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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第六部 王立学院五年目編
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 1 波乱の新学期

 アスールとレイフとルシオの三人は、入学式の前日、寮の門限ギリギリになってようやく王立学院へと戻ってきた。


 この長期休暇を利用して、アスールたち三人は、東の鉱山近くに見つかった泉の調査にフェルナンドと共に出向いていた。

 学院の最終学年の研究発表の場で、この国には無かった “温泉” というものを取り上げ、三人の共同研究という形で発表したいと考えているのだ。

 アドバイザーとしての協力を取り付けることができたアレン・ジルダニアの指示のもと、三人は数日間森の中を泥だらけになりながら歩き回り、皆でサンプルとなる土や、泉の水を採取した。


 無事に第一回目の採取を終え、ヴィスタルへの帰り道。

 苦労して集めた液体入りの瓶が、馬車の揺れで割れる恐れがあることが判明した。対策を取ってはみたが効果は無く、結局は馬車をゆっくり走らせるしか方法は無い。

 結果、帰り道は想定していたより大幅に時間を要してしまうことになった。



「てっきり本日は、もうお戻りにならないのかと思っておりました」


 東寮の管理人をしているマルコ・ガイスが、そう言いながら皆の分の寮の部屋の鍵をまとめてカウンターに置く。

 ルシオは帰寮がギリギリになってしまったことで、口うるさい管理人からからくどくどと嫌味を言われるだろうと覚悟していたのだろう。あまりにもあっさりと鍵を渡されたことに、肩透かしを食らったような顔をして、逆に戸惑っているように見える。


「昨日といい、今日といい。はぁ、まったく。王家のお子たちときたら……」

「えっ?」

「あああ、いえ。こちらの話です。どうかお気になさらず」


 そう言いながら、マルコ・ガイスはいつものように上着のポケットからハンカチを取り出して手を拭うと、そのハンカチを折り目正しくたたみ直して、再びポケットへと戻した。


「今からお夕食を召し上がるおつもりでしたら、どうかお急ぎ下さい。食堂の終了時間が迫っておりますので」

「「「はい」」」



「何かあったのかな?」


 荷物を抱え、階段を上がりながらレイフが言った。


「さっきの管理人さんの台詞でしょ?」

「そうだね。あの感じだと、昨日ローザちゃんか、ベアトリス様が、絶対に何かをやらかしているよね」

「……僕もそう思う」

「何があったかは、じきに分かるよ。兎に角今は急ごう。荷物を置いたらすぐに食堂へ行かなくちゃ」

「そうそう。まずは腹ごしらえだよね。夕食抜きで寝るなんて、絶対に耐えられないから!」




「アス兄様!」


 三人が食堂へ入って行くと、それに気付いたローザがこちらに向かって手を振っているのが見える。ローザと一緒に居るのはルシオの二人の妹カレラとマイラだ。アスールも笑顔で三人の方に手を上げた。


 食事を受け取るカウンターには既に並んでいる人もいない。食べ終わって部屋へと戻っている者が多いのか、食堂は閑散としている。


 アスールたちは食事を受け取ると、ローザたちの座っているテーブルの隣を目指した。


「おかえりなさい。随分とギリギリの帰寮ですね」

「いろいろとあってね。戻って来るのに、凄く時間がかかったんだよ」


 ローザたち三人は既に食事を終えていて、食器も全て片付け終わっている。


「もしかして、僕たちを待っていてくれた?」

「はい。ここで待っていれば絶対に会える筈だと、カレラ様がそう仰るので」


 そう言ってローザがクスリと笑った。その横でカレラが満足そうに頷いている。



 ルシオのすぐ下の妹のカレラは、アスールとルシオと同じように、入学時からずっとローザと同じクラスなのもあってとても仲が良い。

 アスールの知る限り、ローザは学院でも寮でも大抵はカレラと一緒に行動しているようだ。


 バルマー侯爵家の末っ子のマイラは、ローザたちの一つ年下。

 マイラはカレラと比べると、と言うよりは個性的で優秀なバルマー家の他の兄姉たちと比べると、おっとりしていて、とても控えめな少女だ。

 そのマイラなのだが、普段からアスールたちと一緒に居ても自分の方から話しかけてくるタイプではないのだが、気のせいかもしれないが、今日は普段よりも一段とおとなしい。



「そうなの?」

「はい。兄ならどんなに帰寮が遅くなっても、食堂が閉まる時間までには絶対に戻って来ると思いましたので」


 ルシオとカレラの二人は至って普段通りなので、特にアスールが気にかける程のことでも無いのかもしれない。



「あはは。ルシオ、ばっちり妹に行動を読まれているじゃない」

 

レイフが大笑いしながら言った。


「なむだよ。いいだぉ、食事はらいじ、だぞ」

「兄上。食べるか、喋るか、どちらかにして下さい! みっともない! それに、そんなにお皿にお料理を盛って……。いくらなんでも食べ過ぎではないですか?」


 ルシオの皿を見たカレラが呆れた顔をしている。ルシオはグラスを手に取ると、水をゴクリと飲み込んだ。


「あのさ、カレラ。僕は食堂の料理人たちが一生懸命作ってくれた料理を残すのは申し訳ないと思って、頑張って沢山食べているんだよ! この時間だったら、どう考えたって食事をするのは僕たちが最後だろう?」

「兄上。あそこに残っているお食事は、兄上がそんなに無理をせずとも、この後ちゃんと別の方が食べる分です。ご存知ないのですか?」

「えっ。そうなの?」


 カレラがルシオの顔を見ながら、はぁっと大きな溜息を吐いた。


「そうですよ。学生の食事時間が終了した後は、エマ様たち側仕えの方だったり、寮で働かれている方たちが順番にお食事を取られています」

「そうなの? アスール、知ってた?」

「知っていたよ」


 ルシオは縋るような目でレイフの方を振り返る。


「西寮も同じ仕組みだったよ」

「……そうだったんだ」

「つまり、兄上は無理して沢山召し上がるよりも、さっさと食べ終えて、一刻も早くこの場所をあけるべきなのですわ!」




 その後アスールたちは、カレラの意見に従って急いで食事を終えて、すぐに食堂を後にした。

 ローザたちは、わざわざアスールたちの帰寮を待っていたのだ。何か話があるのだろう。


「談話室へ行く?」

「そうですね。そうしましょうか」


 談話室の方も、明日の入学式に備えて皆自室に戻っているのか、いつもより閑散としている。


「何かあったんでしょう?」

「えっ?」


 アスールの問いかけにローザが驚いている。


「だって、わざわざ僕たちが戻って来るのを食堂で待っていたし。それに、さっき管理人さんがこぼしていたんだよね。王家のお子たちは……って」

「……そうですか」

「もしかしてベアトリス姉上のこと?」


 ローザは小さく頷いた。



 二日前。ローザはベアトリスと、二人の側仕えたちと共に、学院へと戻って来たそうだ。

 初日、ベアトリスは留学から戻った挨拶をするために学院本館へ出向いたり、寮の部屋の片付けをして過ごしていたらしい。寮生の半分以上はまだ自宅から戻って来ておらず、その日は特に混乱も無く一日が終わったそうだ。


「翌日。昨日のことですが、ベアトリスお姉様は、朝食を済ませると『挨拶がてら剣術クラブへ顔を出してくるわ』と仰って寮を出て行かれました」

「ベアトリス様って、そういえば食事は誰と一緒に? 今まで一緒に行動していた同級生たちは、皆卒業してしまっているよね。まさか、お一人でってことは……無いよね?」


 ルシオが疑問を口にした。


「それでしたら、私たちとです。新学期が始まってしまえば、新しいクラスの方たちとご一緒されるかもしれませんが、取り敢えずそれまでは……」


 そう答えたのはカレラだ。カレラはそのまま話し続ける。


「昨日、ベアトリス様は昼食の時間ギリギリに寮へと戻って来られました。その時にはベアトリス様は数人の令嬢たちとご一緒でした。なので、昼食はその方たちも一緒に皆で食べることになったんです」

「へえ、そうなんだ」

「ですが……」

お読みいただき、ありがとうございます。

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