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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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閑話 ラモス・バルマーの独白

 僕の名前はラモス・バルマー。バルマー侯爵家の長男。十八歳。


 今日は先王のフェルナンド様からの呼び出しを受けて、王宮府副長官でもある父上と一緒に王宮へ出向いた。

 その場に、まだ学生であるにも関わらず弟のルシオも同席を許されたのは、おそらく呼び出しの内容が、先日発見されたばかりの東の鉱山近くの “温泉” の件だからだろう。

 ルシオは第三王子のアスール殿下と、昨年スアレス公爵家と養子縁組をしたレイフ・スアレスとの三人で、学院の教師一人の手も借りこの “温泉” の水の成分を調べ、研究成果を発表をするつもりらしいのだ。

 王立学院の最終学年生には、希望すれば卒業前に自分の研究を発表することのできる場が設けられている。


 レイフ・スアレスは元々はアルカーノ商会の三男だ。

 平民でありながら、アスール殿下と魔導実技演習でずっと同じクラスらしく、第一学年の頃からアスール殿下ととても親しく付き合っていた。

 弟のルシオもアスール殿下を通じて彼と親しくなり、夏期休暇には、彼の家が所有する島へ長期間出かけて行って滞在したりと、今では驚くほどの親密さだ。


 そういえばルシオは、昔から人の懐に入り込むのが上手かった。

 僕は初対面の人間が苦手なのだが、ルシオは違う。ルシオは誰にでも懐っこく近付いていった。


 それはもう、かなりのお喋り上手で、聞き上手。

 その日一日に彼の身に起きたこと、見たこと、聞いたこと、知ったこと、感じたことの、一から十まで全てを話さないと気のすまない性格だった。

 なんなら自分の推測や憶測まで合わせて、十二か十三くらいは毎晩夕食の席か、それでも足りなければ寝る前まで喋り続けるような弟だ。

 それが、ただの無駄なお喋りではなく、妙に的を得ていたり、どこから仕入れて来たのかと驚くような新情報だったりする。

 そういうところは、ルシオは父上に似ているのかもしれない。



 案の定、話し合いの場にはルシオと一緒に共同研究をするアスール殿下と、その研究の手伝いをしてくれている学院教師のアレン・ジルダニア先生の姿もあった。

 ルシオの話によると、レイフ・スアレスはアスール殿下のホルクとルシオのホルクの間に産まれたホルクの雛を引き取ることが決まったばかりで、その世話をするため今日の呼び出しには応じられなかったそうだ。


 話が進む過程で、今回発見された温泉に “光の魔力” が含まれているという情報が明かされた。

 これは、ルシオたちが先日温泉を調査しに出かけ、温泉各所から持ち帰った水の成分分析をしている時に分かったことで、詳しい解析を魔法師団本部が行ったと陛下が仰った。

 その話を聞いた途端、ジルダニア先生の顔色が変わったのだ。

 先生は、怒りと失望と不快感を混ぜ合わせたような表情になり、驚いたことに皆の前で王家の秘密主義を批判するような言葉を発し、その場から立ち去ろうとしたのだ。


 アレン・ジルダニアという先生は、元魔法師団の研究者で、五年前から学院の教師をしている。

 その経歴もせいもあるだろうが、あまり教師らしくない教師として学院ではそれなりに有名だ。言葉使いは非常にストレートで、本人が割と知られた伯爵家の一員というのもあるかもしれないが、誰に対しても遠慮がない。

 それでも、陛下や先王の前で取るべき態度ではない。関係のない僕の背中にまで冷や汗が流れた。


 その後、フェルナンド様が「今からが本題なのだから」と先生が帰ろうとするのを引き留め、話は思わぬ方向へと舵を切った。


 陛下の口から発せられたのは、光の女神ルミニスに仕えていた神獣ティーグルが実在すると言う驚くべき真実!

 それも、神獣は第三王女のローザ様と数年前に既に契約を交わしていて、ローザ様は本当は地属性ではなく光の属性の持ち主で、力を失いつつあった神獣はローザ様の魔力を分け与えて貰うことで力を回復していて、今は猫のような姿でローザ様と共に学院の東寮で一緒に暮らしていると言う。

 もう何がどうなっているんだ?



 そんなことよりも、僕を一番驚かせたのは、もうこの事実をルシオがとっくの昔に知っていたことだ。


 あの酷くお喋りな弟が、知った話をなんでも家族に話したがる弟が、ちゃんと友人と、その家族に関わる重大な秘密を喋らずに守っていた。

 ルシオはいつの間にかペラペラとなんでも喋ってしまう、小さな弟ではなくなっていたんだ。


 ルシオと父上の二人が知っていて、僕だけ蚊帳の外だと分かった時は結構ショックだったけど、弟の成長を実感して、兄として少し誇らしくも感じたよ。



 今後、ルシオは第三王子のアスール殿下の側近候補として、アスール殿下と共に歩いていくのだろう。

 僕も同じだ。第二王子のギルベルト殿下の側近候補として、彼の親友として、ギルベルト殿下と共に進んでいく。

 まずは殿下と共に “温泉” の町作りに尽力しよう。僕にできることを、一歩一歩着実にね。

お読みいただき、ありがとうございます。

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