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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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47 お疲れ様会をリルアンで(1)

 学院祭が終了した翌週。

 執行部全員が集まり後片付けをしていた時、学院へ提出する書類の確認作業を終えたエイミー・ルクランが、何気無い感じで呟いた。


「学院祭も無事に終了しましたし、ここに居る皆さんで慰労会などを催してみるのは……どうでしょうか?」


 そう言い終えて、全員の視線が自分に集まっていることに気付いたエイミーは、慌てたように付け加えた。


「ああ、別に無理矢理にでも参加して下さいと言う意味では無いのです。ただ、なんとなく思いついたので、ついポロッと希望が口から出てしまっただけと言いますか……」


 皆が顔を見合わせている。それから


「慰労会ですか?」

「良いですね!」

「それは、お茶会ということでしょうか?」

「この部室で? 学院が許可をくれるかなあ……」

「どうせだったら、どこかへ出かけませんか?」


 皆が一斉に喋りはじめ、再度顔を見合わせる。部室はどっと笑いに包まれた。



「ねえ、レイフ。あの部屋を予約することってできるかなぁ?」

「あの部屋?……もしかして、リルアンのあの店のことを言ってる?」

「そう、それ! あー。やっぱり駄目だ。流石にこの人数だと、あの部屋にはどう考えても全員なんて入りきらないよね……」


 ルシオはどうやらリルアンでアスールたちが時々利用している、例の店を借りたら良いのではないかと思いついたようだ。

 だが、確かにあの部屋に執行部の部員全員が入るとなると……全員身動きもできずに、立ったままでお茶を飲むしか無いだろう。


「他に、もっと大きい部屋を借りることができないか、一応店に聞いてみようか?」

「他の部屋? もっと大きな部屋があるの?」

「いや、分からないけど。聞くだけ聞いてみるよ」



 今年の学院執行部は、スタート直後からいろいろと問題が山積みだった。スタートで躓いた分を皆でカバーしあい、なんとか乗り越えて今日がある。

 結局名義上は執行部の部長になっているグスタフ・ハイレンは、あの後も執行部に顔を出すことは一度も無かった。(まあ、誰一人としてグスタフに執行部に戻って来て欲しいと頼みに行った者も居ないのだが……)

 その分、グスタフ以外の部員たちは協力しあう他なく、学院祭を終えた今、随分と互いに気心が知れた間柄になれたと言っても良いかもしれない。



「あの。非常に申し上げ難いのですが……。多額の費用がかかるようでしたら、私はその集まりには、残念ですが参加することはできません」


 一人の少女が消え入りそうな小さな声でそう言った。

 その子は、アスールたちと同じ学年の地方出身の学生だ。名前はヘレナ・ジャイネル。確か両親は二人とも小さな町の学校で教師をしていると言っていた。



 皆で慰労会をしてはどうかと最初に提案したエイミーにしても、リルアンの店を借りたらどうかと言い出したルシオにしても、実際に手配するレイフにしても、皆、揃いも揃って裕福な家庭の子どもたちだ。

 そもそも、慰労会をする事でかかる費用のことなど、全く頭に無い状態で話を進めようとしていた。


 学院執行部は、第四、第五学年それぞれ、平民の成績上位五名と、貴族二名、計十四名で運営されている。

 冷静に考えてみれば、執行部のメンバーの多くが貴族では無く平民なのだ。

 皆が皆簡単に費用を出せる状況である筈も無いことに、ヘレナが発言するまで全く気付いていなかった。



「もし部屋を借りられた場合、その部屋の料金は僕が負担しますよ。そこはちょっと変わった店で、食べ物や飲み物を自由に持ち込むことができるから、それぞれ好きな物を持ち寄る形にするのはどうだろうか?」


 アスールがそう提案した。

 そもそもアスールは既に執行部のメンバーでは無かったが、結局学院祭が終わるまでずっと関わってきた。ここまで関わったのなら最後まで関わろう。

 費用についても王子であるアスールが多く負担する分には、誰も何も言わない筈だ。


「ああ、それは良いね! 僕はその店の近くに懇意にしている惣菜店が何軒かあるから、そこに料理を持って来てもらうように頼むことにするよ。だから皆には、主食以外をお願いしたいな」


 レイフがそう言った。


「だったら、飲み物とか果物とかを持ち込むなら、前もって申告しておけば同じものばかり被らないよね。ちなみに、食器は借りられるから心配無い。荷物が重いようだったらアスールの馬車に積んで行けば良い!」

「ルシオ。馬車は荷車じゃ無いんだけど……。まあ良いよ、それで」


 飲み物や果物であれば、学院や北寮にある売店で安価で手に入れることは可能だ。


「でしたら、私も馬車を一台用意致しますわ。レイフ様とルシオ様にも馬車をご用意して頂けるなら、全員で学院から乗って行かれますわよね? その方がお店の目の前まで行かれるので迷いませんし、重たい荷物も運べますわね」


 そう言って、エイミーがニッコリ微笑んだ。

 迷わないで済むように皆で馬車に乗るということにすれば、乗り合い馬車にかかる費用の心配も要らないわけだ。


「どうですか、皆さん。無事に学院祭が終わったことですし、皆でパーっとお疲れ様会などしてみませんか?」


 ルシオがヘレナ・ジャイネルの方を見た。今度こそ、ヘレナは嬉しそうにルシオの提案に頷いた。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「うわぁ。こんなに大きな部屋もあったんだ!」

「いつもここへ来る度に三番の部屋だったからね」


 薄暗い廊下を不安そうな表情でぞろぞろと歩き、通されたのは、三番の部屋の前を通り過ぎて一番奥の突き当たりの扉、八番と書かれたプレートが下がっている部屋だった。

 扉を開けて中に足を踏み入れた瞬間に、皆が辺りを見回し息を飲んで立ち尽くしているのが、先に室内に入っていたアスールやルシオには充分に伝わって来た。


 部屋の入り口以外の三方向の壁には大きな窓があって、カーテン越しに外の明るい陽射しが差し込んで込んで来ている。

 薄暗い廊下を歩かされてここまで来たせいで、皆の目にはこの部屋が現実以上に明るく綺麗に見えていることだろう。


 部屋の中央には大きなダイニングセットが置かれており、その上には全員分のグラスやカトラリーが美しく並べられている。

 

「さあ、持ってきた物をテーブルに置いて、好きなところに座って下さーい!」


 ルシオの声に、皆が再び動き出した。



 皆が思い思いの席に腰を下ろすと、程なくして扉がノックされた。レイフが立ち上がって扉を開けに行く。大きな荷物を抱えた数人の女性たちが次々と部屋に入って来た。

 レイフが注文していた昼食はかなり大量で、美味しそうな匂いがあっという間に部屋中に広がっていく。


「こんなに沢山?」

「全部食べ切れるのかしら?」

「お腹空いたね」


 皆の視線は、次々に盛りつけられていくテーブルの上の料理に釘付けになっている。


 女性たちはテーブルの上に手際よく料理を並べると、あっという間に部屋から出て行った。


「じゃあ、好きな飲み物をグラスに注いで、乾杯しましょう!」


 ルシオが自分のグラスに果実水を注ぎながら皆を促した。皆、戸惑いながらも好きな飲み物をグラスに注ぐ。


「アスール、どうする? やっぱり乾杯の合図は……」

「エイミー先輩でしょう!」


 アスールがテーブルの中央に座っているエイミーの方を見た。


「ええっ。私ですか?」

「「「もちろん!」」」


 皆の声が揃う。


「ここはやはり部長のエイミー先輩にお願いします」

「私、部長では……」

「ここに居る皆は、ちゃんとそう思っていますよ」


 皆が頷いている。


「では、ちょっとだけお時間を頂いてもよろしいかしら」


 そう言いながら、エイミーは立ち上がった。


「まずは学院祭お疲れ様でした。何事も無く無事に学院祭を終えられたのは、皆さんお一人お一人が協力して下さったからだと思います。ありがとう。それから、今日は思いがけず、こうして皆さんと集まれたこと、とても嬉しく思います。沢山食べて、沢山お喋り致しましょう!」

お読みいただき、ありがとうございます。

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