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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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30 裏山で水遊び(1)

「そうね。だったら良い場所があるわよ」


 サスティーは裏山の奥深く、普段は結界を張ってあるため人が近付けない場所に、レガリアが提示した条件にピッタリ合う泉があると言った。


 レガリアが提示した条件は、波や流れが無く、浅過ぎず、深過ぎず、冷た過ぎず、それでいて水が綺麗なところ。

 横で聞いていたアスールを呆れさせるほどローザに甘い内容だ。



「でも、この夏はガイドとして付き添ってくれる大人が誰も居ないから、絶対に勝手に裏山に入っては駄目だとリリアナさんから言われているんだよ」


 一応は釘を刺す。

 そんな秘密の場所があるならアスールだって是非とも行ってみたいところだが、やはり今年は無理だろう。


「ああ。その話なら、我もその場で聞いていたから知っている」

「だったら……」


 アスールとレガリアのやり取りを聞いていたサスティーが不思議そうな顔をする。


「ガイド? 裏山の主である私が居るのに、そんなの必要無いでしょ?」

「ああ、確かにそうだよね! 神獣様お勧めの場所なんだし、送り迎えして貰えば良いじゃないか!」


 ルシオは、すっかりその秘境へ行く気でいるようだ。


「でも、ルシオ。そうは言うけど、それをどうやって分かって貰うんだい? 神獣が一緒だから、僕たちだけで裏山へ入っても絶対に迷わないって証明できる?」

「ねえ、アスール。いっそのこと、母さんに正直に言ってみるのはどうだろう?」


 アスールを見つめるレイフの顔は真剣そのものだ。


「この島には、もともと裏山に女神様が居るって信じている人も少なからず居るんだし、母さんはレガリアが神獣ティーグルだってことも知ってる。だから……大丈夫なんじゃないかな」

「まあ、リリアナさんなら、そうかもね」

「だろう? ルシオもそう思うよね?」


 もうこうなったらアスール一人が止めても聞く耳は持たないだろう。


「そうだね。駄目で元々だ。行っても良いか、リリアナさんに聞くだけ聞いてみようか」

「それなんだが、リリアナに話すのは明日になってからでは駄目か?」

「「えっ。何で?」」


 ルシオとレイフがレガリアの方を振り返った。


「ほら。もう限界のようだ……」


 ローザがソファーに座ったままウトウトしている。


「ああ、本当だね。母さんに聞くのは明日にしよう」

「じゃあ、僕たちも、もう寝ようか」

「そうだね。ローザ! 一旦起きてよ! もう部屋へ戻らないと!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 サスティーの話をしたところ、リリアナは案外すんなりと裏山へ入る許可を出してくれた。



「リリアナさん、凄くガッカリしていたよね」

「そうだね。母さんは、すっかり神獣様がここまで迎えに来てくれるものだと思い込んでいたみたいだからね。まあ、僕もそう思っていたけど……」


 サスティーの居る場所ならばレガリアが察知できるので、わざわざサスティーが迎えに来る必要は無いらしい。


「そろそろ行こうか!」

「だね!」


 山頂に登る程には険しい道は通らないということで、付き添う大人はダリオとエマの二人だけ。

 唯一勉強部屋が開催されない光の日。レガリアを先頭にして、裏山へのハイキングがスタートする。



 レガリアは小さい姿のまま、するすると山道を進んでいく。


「ねえ、どうして今日はその姿なの? 大きい方が歩きやすいんじゃないの?」

「我が本来の姿に戻って進めば、お前たちは誰も我にはついて来れまい」

「ああ。……そういうことね」


(いつも思うけど、レガリアって口は悪いし、あんな風だけど、結構気を遣ってくれてるよね僕たちに)


「ローザ。大丈夫か? もうそう遠くはない」

「大丈夫よ、レガリア。ありがとう」




 そこは裏山の中にあるとは思えないくらいに開けた場所だった。


 サスティーの住処だというその場所は、今までに感じたことがないくらいに神聖な空気に包まれており、木の一本一本、葉の一枚一枚でさえも不思議と輝いて見える。

 当然のように、泉も透明度の高い綺麗な湧水で満たされていた。


「凄いよ! まさか、裏山にこんなところがあったなんて……」


 レイフが口をぽっかりと開けて、周りをキョロキョロと見渡している。


「それは当然よ。私がここに立ち入ることを許した人の子は、貴方たちが初めてなんだから」

「そうなの?」

「ええ、そうよ。まあ、貴方たちだけでここまで辿り着けるとは思っていないけど、この場所のことは……」

「「「誰にも言わないよ!」」」


 アスールとレイフとルシオの声が揃った。


「そう。なら良いわ。今日は楽しみなさい」



 レガリアはいつの間にか本来の大きな姿になっている。

 ダリオとエマはあちこち歩き回り、地面の平らな場所を見つけたらしく、早速ピクニック用の大きなシートを二人がかりで広げている。

 ダリオは今日のために、昨夜遅くまで何やら楽しそうに準備をしていた。



「じゃあ、僕たちは泉に入らせてもらおうよ!」


 思っていたよりも水が冷たくて、最初は膝までしか水に足をつけることしかできなかったローザだったが、アスールたち三人で代わる代わる面倒をみた結果、なんとか少しは泳げるようになってきた。


「そろそろお昼にいたしましょう!」


 ダリオに声をかけられて、泉から上がると、すっかりピクニックの支度が整えられている。


「うわぁ。美味しそう! 食べても良い?」

「ルシオ、駄目に決まっているでしょう! 食べる前に、ちゃんとタオルで濡れた身体をお拭きなさい! そのままでは、貴方のせいであちこちびしょ濡れになるではないですか!」

「はーい」

「姫様もですよ。早くこちらへいらして下さいませ。お身体をお拭き致しましょうね」


 エマはローザだけで無くルシオの面倒まで見なければならず、大忙しだ。アスールとレイフはダリオからタオルを受け取った。



 ダリオが用意してくれた昼食はサンドイッチ。具材に彼のこだわりが感じられる。

 その他にも、鶏肉をたっぷりのハーブと一緒に焼いたものや、アスールとローザの好物のキノコのクリーム煮もある。


「うわぁ。このクリーム煮、凄く美味しい!」

「冷えた身体に嬉しいね!」


 ダリオは火属性の持ち主。持ってきた料理を温めるなんてお手のものだろう。

 それにしても、随分と大量の荷物を背負っているとアスールも思って見てはいたが、まさかキノコのクリーム煮を鍋ごと運んで来ていたとは……。

 これにはアスールも流石に驚いた。



「サスティー様は、ご一緒に召し上がりませんの?」


 サスティーは皆がここに到着してからも、子どもたちが泉で大はしゃぎしている間も、一番大きな木の根元に横たわったままじっと目を瞑っていた。


「前にも言ったと思うが、神獣である我らは、別に食事を必要とはしていない」


 レガリアがローザに言った。


「でもさ。そう言うけど、同じ神獣なのに貴方はアスールの部屋に来て、凄く美味しそうにダリオさんの作る焼き菓子を毎回毎回食べているよね?」

「うぬ」

「別に敢えて食べなくても良かったんだ…‥。そっか、それは知らなかったよ」

「うぬぬ」

「次からは出さなくても良いってこと?」

「ぐぬぬ。そもそもお前があの菓子を作っているわけでは無かろう! ルシオ、そう言うお前も、いつもいつも必要以上に焼き菓子を食べ過ぎなのでは無いか?」

「そ、そんなこと……」


 レガリアとルシオで言い争っている。

 確かにこのところ、アスールの寮の部屋で顔を合わせる度にレガリアとルシオの間で、ダリオの焼き菓子を巡る攻防が繰り返されていた。


「レガリアとルシオ様って、いつの間にか随分と仲良しになったのね!」

「「それは無い!!」」

「ほら。やっぱり仲が良いわ!」


 ローザの楽しそうな笑い声が響いた。

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