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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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32 交錯する思い

「今日はよく来たね。二人共、王立学院での生活にはもう慣れたかな?」

「「は、はい!」」

「そんなに緊張する必要はないんだよ。君たちはまだ学生で、この王宮へはアスールの友人として遊びに来たのであって、国家間の重要な案件を解決しに来たわけではないのだからね」

「はい。ありがとうございます」


 この日、アスールはロートス王国から留学生として学院に滞在している、ゲオルグ・フォン・ギルデンと、ウェルナー・ルールダウの二人を王宮に招いていた。


 というのも、アスールが以前ゲオルグから聞いた話を何気なくフェルナンドに話したところ、それを聞いたフェルナンドが二人からもっと詳しい話を聞きたいと言い出したためだ。

 今回もレイフは、相変わらず小さな雛の世話があるので寮を離れられない。

 アスールはルシオと留学生の二人を連れて、週末を利用してフェルナンドに二人を引き合わせる目的で王宮へと戻ってきたのだった。


 ところが、アスールが三人と共に王宮へ戻ってみると、二人から話を聞きたいと言っていた張本人のフェルナンドは “温泉” での視察が長引いているらしく、王宮を留守にしていたのだ。

 おそらくカルロは気を遣ってくれたのだろう、留守中のフェルナンドの代わりとして、公務の合間に時間を調整して留学生二人に挨拶をするために、ルシオの父でもある側近のフレド・バルマーを伴って、わざわざこうして出向いてくれたのだ。


 ゲオルグもウェルナーもガチガチに強張った表情のまま、ソファーに身の置き所がない様子でちょこんと座り、クリスタリア国王の顔を呆然と見つめている。



「目の前に一国の王が突然こんな風に現れれば、いくら緊張するなと言われても……まあ、難しいでしょうね」


 そう言いながらフレドはカルロの横で楽しそうに笑っている。


「そんなものか?」

「普通はそうだと思います」

「ならば、お前の息子(ルシオ・バルマー)()()()()()()と言うことだな?」


 カルロの視線の先で、カルロの視線など物ともせず、ルシオが()()()()()()()お茶とお菓子を堪能していた。


「……まあ、そういうことになりますかね」


 国王とその側近の他愛もないお喋りに緊張が解れたのか、ゲオルグがクスリと笑いをこぼした。


「そうだ! 私も君たちに聞きたかったことがあるのですよ! ()()()がもうすぐ父親になるという話は本当なのですか?」



 フレドが今話題にした()()()というのは、明らかにエルンスト・フォン・ヴィスマイヤーのことを言っている。

 エルンストは今は祖国であるロートス王国へと戻り、正式にヴィスマイヤー侯爵家を継いで王都キールで暮らしているが、ほんの数年前まではここヴィスタルの王城でアスールやローザの絵の教師をし、二人が学院に入学してから後は、フレド・バルマーの元で彼の執務を手伝っていたことがある。

 フレドはエルンストの手腕を非常に高く買っており、当時からエルンストをとても可愛がっていた。


「あの男……。ですか?」


 ゲオルグもウェルナーも突然の話題に顔をポカンとさせ、互いに何の話をしているのか分からないといった表情で見つめあっている。


「アーニー先生のことだと思うよ、きっと」


 アスールが小さな声でゲオルグに助け舟を出した。


「アーニー先生? ああ、ヴィスマイヤー侯爵のこと、ね? はい。父親、なります! 夏の終わり、だと、聞きました」

「ほお、夏の終わりに? ああ、それならもうすぐですね!」

「はい、そうです」

「そうですか! そうですか! エルンストも、ルアンナ嬢も、キールで元気に暮らしているのですね?」

「フレド。ルアンナ嬢ってことはないだろう。彼女も、もうすぐ母親になるんだぞ。既に立派なヴィスマイヤー侯爵夫人だ」

「ああ、確かにそうですね!」


 カルロもそうだがアスールも、エルンストの妻となったルアンナのことに関しては話を聞くだけで、直接は面識がない。

 今この部屋にいるクリスタリアの者でルアンナを実際に目にしたことがあるのは、昨年の夏にギルベルトと共にハクブルム国とロートス王国を訪問したフレド・バルマーただ一人なのだ。


「フレドにとってエルンストは、もう一人の息子みたいな感覚なんだろう? 違うか?」


 フレドがエルンストを可愛がっていたことをよく知るカルロがそう言った。


「息子? 息子……。まあ、そうかもしれませんね……」

「だったら、もうすぐ、バルマー侯爵はおじいちゃん、ですね!」


 ゲオルグが辿々しいクリスタリア語でフレドにそう言った。


「おじいちゃん? あははは。おじいちゃんか……。それも良いですね!」

「ならばフレド。近い将来、その初孫の顔を見るために、あの国を再び訪れねばならんな?」

「そうですね、陛下」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「国王陛下というのは、皆、ああいう感じなのかな?」

「国王かぁ……。どうなんだろうね。僕には正直想像もつかないよ。ロートス王国では、もう随分と長いこと国王不在が続いているからね……」

「国を動かす人たちって、あんなに穏やかで優しそうな人たちでも大丈夫なんだね。権力者って、もっとこう、激しくて、強引で、少し嫌な感じなのかと思っていたよ……」

「もしかして、アスールとルシオの父上たちのことを言ってる?」

「そうだよ。凄く優しくて温かい人たちだったから驚いた。わざわざ忙しい公務の時間を削ってまで僕たちに会いに来てくれるとは思わなかったし」

「そうだね。でもそれだけじゃないと思うよ。優しいだけでは国は動かせないでしょ?」

「まあ、そうだとは思うけど……」



 ゲオルグ・フォン・ギルデンと、ウェルナー・ルールダウの二人は、この夜、ヴィステル城の客間に泊まっていた。

 明日はアスールとルシオの案内で、ヴィスタルの街を皆で散策することになっている。

 ルシオ・バルマーも今回は珍しく「一緒に泊まる!」と我儘を言って父親と押し問答を続けていた。おおかたフェルナンドが王宮を不在にしていて、翌朝の剣の訓練はないとの確信があるからだろう。

 だが、流石のルシオもやはり舌戦ではあの父親には敵わなかったようで、最終的には馬車に押し込まれ自宅へと帰って行ったのだ。



「亡くなられたヴィルヘルム陛下は、カルロ陛下の友人だったって聞いたけど、もしもご健在だったら、きっとロートス王国とクリスタリア国の両国は、今よりもっと交流があったりしたのだろうね」

「そうかもしれないね」

「亡くなられた王妃様、スサーナ様は、確かクリスタリア国の王族だったよね?」


 ゲオルグがウェルナーに尋ねた。


「そうだよ。カルロ陛下の従姉妹だった筈だよ。王太子だったヴィルヘルム陛下がスサーナ様に惚れ込んで、強引にロートス王国へと連れ帰ったって聞いたよ」

「君の母上から?」

「そう。父上がそう言っていたって」



 ウェルナー・ルールダウの父親は、ヴィルヘルム・フォン・ロートスがクリスタリア国に滞在していたあの当時、彼の護衛騎士として同行していた一人だ。

 あの政変で、護衛騎士だったウェルナーの父親もまた、ヴィルヘルムと共に命を落としている。



「この国は、平和で豊かで安全で、本当に良い国だね」

「そうだね。僕もそう思う」

「ヒルデグンデ様がクリスタリア国への留学を僕たちに勧めて下さった理由は、ロートス王国ではない他所の国を知ることで、我が国の実情を理解させたかったのかもしれないと、今、僕は思っているよ」

「我が国の実情って? ウェルナー、それってどういうこと?」

「この国に来てみて初めて気付いたよ。僕たちの国、ロートス王国は少し歪んでいる。君はそうは思わないかい?」

お読みいただき、ありがとうございます。

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