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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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49 留学生の打診

「ああ。そういえば、ドミニクの結婚の儀が決まったぞ!」


 早朝の剣の訓練が終わり、ヘロヘロになってその場に座り込んだアスールたちに向かって、フェルナンドが声をかけた。


 学院祭での模擬戦が終わって以降、フェルナンドから剣の訓練を受けようと、マティアスとレイフが毎週のように王宮へ通って来るようになった。

 普段はフェルナンドの訓練からどうにかして逃げ回ろうとしているルシオも、今日は珍しく訓練に参加していた。


 やっぱり来るんじゃなかったと、ルシオはきっと激しく後悔しているに違いない。アスールの横で、ルシオは仰向けになって倒れている。


(正直、ドミニク兄上の結婚の儀なんて、今はどうでも良いよ。そんなことより、今すぐ水を飲みたい……)



「それは、おめでとうございます。ドミニク殿下の結婚の儀は、いつ行われるのですか?」


 座り込んだまま何の返事もしないアスールたち三人を横目に、訓練が終わっても一人平然と立っているマティアスが、フェルナンドに質問を返している。

 声すら出せずにうずくまっている三人とは違い、普段から鍛えている人間(マティアス)は、この程度の訓練では全然物足りないようにすら見える。

 おそらくこれが “分科コース” と “騎士コース” に在籍している者の差なのだろう。



「二の月の半ばだそうじゃよ」

「二の月の半ば? そんなに早くですか? やっぱり、夏まで待ってはくれなかったか……」


 フェルナンドの返事を聞いたルシオが飛び起きた。


「なんじゃ、ルシオ。ドミニクの結婚の儀が早いと、何か困ることでもあるのか? お前さん、まだ余力がありそうじゃな。もうちょっと訓練を続けるか?」

「えっと、いえ、別に困ることなど何も。それから、訓練はもうお腹いっぱいです!」



 アスールは、以前ルシオが「夏であれば、自分は成人しているので、もしかすると式に参加できて、美味しいものが食べられるかもしれない!」と喜んでいたのを思い出した。

 どうやらレイフもアスールと同じことを考えていたようで、うずくまったまま必死に笑うのを堪えているのだろう、レイフの肩が小刻みに震えている。


「そうか、ルシオはもう腹はいっぱいか。折角今から朝食だというのになぁ……」

「フェルナンド様! そう言う意味では、ございません!」

「わははは。分かっておるわ。アスールもレイフも、いつまで座り込んどるんだ?行くぞ!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「お前さんたちも、もうすぐ最終学年か……。早いもんじゃ」


 さっさと一人食事を終えたフェルナンドが、まだのんびりと食べ続けているアスールたちに向かって喋りはじめた。


「毎年この時期になると、留学に関しての問い合わせが来るんだが、今回はいつもより希望者が多いらしくて、学院も選定に苦慮しているらしいぞ」

「そうなのですか?」

「希望者が多い場合、どうやって留学生を決めるのです?」

「わざわざ入学試験を受けるために、希望者は一度クリスタリア国に来るのですか?」

「なんじゃ。皆、留学生にそんなに興味があったのか?」



 ヴィオレータの留学の時は、ヴィオレータ側に隠しておきたい事情もあって、相談を受けたフェルナンドが秘密裏に数カ国から学院の資料を取り寄せていた。

 最終的にはヴィオレータの希望に合う学院がその中に無く、本人が自分で問い合わせをして留学先を決めてしまったのだが。


「姉上は、前もってダダイラ国へ行って試験を受けたりはしませんでしたよね?」

「ヴィオレータはな。あの学院はヴィオレータの経歴だけで許可を出した。まあ、王族を跳ね除けるのは難しかろう?」

「……ああ。確かに」


 今回問い合わせが来ているのは、三カ国からで、合わせて七人なのだとフェルナンドは言った。


「七人は、多いですね!」


 例年、留学生は多くても二人か三人だ。今年も第五学年に三人の留学生が居る。


 フェルナンド曰く、大抵の場合、相手国が留学希望者と推薦してくる以上、最低限の学力はあるものと見なして、留学生用の試験は免除されることが多いそうだ。

 ただし学院としては最低限、クリスタリア語で行われる授業に支障のない程度の語学力と、魔力の最低基準 “五” の値を超えていることを条件にしているらしい。



「儂も詳しい内容は聞いておらんが、七人のうち王族が二名含まれているらしいとは聞いたぞ」

「その二人の受け入れは確定事項ですか?」

「どうかな。王族となると単独では来ないだろうからな……」

「フェルナンド様、それってつまり、ご学友が王族と一緒に留学して来るということですか?」


 ルシオが尋ねた。


「まあ、過去にはそういったパターンが多いな。事実、クラウスの時もそうじゃったし」

「ハクブルム国の?」

「ああ、そうじゃよ。クラウスと一緒にこの国に来ていたあの少年、確かオスカー・ミュルリルとか言ったかな。彼の姉がエルンストの嫁になろうとは……。あの頃は、流石に儂も想像せんかったな。人の繋がりとは、まったくもって面白いもんじゃ」

「へえ。王族とご学友ですか……。フェルナンド様、その七人は全員第五学年への留学希望者なのですか?」

「さあ、どうじゃろうか。さっきも言ったが、儂はそれ程詳しい話は聞いてはおらんよ」

「ああ、そう仰ってましたよね」

「ああ、そうじゃ、そうじゃ! 今回は、その留学希望者の中に、珍しく女子が含まれているって話も聞いたぞ!」

「女子? 何人ですか? もしかして王族の一人だったり?」


 ルシオが前のめりになってフェルナンドに矢継ぎ早に質問をする。


「ルシオ。お前さん、随分とこの話に興味があるようじゃの」

「ええ、まあ」

「でも残念ながら、儂が知っているのはここまでじゃ!」


 フェルナンドはニヤリと笑った。もしかするとフェルナンドはもっといろいろな情報を持っているのかもしれないが、これ以上話す気は無いということだろう。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「ねえ、さっきのフェルナンド様の話だけど、どう思う?」

「どうって? あれ以上は分からないんだから、どうもこうも無いんじゃ無いの?」


 学院へ戻る馬車の中で、ルシオが先程の留学生の話を蒸し返した。

 帰りの馬車は人数の都合上二台に分かれた。今この馬車には、アスールとルシオ、それからアスールの側仕えのダリオが乗っている。



「そうかな。わざわざフェルナンド様が留学生の話をしたってことは、少なくとも、既に何人かは決定しているってことなんじゃないのかな」

「まあ、そうかもね」

「たぶんだけど、第五学年に入って来るよね」

「そうだね。大抵の留学生は今まで第五学年生だったね」

「だよね!」

「でも、ヴィオレータ姉上も第五学年に戻ってこられることだし、そう何人も第五学年に留学生を受け入れるのは、無理なんじゃ無いのかな?」



 貴族の席数は各学年二十前後だ。

 入学時、アスールの学年の貴族はぴったり二十名。途中、自主退学者が二名出た。その代わりというわけでは無いが、平民枠で入学したレイフが、第四学年進級時にスアレス公爵家の養子に入っている。

 ダダイラ国への留学から戻って来るヴィオレータを数に入れなかったとしても、既に来年度の第五学年は定員に近い筈なのだ。


「そもそも、留学生は定員に関係あるの?」

「……さあ。どうだろう」


「留学生の人数の上限が学院に規定されているかは存じ上げませんが、学院には留学生が生活できる学生棟が現在二棟しか無い筈ですので、自ずと受け入れられる人数は制限されると思われますよ」


 ダリオが静かに呟いた。

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