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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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25 アナスタシア・フォン・ヴィスマイヤーの回想(1)

「あの日私は、夕食を終えられたスサーナ様がお着替えの為に戻られるのをお部屋でお待ちしておりました」


 アンナは何かを決心したかのように大きく息を吸い込み、左手で首の下辺りを抑えゆっくりと息を吐いた後、静かな口調で話し始めた。



「やけに廊下が騒がしい気がしたので、私は廊下でいったい何が起きているのかを確認しようと思い、ドアに向かって歩き始めました。すると突然扉が勢いよく開き、スサーナ様と、スサーナ様付きの二人の侍従が慌てた様子で部屋に飛び込んで来たのです……」


 必死に涙を堪えながらアンナが語った内容は、アスールの想像を遥かに超えるものだった。



「子どもたちはどこ? どこに居るの?」

「……そちらでお休みになっております」


 私を押し除けるように、スサーナ様はお子様たちお二人が眠るベッドに急いで駆け寄られました。

 そしてご自分の肩に掛けられていたショールを外すと、そのショールをベッドの上に広げられました。更にそのショールの上に子どもたちに掛けられていた布を半分に折って被せ、お一人ずつ、そっとお子様を抱きしめてからその布の上に寝かせています。

 私は訳が分からず、ただスサーナ様のなさっている様子を後ろから眺めておりました。

 お二人を起こさないように慎重に布で包み終えると、意を決したようにスサーナ様は私の方へと振り向かれました。


「アナスタシア。貴女に頼みがあるのです」


 私はこのただならぬ雰囲気に、スサーナ様がこれから言おうと決心されている言葉を聞いてしまうのが恐ろしくて、返事をすることが出来ませんでした。

 廊下から聞こえてくる物音は先ほどよりも明らかに大きくなり、段々と近付いて来ています。


「アナスタシア、私がこれから言う事をよく聞いて頂戴。良いわね!」

「は、はい」


 スサーナ様は私の両肩を掴み、私の目を見つめながらしっかりと言い含めるように私に向かってこう言いました。


「貴女は今すぐ二人を連れてこの城を脱出するのです。あの奥に秘密の隠し通路があります」


 スサーナ様は部屋の奥にある衣装部屋の方を指で差し示されました。


「ただひたすら道なりに進めば城外へ必ず出られます。とにかく出来るだけ急いで城から離れて頂戴。直ぐには無理でも、可能ならば貴女のお母様に助けを求めて欲しいのです」

「母にですか? 父では無く?」


 スサーナ様は黙って頷かれるだけでした。


「貴女の身も危険に晒してしまうことになるわ。本当にごめんなさい……」



 侍従長がお子様たちを抱き上げてスサーナ様に手渡しました。スサーナ様はお二人に優しくキスをして、何か声をかけていましたが、私にはそのお声を聞き取ることは出来ませんでした。

 目を瞑りおそらく祈りの言葉を口にした後、決心したようなお顔で天を仰ぎ見てから、スサーナ様はお子様たちが隠れるようにすっぽりと上から布を被せられました。そしてお二人を私に預けると、お子様たちを抱いている私ごとそっと抱きしめて下さいました。


「この子たちをお願いしますね」


 そう言われた気がします。



 突然大きな音がして、鍵が掛けられていたはずの扉が、扉ごと壊されて部屋側に倒れ込んできて、室内は混乱の渦に呑み込まれてしまったのです。


 何人もの兵士と、国王様と、それから私の父と……知っている顔と知らぬ顔と。皆酷く血塗れで、手に持った剣を振り回しています。



 スサーナ様と侍従たちは私を奥の衣装部屋へと押し込みました。

 侍従長は「頼みましたよ」と言いながら、私に頭からくるぶしまで隠れるくらい長いマントを、お子様たちを抱いた私を包み込むようにして着せてくれました。


 怒鳴り声をあげながら男たちが衣装部屋に入って来ます。その男たちを押し止めようとしたもう一人の侍従が頭から切りつけられたのが見えました。真っ赤な血があたりに飛び散りました。

 スサーナ様は私を引っ張ってさらに部屋の奥まで進むと、衣装棚にある隠し扉を開けました。


 男が侍従長を押しのけ、剣を振り回しながら私たちに向かって来ます。

 私は驚きのあまり我が目を疑いました。剣を振り上げている男に見覚えがあったからです。


 その男は国務大臣のザグマン伯爵の側近の一人に間違いありません。その男は確かにガロン男爵でした。


 直後、男爵の剣が私に振り下ろされたかと思ったその時、スサーナ様が私を庇って斬り付けられたのが見えました……。

 すぐに国王様が駆けつけてガロン男爵を斬り捨てると、スサーナ様を抱き起すのが見えました。


「私たちに構わず早く行って!」


 それが私が聞いたスサーナ様の最期のお声です。



 私は薄暗い隠し通路をお子様たちを必死に抱きしめながら進み、やっと出口に辿り着いた時、恐ろしい形相でスサーナ様に切りかかったあの男、ガロン男爵に私も斬られていたことに気付きました。

 でも、何故だか痛みは全く感じませんでした。


 混乱するキールの街を、どうやって母に連絡を取れば良いのかも分からず、ただひたすら少しでも城から離れることだけを考えて歩きました。


 ですが……。いつの間にか私は意識を失って、その場に倒れてしまったようです……。

お読みいただき、ありがとうございます。

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