閑話 カレラ・バルマーの独白
私の名前はカレラ・バルマー。バルマー侯爵家の長女。十三歳です。
実は今日、第三王女のローザ様と一緒にリルアンの町へ出掛けて来ました。
私たちがリルアンへ向かったのには理由があるのです。私の妹のマイラが、先日突然「どうにかして友人を助けたい!」と言い出しました。
詳しい話を聞いたところ、マイラが助けようとしているその友人というのが、先日第二王女のベアトリス様と並んで階段を上っていたマイラのことを引っ張って、危うくマイラが大怪我をするところだった(結果的にはベアトリス様の側仕えの方がマイラを庇って怪我を負われました)原因を作った、例の侯爵令嬢だと言うではないですか。
マイラは物静かで、謙虚で、礼儀正しく、いつも自分よりも他人を優先するような、凄く人柄の良い妹なのです。
私はマイラのその優しい性格が大好きです。ですが、率直に言って、人が良いにも限度というものがあると私は思います。
相手は、人のことを階段から引っ張り落とそうとした上に、そのことに対して謝罪すらできないような人物なのですよ。助けたい? 何を言っているのかと耳を疑いました。
腹立たしい気持ちをグッと堪えてよくよくマイラから話を聞いてみると、その令嬢は新しいクラスでも浮いてしまっていて、最近では学院の授業を休みがちなのだそうです。
ただ、その原因が本人にあるのではなく、彼女の祖母に由来するとマイラは主張します。自分の意見を述べることが苦手なマイラにしては珍しくです。
確かにその令嬢の祖母という人物には、マイラが言うように非常に問題が多いことを私も認めざるを得ません。
その人物は、マイラを庇い怪我を負ったベアトリス様の側仕えのアニタ様の代わりとして、ある日突然学院の寮にやって来ました。
ゴテゴテとした装飾がついたドレスをお召しになり、大きくて派手な髪飾りをつけた侯爵家のご婦人は、到着初日に東寮の管理人さんをまるで自分の使用人のように扱い、初っ端から東寮に暮らす寮生たちの反感を買いました。
その後も、とある男爵家の令嬢と揉めたり、いろいろと問題のある人物です。
不思議なことに、第二王女のベアトリス様は、新しい側仕えの方に対して特に何かを言うでもなく、普通に接しているように見受けられます。
真っ直ぐなベアトリス様の性格からして、私はてっきり、すぐにその側仕えの方と揉めるか、辞めさせるかするものと思っていたのですが……。
それはさて置き、マイラは部屋に引き篭もってしまっているその友人を、どうにかして普段の生活に戻してあげたいようなのです。
このままその友人が学院の授業を欠席し続ければ、彼女は成績不振で進級できなくなるか、自主退学に追い込まれるでしょう。
友人がそうならない為にマイラが考えた作戦は、第三王女のローザ様の名前を使って、その友人を呼び出すことでした。
王女殿下からの誘いを断れる人などそうは居ないとマイラは言うのです。確かにそうかもしれません。
マイラからその話を聞いたローザ様は面白がって、マイラの作戦に乗って下さいましたが、王女であるローザ様をゴタゴタに巻き込むだなんて、全く、マイラは勇気があると言うか、無謀と言うか……。
それでも作戦は功を奏して、その友人をリルアンへと連れ出すことに見事成功しました。
一緒の馬車に乗り、リルアンの町を散策して、甘い木の実を食べ、買い物もしました。それから食事をしながら、四人で多くを語りました。
私は、マイラが助けたいと言った友人に対して、正直かなり憤りを感じていました。今回、私がマイラの提案に乗ったのも、彼女に対して文句の一つでも言ってやりたいとの思いがあったからです。
ところが会って直接話を聞いてみると、彼女の家の事情や、家族関係の希薄さを知り、更には、自分の心の狭量さを思い知らされる結果になるのです。
それから、如何に私が温かい家族の中で、優しさと愛情に包まれながら幸せに育ったのかを再確認しました。
おそらく、今日を境に、マイラの友人は変わるでしょう。
しばらくは辛くても、明日からはきちんと学院の授業にも出席することでしょう。彼女なりに、頑張る目的を見つけたようですから。
たぶんですが、その友人だけでなく、マイラの方もいろいろと良い方向に変わりそうな予感がします。
ならば、私も変わらなくてはなりませんね。
今までももちろん努力はして来たつもりですが、これからも精進して、妹から尊敬され続ける姉で居なければなりませんからね。
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