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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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48 お疲れ様会をリルアンで(2)

「こんな風に執行部の皆で出掛けて、テーブルを囲んで一緒に食事をするなんてこと、ちょっと前までは考えてもみなかったです」


 そう言ったのはリーリカ・ダレン。王都にある造船所の娘だ。


 真っ先にグスタフ・ハイレンに反旗を翻した一人で、それ以降、リーリカは積極的にエイミー・ルクランを支え続けた。


「執行部に私が選ばれたのは、ただ単に成績が良かったってことだけなのです。小さい頃から計算だけはできたので、試験を受けて学院に入学はしたものの、特にやりたいことがあるわけでも無いし、なんとなく毎日を過ごしていました」


 そう言ってリーリカは自重気味に笑った。


「執行部に選ばれた最初の年は、上の学年の人の指示に従っていればなんの問題も無かったんです。そもそも、平民の私が何か口を挟める雰囲気でも無かったですしね……」

「ああ。確かに去年はそんな感じだったよね」


 リーリカに同調したのはバガン・ターデル。王都の酒造ギルドのギルド長の息子だ。


「去年はディールス先輩とリント先輩の二人が圧倒的だったから、その他大勢は言われたことさえやっておけば良かったんだよね。ああ、圧倒的って言うのは、悪い意味じゃ無いですよ」


 例年、執行部を主に率いるのは最終学年に在籍している貴族の二人になる。それを同学年の平民の部員たちが支えるのが基本の形のようだ。

 下の学年の部員たちは、上の学年の仕事振りを一年間見て学び、次年度、自分たちが同じように執行部を運営する立場になるのだ。


「ああ、分かる! そんな感じだったな」

「そうね。確かにそうだったわ」


 他の第五学年の部員たちも頷いている。


「それに引き換え、今年は最初からグダグダだったものね……。いろいろと迷惑をかけてしまって申し訳なかったと反省しているわ」

「それは違うわ!」


 謝るエイミーに対して、リーリカは反論する。


「確かに去年の二人のコンビネーションは完璧だったと私も思うわ。今年の執行部はいつもと違う形にはなったかもしれないけれど、私は去年よりも充実していたわ。皆もそう思ったんじゃない?」

「そうね。大変だったけど、達成感はあったわね」

「確かに。先輩から言われたことだけをやっていた去年より、ずっと充実していたよ」

「それにさ。侯爵家のご令嬢のエイミーさんと、こんなに親しく話せる関係になるとは、一年前は皆も想像できなかったよな?」

「「確かに!」」


 学院は学生は平等だと謳ってはいるが、実際には貴族と平民の間には目には見えない高い壁があるのは事実だ。


「そう言って貰えて嬉しいわ」


 エイミーは笑顔で答えた。


「学院を卒業しちゃうと、ほとんどの場合、やっぱり平民は貴族と関わることって無くなっちゃうと思うんだ。生活圏が違うしね。せめて学生の間は、もっと話したり関わったりしたいと僕は思ってた。そう言う意味では、今年の執行部は楽しかったよ」

「そうね。それは私も思うわ」


 バガンの意見にリーリカも同意する。他の者たちも頷いている。


「ですよね。僕ももっと思ったことを言い合った方が良いと常々思ってましたよ。クラス内でもやっぱり遠慮があるのか、なかなか話し掛けて貰えないし……。せめて執行部の中では、身分どうこうでなく対等な関係で意見を言い合った方が良いですよね!」


 ルシオが言った。


「これからの課題だな」

「今年できたんだから、来年も続けていけば良いんじゃ無いのかしら?」

「だったら、僕かレイフのどちらかが、顔を真っ赤にして部室から飛び出して行った方が良いですかね? 誰かを見習って」

「ちょっと、冗談にならないからやめてあげて」


 リーリカの苦言に皆が声をあげて笑った。



「話は変わるけど、来年はバルマー家の妹君の執行部入りは確実そうだね。夏期休暇前の試験じゃ、圧倒的一位だったよね?」


 バガン・ターデルがルシオに尋ねた。


「ああ。カレラのことですか? そうなんですよね。兄と違って嫌味なくらい優秀な妹で……こんな風に比べられるから困ってますよ」


 ルシオが戯けて、笑いながらそう答える。

 ルシオだってかなり優秀なのだ。ただし、ルシオの場合はヤル気に非常にムラがあるので、成績として安定しないだけだとアスールは思っている。


「アスール殿下の妹君は?」

「ローザですか? ローザは執行部入りするには成績が……」


 アスールはそう言って苦笑いを浮かべた。


「でしたら、王族枠では? ローザ様が執行部に入られるという話は全く無いのですか?」

「無いですね」

「そうですか。……残念です」

「ローザちゃんは、執行部ってタイプじゃ無いよね。ヴィオレータ様とは別の意味で……。そう思うよね、レイフも」

「ああ。まあ確かに執行部って感じじゃ無いかもね」


 二人は顔を見合わせて笑っている。


「そうですか? ローザ様だったら、平民とか身分とかを気にせず相手を受け入れてくれそうで、僕は彼女こそ執行部向きな気がしますけど」

「そうそう! ダンスパーティーの時も平民の男の子と踊ってたいわよね!」

「ああ! あれにはビックリしたよ」

「ちょっと素敵だったわよね」


 皆は口々にローザの話を始めた。


「ローザ様が分け隔て無く平民と接するのは、お小さい頃から変わらないですよね?」

「「「えっ?」」」」

「え? そんなに皆さんを驚かせるようなことを、僕、言いましたか?」


 皆の視線を一斉に浴びて、困った顔をして頭を掻いているのはケイン・シェルダー。アスールたちと同学年、確か彼は “商科コース” だった気がする。


「ローザ様って、小さい頃はよくお忍びでヴィスタルの街に来てましたよね?」

「そうなの?」


 地方出身者は知らないだろうが、王都の中心街に暮らす平民たちにとっては、ローザのお忍び歩きはよく知られている話のようだ。


「僕の家は雑貨屋を経営しているんです。ローザ様は時々うちの店で買い物をして下さったんですけど、その度に店番をしている母や姉たちと楽しそうにお喋りをしていて、僕にとってはその姿がすごく印象的なんですよね」

「もしかして、そのお店って中央広場の近くの?」

「そうです! 殿下はいつも店の外でつまらなそうな顔をして、ローザ様の買い物が終わるのを待っていましたよね?」



 ケイン・シェルダーの家はローザのお気に入りの店だ。あそこへ行くと、ローザは毎回なかなか出て来ない。

 最初のうちはアスールも店内に一緒に入ったのだが、並んでいる商品がリボンや刺繍小物ばかりで、どうにも居た堪れず、ケインが指摘したようにアスールはいつも店の外でローザの買い物が終わるのを待っていた。

 つまらなそうな顔をしていたかは……まあ、そうかもしれない。



「学院でも割と平民たちとお喋りしている姿を見かけますね」

「そうそう。僕の友人は院内雇傭システムを利用しているんだけど、園芸クラブの手伝いをする時とかによく話すらしいよ。お茶を一緒にすることもあるって言ってたし」

「へえ、なんか良いね、それ」

「あはは。アスール、君の妹、大人気だね」

「そうらしいね」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 執行部の学院祭慰労会は、こうして滞りなく終了した。


「学院祭が終わると、あとはあっという間に学年末試験がやって来るんだよね……」

「ルシオは頑張らないと優秀な妹と比較されちゃうもんね」

「そうなんだよ。カレラは主席狙いだからさ、比べられても困るんだよ! 良いよなレイフは、比較対象が居ないもんね」

「そうだね。でも、僕は今回も前回以上に順位を上げるつもりでいるよ」

「敵は過去の自分ってこと? ははは。格好良いね!」

お読みいただき、ありがとうございます。

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