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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
335/394

 6 点と点とまさかの接点

 ロートス王国からの留学生ゲオルグ・フォン・ギルデンは、エルンスト・フォン・ヴィスマイヤーの教え子だった。


「え、えっ、ええっ? もしかしてゲオルグは、クリスタリア語をアーニー先生に教わったの?」

「アーニー先生? その人。僕、知らない」

「ああ、ごめん。アーニー先生っていうのは、エルンスト・フォン・ヴィスマイヤー侯のことだよ」

「ああ、そう? そうだよ! 彼は僕にクリスタリア語を教えた。アスールの知り合いでしょ?」



 こんなことって、本当にあるのだろうか?「世界は狭い」とはよくいったものだ。

 あははは。

 座っていたベンチの背もたれに思い切り身体を預け、春の澄み切った広い空を見上げながら、アスールは声をあげて笑った。

 突然のことに、ピイリアが肩から飛び立った。


「あの、アスール? 君、大丈夫?」

「ああ、うん。大丈夫だよ。なんだか凄いなって思って……。何のことか分からないよね、ごめんね」

「……うん」



 アスールには、ゲオルグがどこまで自分とエルンストの関係を知っているのか分からなかったが、なんだか、そんなことはどうでも良いような気がしてきた。

 そもそも、エルンストがアスールにとって害となる人物に、わざわざクリスタリア語を教えるはずなどないということだけは信じられる。



 その時、東寮の方からこちらに向かって走って来る人影が目に入った。


「あっ。ルシオだ!」


「アスール! なんだよ、もぉ。こんなところに居たの?」


 ピイリアがルシオの肩に降り立つ。


「ピイリアも! 全然帰って来ないから心配してたんだよ!」

「ピイィ」

「別に何かトラブルがあったわけじゃないよね?」

「ああ、ごめん。何もないよ、心配ない。そうだよね、すっかり遅くなっちゃったね。もう部屋に戻らないと!」


 アスールは慌てて立ち上がった。

 ゲオルグは二人の早いスピードの会話が聞き取れないらしく、何が起きているのか分からないという表情を浮かべて、目の前のアスールとルシオを交互に見ている。


「ルシオ。こちら、ゲオルグ・フォン・ギルデン。ほら、同じクラスの留学生」

「ああ! よろしく。僕はアスールの友人のルシオ・バルマー。戻って来ないと思ったら、ここで一緒に話し込んでたんだね?」

「よろしく、ルシオ。僕とも友人に、なって良い?」

「ん? ああ、もちろんだよ」


 ルシオとゲオルグはガッチリと握手を交わした。


「あのね、ゲオルグ。悪いけど僕たちは部屋に戻るよ。実はピイリア、あっ、ピイリアっていうのはこのホルクの名前ね。ピイリアは今、卵を温めているんだよ」

「そのホルク、卵を、産んだの?」

「そう! 今は番のホルクが代わりに卵を温めているんだけど、そろそろ戻らないと駄目な時間みたい。僕の言っていること、分かる?」

「ああ、うん。分かるよ。もう帰る時間、だね?」

「そう!」

「僕、君たちと、また話したい。ウェルナーは、もっとクリスタリア語が上手。だから……」

「そうだね。また話そう! 明日のお昼ご飯を皆で一緒に食べるのはどうかな?」

「それ、良いね!」



「ピイリアはこのまま部屋へ先に戻って良いよ! ダリオがベランダに居る筈だからね」

「ピイィ」


 アスールがそう声をかけると、ピイリアはルシオの肩から飛び上がり、あっという間に高度を上げると、寮の向こう側へと飛んで行ってしまった。


「じゃあ、明日、学院で」

「分かった! また明日」


 アスールとルシオは、ゲオルグに別れを告げると寮に向かって走り出した。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「お祖父様。これ、アス兄様からお祖父様に手渡すようにと頼まれました」

「おっ。すまんな、ローザ。ありがとう!」

「お祖父様は、なんだかお忙しそうですね」

「ああ、確かに最近少しゴタついておるな」

「本当はこれ、昨日お渡ししたかったのですけど……」


 ローザは昨日学院から王宮へと戻るとすぐに、頼まれた物を渡そうと思いフェルナンドを探したのだ。結局フェルナンドは夕食の席にも現れなかった。


「ああ、すまん、すまん」



 東の鉱山近くに見つかった泉の調査を終えて、アスールたちが入学式ギリギリに学院に戻ると、アスールの荷物の中にフェルナンドが王宮へ持って帰る筈だった物が紛れ込んでいたのだ。

 ローザは抱卵中のピイリアがいるため寮を離れられないアスールから、その荷物をフェルナンドに届けて欲しいと頼まれていた。


「お祖父様。それ、なんですの?」

「これか? 新しく見つけた泉の周辺の見取り図じゃよ。今からカルロたちにこれを使って泉の説明をするんじゃが、興味があるなら、ローザも儂と一緒に来るか?」

「はい!」


 フェルナンドはカルロの執務室へとローザを連れて行った。光の日の午前中だというのに、執務室にはカルロの他に、ギルベルトと、バルマー侯爵家の父子も顔を揃えている。


「おや、ローザも来たのか?」

「はい。お祖父様が泉の見取り図を見せてくださると仰るので……。ご一緒してよろしいですか?」

「「もちろん」」


 皆が笑顔でローザを迎え入れる。どうやら()()という感じでもなさそうだ。


「ほら、ローザ。この大小三つあるのが泉じゃよ」


 フェルナンドがローザから受け取った見取り図をテーブルに広げ、泉を指し示した。


「確か “温泉” というのですよね? 水ではなくてお湯が湧き出ているのでしょう?」

「そうじゃよ」

「面白いですね」



 カルロはフェルナンドから泉の周辺の調査状況を聞いた後、アスールたちが学院に持ち帰ったサンプルの解析が終わるのを待って、泉の近くに新しく王家の離宮の建設を始めると宣言した。


「離宮を建てるですか? 新しく?」

「そうだ」

「……もう何ヵ所も離宮が既にあるのに?」


 ローザが不思議そうな顔をする。


「ここは、特別な場所だからな」

「特別?」

「東の鉱山で取れる鉱石は特殊な魔導石でな、もう長いこと、王家に近い少数の者だけしか東の鉱山への立ち入りを許していない。今後もその方針を変えることはないじゃろう。つまり、関係ない者を鉱山に近寄らせたくはないということじゃ」


 フェルナンドが隣に座るローザの頭にそっと手を置いた。

 流石のフェルナンドもアスールやギルベルトに対してそうするようにガシガシと豪快にローザの頭を撫でることはしない。


「温泉に何らかの価値があることが分かれば、自然と人が集まって来る。それなら、何も知らぬ者が鉱山に近付かぬように、前もって鉱山には近付けないようにしてしまえば良い」


 カルロが話を続ける。


「鉱山と泉の間に離宮を建ててですか?」

「そういうことだ」

「あの感じだと、良い町ができるぞ。アスールが言っていたように温泉に傷や病気を癒す効果があると分かれば、入浴施設を作るのも良いな。道路の整備もせねばならんし、宿泊施設も必要じゃ。忙しくなるぞ、ギルベルト」

「はい!」


 ギルベルトが力強く返事を返す。


「あの、どうしてギルベルトお兄様が忙しくなるのですか?」

「ギルベルトと、そこに居るラモス・バルマーとが中心となって、あの場所の今後の開発をしていくことが決まったんじゃよ!」

「そうなのですか?」

「数年規模の大事業になるじゃろうな。楽しみだ!」


「そろそろ私は次の案件を片付けないと……」


 そう言いながらカルロが立ち上がった。


「例のベアトリス絡みの件か?」


 フェルナンドが渋い顔をする。


「まあ、そうですね。怪我人も出ていますし、今後のことも含めて早く手を打たねばなりませんから……」

「そうじゃな……」

「それに、午後はジング王国からの留学生とも会わねばなりませんしね」

「おお、そうじゃったな。確か、第四王子だったか? 今日も忙しい一日になりそうじゃ」

「そうですね。まあ最近は、忙しくない日なんて、すっかりなくなりましたけどね」

お読みいただき、ありがとうございます。

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