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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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閑話 オリアナ・ポロフの独白

 私はオリアナ・ポロフ。五十六歳。

 ロートス王国の王太后、ヒルデグンデ・ロートス様にお仕えして、かれこれ十三年になります。

 私がヒルデグンデ様にお仕えすることになったきっかけは、あの痛ましい事件です。



 ヴィルヘルム王とスサーナ王妃の間に生まれた待望の双子、レオンハルト王子とローザリア王女の誕生を祝うお披露目がまさに行われようとしていた前日、その悲劇は起きました。


 国王夫妻、第一王女、国の重鎮、城の使用人たち、本当に多くの命が一夜にして失われました。

 後日、ノルドリンガー帝国の元兵士たちによる急襲だったと公表されました。ですが、実際には亡くなった人も、不明点も非常に多く、未だに真実は闇の中だと私は考えております。


 運良くキール城に居て生存した王族は、第一王子のレオンハルト殿下お一人。ヒルデグンデ様については、たまたまご用事があり、襲撃当時は城を留守にしてたそうです。

 ヒルデグンデ様は、ご自身の命が助かったことよりも、自分が生き残ってしまったことをずっと悲しんでおられます。



 あのような惨劇のあったキール城で暮らしていくことは精神的に難しいと判断され、ヒルデグンデ様は事件から一月後には東の離宮へとお移りになられました。

 私はその離宮のある町、ハイデルの出身です。

 王太后様が急にお住まいを東の離宮に移されたことで、不足した人手を募集した際に、住み込みの侍女として応募致しました。


 私の夫だったポロフ男爵は随分と前に亡くなっております。それからは、若くして爵位を継いだ長男の家族と暮らしておりました。

 ですが息子夫婦には既に数人の子どももおり、屋敷が手狭になったこともあって、私は良い機会だと家を出る決心をしたのです。



 ヒルデグンデ様は、離宮で静かにお暮らしでした。時々散歩に出ることはあっても、友人を招いたり、夜会に出かけたりすることは無く、大抵お一人でお過ごしでした。


 私を含め、多くの離宮の使用人たちはハイデル出身者です。ですが、キール城から移って来られた方も中にはいらっしゃいます。

 こんなことは申し上げ難いのですが、王都から来られた方々はハイデルを田舎町と馬鹿にしている節があり、十年以上経った今でもハイデル出身者と王都から来られた方の間には若干の溝が存在しています。



 先日。キール城にいらっしゃるレオンハルト殿下から、ヒルデグンデ様へ荷物が届けられました。中身は、クリスタリア国の先王様からの贈り物とのことでした。


 クリスタリア国というのは、あの事件で亡くなられたスサーナ王妃の祖国。荷物を運んできた者の話では、王都にクリスタリア国の第二王子が来られているとか。

 その王子様は、懇意にされている侯爵家のご令息の結婚式のためにわざわざキールまでやって来られたらしいのです。


 贈り物はとても素敵な首飾りでした。この国の国花でもある睡蓮の花をモチーフに首飾りは作られていました。睡蓮の細工は、それはそれは繊細で見事です。

 どうしたわけか、ヒルデグンデ様はその首飾りを手にされた瞬間、周りの者たちを驚かせるほどに、ハラハラと大粒の涙をこぼされました。


 贈り物にはお手紙が添えられていたようで、ヒルデグンデ様はすぐに開封すると、涙を拭い、とても真剣な表情でそのお手紙を読まれていました。



 翌日、ヒルデグンデ様に明らかな変化がありました。

 それまで何年もの間、ほとんど城から出ようとされなかったのに、急に「すぐに王都に向かいます」と力強く仰ったのです。


 いくら王太后のご要望とはいえ、今日の今日で出発など不可能です。王都へは馬車で三日かかります。途中の宿泊場所の手配も必要です。出発は二日後と決まりました。


 離宮にはヒルデグンデ様の王都行きには反対する者も居て、今回私と一緒にヒルデグンデ様に付き添うことになった他の二人の侍女は、特に強硬に王都行きに反対していたように思います。

 その二人は元々王都の出身なのですから、行きたくないのならお役目を別の者(例えばハイデル出身者とか)に譲れば良いのに、結局その二人もヒルデグンデ様に同行することになりました。


 ヒルデグンデ様は、出発前夜に私一人を私室に呼び出し、古い木箱を指差して仰いました。「これを他の者に絶対に気付かれないように王都まで運びたい」と。


 驚いたことに、ヒルデグンデ様が正装をして、例の首飾りを身につけて向かわれた先は、キールの王城では無くヴィスマイヤー侯爵のお屋敷でした。お屋敷では、丁度結婚後のお披露目のパーティーが開かれていました。

 そこに、クリスタリア国の第二王子がご滞在中だったのです。



 私はヒルデグンデ様に指示された通り、木箱を第二王子様にお渡し致しました。

 木箱の鍵はヒルデグンデ様が封筒に入れて王子様に「国王陛下に」と仰ってお渡ししたため、あの場で箱の中身を知るのはヒルデグンデ様ただお一人。いったいあの中には何が入っていたのでしょう?



 王都から東の離宮にお戻りになられてからというもの、ヒルデグンデ様は以前とは人が変わったかのようです。

 お食事もよく召し上がるようになりましたし。笑顔が増えたように思います。

 何より、よほどクリスタリア国の先王様からの贈り物がお気に召したようで、時折取り出されては、愛おしそうにそっと触れておられます。

 折角ですのでお着けになればよろしいのにと提案してみたのですが「次は特別な日にね」と嬉しそうに私に微笑まれました。

 その “特別な日” がいつなのかは私には分かりませんが、ヒルデグンデ様が以前とは違い、前向きに生きようとされていることだけは分かります。


 それにしても、ヒルデグンデ様にあのようなお顔をさせるクリスタリア国の先王様とは、いったいどのようなお方なのでしょうか?

お読みいただき、ありがとうございます。

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