閑話 ウェルナー・ルールダウの独白
僕の名前はウェルナー・ルールダウ。十四歳。
この春から、クリスタリア国にあるクリスタリア王立学院に、一年間の予定で留学中なんだ。
僕の国は、ここクリスタリア国から遠く離れたロートス王国。僕は、友人のゲオルグ・フォン・ギルデンと二人だけでこの国にやって来た。
僕が留学先としてクリスタリア国を選んだのには訳があるんだ。
僕の父上が、ずっと昔にクリスタリア国に一年程滞在したことがあって、この国のことをいつも懐かしそうに語っていたって話を、僕の母上から何度も何度も聞かされて育ったからなんだ。
その父上は、僕がまだ一歳になっていない頃に亡くなっているんだけどね。
亡くなった僕の父上は、前のロートス国王ヴィルヘルム陛下がまだ王太子だった頃、彼の護衛騎士をしていたんだ。
ヴィルヘルム殿下が見聞を広めるために出られた各国への訪問に、父上は護衛騎士として同行したんだって。
途中で立ち寄ったクリスタリア国を気に入ったヴィルヘルム殿下は、そのままクリスタリア国に一年程滞在したんだそうだよ。
殿下と同じように僕の父上も気に入っていた国だから、きっと素晴らしい場所に違いないと思って、いつか父上がそれ程までに気に入っていた国を自分の目で見るために、僕はクリスタリア語を学びはじめたんだ。
僕の生まれ育ったロートス王国は、僕が生まれてすぐの頃、大きな事件があって……。
その時にヴィルヘルム陛下も、スサーナ王妃殿下も、ローザリア王女も、それから、僕の父上も亡くなった。と言うか、頭のおかしいノルドリンガー帝国の奴らに殺された。
他にも、当時王宮に居ただけの何の罪も無い大勢のロートス貴族たちや使用人たちが殺された。
犯人たちは既に全員殺されているから、どうしてこんな酷いことをしたのか、本当の理由は分からない。悔しいけれど、もう永遠に分からないままだろうね。
父上が亡くなって、残された母上は子どもたちを連れて、自分の実家を頼ったんだ。それが今一緒に留学中のゲオルグの家。
ゲオルグの家は、キールから遠く離れたのんびりとした穀倉地帯に領地を持つギルデン公爵家。
僕の母上は、前ギルデン公爵の長女で、今のギルデン公爵(ゲオルグの父上)の姉なんだ。
だから僕は、幼少期はずっとゲオルグと一緒にギルデン公爵領で育ったんだ。僕とゲオルグは、実際には従兄弟同士だけど、殆ど兄弟みたいな関係なんだよ。
三年程前に僕の一番上の兄がルールダウ侯爵家を正式に継いで王都キールに戻って来るまで、僕たちはずっとギルデン領で暮らしてた。
ギルデン寮内には学校が無かったから、子どもたちには皆それぞれに家庭教師がいて勉強を習っていた。僕は王都に戻って、初めて学校ってものに通ったんだよね。
家庭教師に勉強を習うのもそれはそれで良いけれど、学校ってところは良いよ。
何より良いのは、同じ年齢の沢山の友人ができることかな。中には考えや意見の合わないのも居るけどね。
僕にクリスタリア国への留学を提案して下さったのは、実は、お亡くなりになったヴィルヘルム陛下の母君。ヒルデグンデ王太后様なんだ。
ヒルデグンデ様は陛下の護衛騎士としてクリスタリア国に滞在していた父上のことを覚えて下さっていて、留学生として丁度良い年齢だった僕に話を振って下さったみたい。
クリスタリア王立学院の留学生の受け入れ条件が、クリスタリア語で行われる授業に付いていかれるだけの語学力!ってことだったらしいんだけど、僕は幸運なことに以前からクリスタリア語を真剣に学んでいたから、そこは凄く運が良かったと思う。
ヒルデグンデ様から「もう一人誰か一緒に留学できる」って言って頂けたので、僕は迷わずゲオルグを誘ったんだ。
ゲオルグはそれまでクリスタリア語を全く勉強していなかったから、どうなることかと凄く心配したけど、留学準備のためにゲオルグが王都に出て来てからの半年間で、彼は驚くほどのスピードでクリスタリア語を習得していった。
先生が良かったって言うのも大きいと思う。
ゲオルグにクリスタリア語を教えたのは、最近ロートス王国に戻って来た、侯爵家を継いだばかりの人物だったんだ。
彼の名は、エルンスト・フォン・ヴィスマイヤー。
彼の父親は元ロートス王国の宰相閣下。やはりあの事件で亡くなっているんだそうだよ。
実は、ヴィスマイヤー侯をゲオルグのクリスタリア語教師に推薦して下さったのもヒルデグンデ様なんだ。
僕たちが今こうしてクリスタリア王立学院で楽しい毎日を過ごせているのは、ヒルデグンデ様のお陰でもあるね。
まだ留学生生活は始まったばかりだけれど、本当に王立学院での毎日は楽しいよ。
友人もできた。
つい先日は、その友人たちを僕たちが暮らしている離れに招待したんだよ。
そのうちの一人が持ってきてくれた凄く美味しい焼きたてのお菓子を食べながら、僕の淹れたお茶を飲んで、五人でずっと長時間、本当に時間を忘れて喋り続けた。
多くをクリスタリア語で、時々、僕たちの国の言葉であるゲルダー語も交えて。
きっと彼らとは、留学を終えて僕たちがロートス王国に帰ったとしても、ずっと良い友人関係を築けると思う。
と言うか、そうありたいと僕は願ってる。
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