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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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11 新たな問題(2)

 翌朝。まだ他人の部屋を訪ねるにはかなり早い時間にも関わらず、アスールの部屋の扉をノックする音がする。

 アスールの支度を手伝っていたダリオが慌てて扉を開けに行く。ダリオの後ろからアスールの部屋へと入ってきたのは、肩にチビ助を乗せた、まだ眠そうな顔のルシオだった。


「おはよう! アスール、チビ助が王宮から戻って来たよ!」


 大きな欠伸を連続でした後で、ルシオが持っていたフェルナンドからの手紙をアスールに手渡した。

 ダリオはルシオからチビ助を受け取ると、籠から干した果物を一つ取り出してチビ助に顔の前に差し出している。チビ助は嬉しそうにダリオの手からそのご褒美を貰っている。

 ダリオは籠からもう一つ果物を取り出すと、チビ助を連れたままベランダへと出て行った。このままピイリアのいる鳥小屋へチビ助を入れるつもりのようだ。



「フェルナンド様からの返事だよね? 何て書いてある?」

「ええと……。あ、これ、お祖父様ではなくて、兄上の字だ」

「ギルベルト殿下?」

「そうだよ」


 そう言って、アスールはぎっしりと小さな字が書かれている小さな紙をルシオに見せた。


 ホルク便で手紙のやり取りをする場合、ホルクの足に取り付けられた小さな筒に入る大きさの紙を使う為、だらだらと長い文章を書くことはできない。

 大抵の場合、用件だけを簡略化した手紙を入れるのだ。

 どうしても長い文章を相手に送りたければ、紙の両面を使い、びっしりと細かい文字で、この手紙のように隙間なく書きこむしかないのだ。



 ギルベルトによって書かれたフェルナンドからの手紙のおおよその内容はこうだ。


 サスティーの存在に関しては、現在の生息地、見た目などの()()()()()()()()()であれば、アレン・ジルダニアに伝えても構わない。

 ただし、テレジア近くにある島とだけ伝え、正確な場所を教えてはならない。

 アレン・ジルダニアには、勝手にサスティー探しの旅に出ないことを約束させる。

 他の者に、今回知り得た神獣サスティーに関する情報を流すことを禁じる。

他の神獣に関しての情報は今は与えない。レガリアの存在とローザの魔力属性に関しては絶対に隠すこと。



「フェルナンド様も、変に隠し立てをしてもアレン先生が絶対に納得しないだろうと思っているんだろうね」

「そのようだね。それにしても、勝手にサスティー探しの旅に出るな! って……」

「だって、アレン先生なら、止めなきゃ授業を放り出してでも行っちゃいそうだよ」

「かもね。何と言ったって、鉱山の時の前例があるしね」

「そうだよ! あの時は、勝手に作業員たちの馬車に乗り込んで来たんだったよね?」

「はぁ、でもこれで、今日の放課後もいつも通りに研究室に行かれるね」

「確かに! 昨日は僕たち、逃げるようにして研究室を出てきちゃったからね」

「そう、そう!」



「アス兄様!」


 問題が一つ解決して、晴れやかな気分でルシオと共に階段を下りて食堂へと向かっていたアスールに、食堂の入り口でアスールが下りて来るのを待ち構えていたらしいローザが声をかけてきた。


「おはよう、ローザ! もしかして何かあったの?」

「おはようございます、お兄様。ええ、実は……少し、お兄様にお話をしておきたいことがあるのです。今日の放課後、お時間を取って頂いてもよろしいですか?」

「放課後か……。今、アレン先生の研究室で例の水の解析作業をしているんだよね。急ぎなの? 今日の方が良い?」

「はい。可能でしたら早い方が……」

「じゃあ、夕食後に談話室で話すのはどう? 二人で?」

「はい。それでお願いします」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「あれ?今日はアレン先生……もしかして居ないの?」

「……アスール。これ見てよ!」



 放課後、アレン・ジルダニアの研究室へと向かった三人は、研究室の扉に貼り付けられた走り書きのメモを見つけた。


「魔法師団本部へ行って来る。戻りは三日後。日々のノルマを(こな)せ! 鍵は隣の研究室に預けてある。アレン・ジルダニア。だって」

「魔法師団本部? 何かあったのかな?」

「どうだろうね。いろいろと話すつもりでそれなりの覚悟をして来たのに。なんだ、居ないのか……」

「取り敢えず、隣の研究室に行って、鍵を借りて来よう」

「そうだね。きちんとノルマを達成しておかないと、帰ってきた先生に何を言われるか分かったもんじゃない」



 この日もアスールとレイフとルシオの三人は、手分けをして東の鉱山近くで発見された泉の各所から汲んできた水の成分分析を進めている。


「まだ全部を調べ終えたわけじゃないけど、ここの泉の水って魔力を帯びてるよ。特に、一番温度の高かった泉の水、魔濃度が高い気がするんだけど……」


 計測器を覗き込んでいたレイフが言った。


「魔濃度が高い?」

「まさか光の魔力だったりしないよね?」


 ルシオがクスクスと笑いながら尋ねた。


「時々あるっていうじゃない、そういう水が。大抵は教会が管理している()()()()()()。“奇跡の泉” とか “神の流した涙” とか言うんだよね? てっきりお布施を集める目的で、適当なこと言っているだけだと思ってたけど」

「ルシオ。それは思っていても、口にしたら駄目なやつだよ……」


 ルシオが言った “奇跡の泉” と “神の流した涙” というのは、それぞれ別の場所にある教会が管理する小さな水源の別称で、そこの水は光の魔力を帯びていて、怪我や病気を癒すことができるとされている。

 両方とも王都からはかなり離れた地にあるので、アスールも噂程度の話でしか知らないが、信仰の対象になっているらしい。


「アレン先生から借りているこの装置だと、水に魔力が含まれるってことは分かるけど……。それがどんな属性かまでは調べられない」

「なんだ、そうなの?」



「ねえ、レイフ。そういえば、第一学年の時に、アレン先生が学院内の泉の水を調べていたの、覚えてる? ほら、疲労回復の効果があるか調べたいって」

「ああ、あれね。もちろん覚えているよ! でもさ、結局盛り上がった挙句『気のせいだった』って結論になったよね、確か」

「そうなんだけど……」



 アスールたちが第一学年の頃、魔導実技基礎演習の授業で、水属性クラスを担当していたアレン・ジルダニアが、学院の敷地内にある泉の水を学生たちに実験台だといって飲ませたことがあった。

 あの時は確か、七人いた学年のうち、五人が疲労回復効果がある、一人が分からない、二人が効果はないと答えている。

 アスールはあの泉の水を飲んで、初級回復薬を飲んだ時に近い感覚を感じた。


 だが、それから何度目かの授業の時「調べた結果あの泉の水にはなんの効果も効能も無いとこが分かった」と先生は言ったのだ。

 「散々歩かされた後に冷たい泉の水を飲み、疲労回復効果があると勘違いしたのだろうとの結論に至った」と。



 後になって知ったことだが、あの泉は、レガリアが三百年以上前の王、アルギス・クリスタリアによって光の魔石の中に封じられて、次なる強力な光の属性を持つ者が現れるのを待ちながら、長い眠りについていた場所なのだ。

 泉の水に光の魔力が溶け出し、疲労回復効果があっても不思議ではない。


 だが、アレン・ジルダニアは意図的に水の効能を隠し、学年たちには「気のせいだった」と伝えた。

 その隠蔽がアレン本人の意思によるものか、それとも別の誰かの意図によるものなのかは、アスールには知る由もない。


「魔力の含まれている水かぁ……。ねえ、レイフ。その装置を使って水を調べるように君に指示したのは、アレン先生だよね?」

「そうだよ」

「先生は、泉の水に魔力が含まれている可能性のあるって、最初から考えていたってことかな?」

「どうだろう。でも、その可能性はあるかもね」

お読みいただき、ありがとうございます。

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