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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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27 その頃、シーンでは……(1)

「ギルベルト! 良く来てくれたわね。会いたかったわ!」

「アリシア姉上! お久しぶりです。お元気そうな姉上のお顔が見られてホッとしました」


 ここは、ハクブルム国の王都シーン。

 クリスタリア国の王都ヴィスタルの港を王家所有の大型船で出発したギルベルトたちは、タチェ自治共和国の港で格納してあった最新式の小型船に乗り換え、タムール川を上ってハクブルム国の王都近くの町まで到着。

 その後、馬車に乗り換え王都シーンまでやって来たのだ。



「疲れたでしょう? 今日はゆっくり休んでね」

「大丈夫ですよ、姉上。もうご存知かと思いますが、今回我々は最新式の魔導具を搭載した新型船を使ったんです」

「そうらしいわね」

「ここまでに要した日数は、今までより格段に短縮できましたよ」

「そうなの?」

「ええ。これを使えば、姉上がヴィスタル城に里帰りすることだって、それ程困難なことでは無いかもしれませんよ」

「まあ、そうなの?」

「おやおや。私の義弟(おとうと)は、大好きな姉上をなんとか国に連れ戻したいようだね。でも、それは簡単には承知できないよ! なんと言っても、アリシアのお腹には新しい命が宿って居るのだからね」

「ああ、クラウス義兄上(あにうえ)! お久しぶりです!」



 アリシアの夫、クラウス・ハクブルムはこの国の未来の国王だ。クラウスが言ったように、アリシアのお腹の中には、未来のハクブルム国第一王子か、第一王女がいる。

 母のパトリシアから、アリシアはあまり体調が良く無いようだと聞いていたが、一見したところ、アリシアは顔色も良く、体調も悪そうには見えない。


「姉上。お加減はよろしいのですか?」

「ええ。最近は落ち着いて来たわ。大丈夫よ。心配ありがとう」



 ハクブルム国王夫妻との謁見、クリスタリア国から持参した献上品の引き渡し等を終えると、クラウス皇太子の計らいで、ギルベルトだけがクラウスとアリシアとこの日の夕食を共にすることが決まり、バルマー侯爵をはじめとしたクリスタリア国一向は、それぞれに用意された部屋へと下がって行った。



「君たちの弟と妹の事情は、先日アリシアから聞かせて貰ったよ」


 食事を終え、人払いをした後で、クラウスが言った。


「正直なところ、あまりにも衝撃的で非人道的な内容だったので、事実として受け入れられるまでにかなり時間がかかったよ。でも、妙に納得もした」


 クラウスは、国境を接するロートス王国の変貌ぶりに、ハクブルム国としてもずっと対応に苦慮していたのだと話してくれた。

 突然の悲劇に見舞われた隣国に対して、クラウスの父親でもあるハクブルム王は、当時、すぐに援助の申し出をしたそうだ。


「丁重に断られたらしいけどね。まあ、国の危機を口実に他国に介入されたく無いと思う気持ちも分かるからね。こちらとしても、それ以上は深入りはしなかったみたいだよ」

「そうでしたか……」

「念の為言っておくけど、この件を知っているハクブルム国の人間は、私の他には私の両親のハクブルム国王夫妻と、この国の宰相夫妻、それからその長男長女の、今のところ合わせて七人だよ」


 この国の宰相というのは、エルンスト・フォン・ヴィスマイヤーの婚約者ルアンナ・ミュルリルの父親のことだ。

 つまり、望まずとも近い将来ロートス王国で起きるだろう “混乱の渦” に関わることになる人物たちだ。


「クラウス様。七人ではありません。私も含めた八人ですわ」

「ああ、そうだったね。ごめんよ、アリシア。君ももうハクブルムの人間だったね」

「ええ、そうですわ」


 ギルベルトは、どちらかといえば控えめで物静かだと思っていた姉の発言に、驚きを隠せなかった。


「ギルベルト。貴方、どうかしたの?」

「ああ、いえ。姉上もご結婚をされて、変わられたんだなぁと……」

「えっ。何のこと?」

「いいえ。お気になさらず」


 アリシアは、ギルベルトの言わんとしたことが分からないようで首を傾げている。


「明日なんだが、午後からミュルリル侯爵一家が揃って訪ねてくることになっているのだが、予定は大丈夫だろうか? もちろん婚約者のヴィスマイヤー卿も一緒にだよ」

「はい。私は大丈夫です」

「できればあちらとしては、バルマー侯爵にも同席願いたいらしいのだけれど……」

「そうですか。では、侯爵には私からそのように伝えておきます」



 その後、クラウスは執務が残っているからと言って、アリシアとギルベルトを残して部屋を出て行った。

 もしかすると姉弟二人だけでつもる話もあろうかと、クラウスなりに気を遣ってくれたのかもしれない。


 ギルベルトは二人きりになると、早速持ってきていたブレスレットをポケットから取り出し、アリシアに手渡した。


「まあ、可愛らしいブレスレットね」

「それ、実は僕の手作りなんです。石は、アスールとローザと僕の三人で染めた魔導石を使っています。このブレスレット、家族全員でお揃いなんですよ! ほら」


 そう言ってギルベルトは袖を捲って、腕につけているブレスレットをアリシアに見せた。


「まあ、皆でお揃いなの? それは、とっても嬉しいわ! 魔導石ってことは……このピンク色のはもしかして?」

「はい。ローザの光の魔力が込められています」

「ああ、やっぱりそうなのね。ありがとう。大切に使わせて頂きます」


 アリシアは受け取ったブレスレットを愛おしそうに見つめている。



「ああ、そういえば。最近こちらでも噂になっているのだけれど、お母様がとても素敵な新しい首飾りを手に入れられたそうね」

「えええっ! そんな話がこの国まで伝わっているのですか?」

「ええ。とても見事な細工の品だとかで、どうにか似たような物でも良いから手に入れることはできないかと、私も何人かのご婦人方に聞かれているのよ」

「はあ……。まさかそんなことに」

「ギルベルトはその首飾りについての情報を知っているの?」

「知っているも何も、あれも僕が作ったんですよ」

「本当に?」

「ええ。以前姉上が国を出られる前に、僕が姉上に魔導石に魔力を込めて欲しいとお願いしたことを、姉上は覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、そうね。そんなこともあったわね」

「あの姉上の石も、少し加工して、首飾りの一部として使用しています」

「どういうこと?」

「実は、母上の体調が芳しくない日がしばらく続いていた時期があって……」



 パトリシアが寝込む事が多くなったのは、もちろんいろいろな疲れが出たせいもあるが、ローザが王立学院に入学したことも大きく影響していたのでは無いかとギルベルトは密かに考えていた。

 だが、学院に入学した以上、ローザもそうそう頻繁には王宮に戻れない。

 それならば、ローザの代わりに、ローザの光の魔力を込めた魔導石を使って、普段から身につけていられるアクセサリーをパトリシアに贈ってはどうかと考えたことを、ギルベルトはアリシアに伝えた。


「そこで、その首飾りを贈ることにしたのね?」

「そうです。首飾りのメインとして大きな薔薇の花を三つ制作しました。その薔薇の花に母上が元気になるようにと願いながら、ローザには魔力を込めてもらいました」


 アリシアは真剣にギルベルトの話に耳を傾けている。


「姉上の緑色の魔導石は葉っぱの形に加工しました。僕とアスールの物は飾りになる部分に使っています。母上の首飾りは四人分の愛情と魔力を込めた贈り物ってことです」

「そうだったのね。とても素敵な話だわ」

「ですが、あまりにも見た目に凝り過ぎて、普段使いには不向きな程の仕上がりになってしまったのですよ。それで、そのブレスレットを追加で普段使い用として作ることにしたのです」

「ふふふ。そういうことだったのね」

お読みいただき、ありがとうございます。

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