」

「それって、本当に冗談なの? あの先生のことだから、本気で言っているってことはない?」

「あるかもしれませんけど、夏期休暇が終わってしまっては、残りたくとも残れませんからね。僕らが野宿をすることにはなりませんよ。大丈夫です」

「なら良いけど」


 ベアトリスは水属性ではないが、アレン・ジルダニアの噂は耳に入っているらしい。


「ねえ、アスール。貴方が向かう “泉” っていうのは、例の “温泉” のことで、良いのよね?」

「ああ、はい。姉上も温泉に興味がおありですか?」

「ええ。以前、貴方が聞いていたよね?」

「ん? 何をでしたっけ?」


 アスールには、ベアトリスに “温泉” に関して何かを尋ねた覚えがなかった。


「聞いたのは()()じゃなくて、ほら、ルーレン殿下によ。中庭でガルージオン国にある療養のための施設について、アスールはルーレン殿下に話を聞いていたでしょう?」

「ああ、あの時!」

「そうよ! 薬湯や高温の蒸気で満たされた部屋がどういったものなのか? とか、いろいろ」

「ええ、お聞きしましたよ。それにしても姉上は、そんな細かい内容まで、よく覚えておいでですね」

「ええ。そうね。私も、少し興味があるから……」

「そうなのですか?」


 ベアトリスの “温泉” に「興味がある」という発言に、アスールはちょっと驚いた。

 剣術クラブに所属し、“兵法” を学びたいと言ってダダイラ国へ留学するようなベアトリスと、癒しを目的とする “温泉” とが、アスールの中でいまいち結びつかないのだ。


「ねえ、アスール。その “温泉” に光の魔力が含まれているという話をチラッと聞いたのだけれど、それって本当のことなの? 差し支えなければ教えてもらいたのだけれど……」

「光の魔力、ですか?」

「ええ、そう。事実なの?」


 カルロは遠くない将来、あの場所に離宮を建設すると言っていた。

 王家の離宮ができると知れば、その周りに別荘を持ちたがる貴族が出てくるだろう。そうなれば、必然的にその周りに人が集まり始め、物や金が動き出す。その動きがいずれは小さな町を生み出し、そうしてできた小さな町は、普通であれば時間をかけ徐々に発展をしていく。

 ところが、今回の “温泉” に関しては、一足飛びに町を建設してしまおうとカルロは計画している。人が集まりそこに町ができるのではなく、町が先にあれば人も集まってくるだろうとの考えだ。


「事実ですよ。一番小さくて一番温度の高い泉に、かなり高濃度の光の魔力が含まれているそうです」

「それは、病気や怪我をも治せるってことなのかしら?」

「それはちょっと僕にも分かりません。ただ、そのままでは温度が高すぎるので、湯に浸かるには、冷ますか、水で薄めるしないですね。蒸気を浴びる場合は、うーん、魔力はどうなるのでしょうね?」

「つまり、詳しくは何もかも()()()()ってことね?」

「そうですね」

「それを調べて、三人で共同発表するの?」

「光の魔力の件もあるので、どこまでどう公表して良いのかは、父上の判断を仰がないとならないとは思いますが、そのつもりです」

「……そうなのね」


(姉上は、いったい何が知りたいのだろうか?)



「アス兄様。でしたら、夏期休暇の前半はどうなさるの? 今年もまた島へ行く予定はおありですか?」


 声のする方へ目をやると、向かい側に座るローザが、目をキラキラと輝かせながら食い入るようにアスールを見つめていた。


「えっ? 島?」

「はい! 今年もルシオ様と一緒に、レイフ様のあの島へ行かれますか?」

「どうだろう? アレン先生からは、現地調査の日程を聞いただけで、詳しい話はまだ何もしていないから……。行かれるものなら、そりゃあ行きたいと思っているよ。たぶん皆」

「ですよね? 私も行きたいです! ウィリディも連れて!」

「ウィリディを?」

「ええ。連れて行っても大丈夫でしょう?」



 ウィリディとは、ピイリアが産んだ二つの卵のうちの一つから孵ったローザの育てているホルクの雛の名だ。


「レイフ様も島へ連れて行くのでしょう? 私も連れて行って良いですよね?」


 もう一つの卵から孵った雛はレイフが引き取って育てている。


「ピイリアとチビ助も最初の夏に島へ連れて行っているし、連れて歩くこと自体は問題ないとは思うけど……」

「何か別の問題がありますか?」

「島のアルカーノ邸のホルク厩舎で、一度に四羽も預かって貰えるかな、と思って……」


 あの島には普段から三羽のホルクの成鳥が飼育されている。

 厩舎には、手入れの行き届いた清潔な大きな鳥小屋が三つあって、普段はそれぞれに一羽ずつが入れられているのだ。最初に島を訪れた年、一番温厚な成鳥の小屋にピイリアとチビ助は一緒に入れられて過ごしていた。

 翌年からは、鳥小屋の一つがピイリアとチビ助のために解放され、最初の年にピイリアたちと一緒に過ごした一番温厚な一羽は、夏の間ずっと、テレジアのアルカーノ商会本部にもある鳥小屋へと移されているのだ。

 ローザはそういった細かい事情を詳しくは知らない。


「そうだよね。僕たち皆であの屋敷を訪ねるってことは、もれなくホルクが一人につき一羽ずついるってことなんだよね……」

「ですね」

「どちらにしても、レイフからリリアナさんに、前もって四羽のホルクが一緒でも大丈夫かどうかを確認してもらわないと駄目だね」

「……そうですね」


 行くとなれば大事だ。


「そういえば、母上と離宮に行くって話はどうなったの?」


 ローザは少し前まで、パトリシアの体調次第でこの夏は一緒に離宮に行くか、島へ行きたいと言っていた筈だ。


「お母様ははっきりと予定を決められないそうです。私が行きたいところに好きに行って構わないと仰って下さいました」

「それってつまり、母上の体調があまり芳しくないってこと?」

「そういうことではないみたいですよ」

「本当に?」


 パトリシアはあまり丈夫な方ではないのだ。以前も随分と長いこと寝込んでいた時期がある。まさかまた具合でも悪くしているのではないかと思い、アスールは不安になった。


「大丈夫だとお聞きしましたよ」

「聞いたって、誰に?」

「ギルベルトお兄様からですわ」

「兄上から? どうやって? ローザ、最近王宮に帰ってないじゃないか」

「シルフィが時々お手紙を届けてくれますから」

「シルフィが?」

「はい! まだウィリディは無理ですから」


 シルフィというのは、ギルベルトの育てているホルクのことだ。


「ローザ、兄上とホルク便のやり取りをしているの?」

「はい。時々ですけど」

「……そうなんだ。全然知らなかったよ」

「アス兄様のところにはシルフィは飛んで来ませんの?」

「全然! 一度もない! 僕のとこに来るのは、いつもお祖父様からのホルクだよ……」

お読みいただき、ありがとうございます。

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