22 王立学院入学試験
一の月も半分が過ぎた頃、学院では三日間の日程で入学試験が行われる。
三日間といっても、三日連続で試験を受けるわけではなく、入学希望者が多いために受ける日時が受験生に振り分けられていて、各人算術の試験と面接、それから魔力量の検査がある。
最初の二日間は平民の、最終日が貴族の試験日だ。
一学年の定員は百名。貴族が二十名前後、残りが平民枠になっている。
カルロが王位に就いてすぐに行った改革の目玉は『教育』だったそうだ。
「最低限の読み書きと計算を全ての子どもたちに」と各都市に無料で学べる学校を建設した。初めのうちはまだ学校の必要性を疑問視するものも多かったようだが、今では八歳以上のほとんどの子どもが午前中は学校へ通っている。学校が無い小さな村では教会がその役割を担っている。
王立学院に入学可能年齢は十歳で、学院の要求レベルは非常に高い。
街の学校で二年間学んだ程度で合格することは困難らしく、試験を通過してくるのは個人的に家庭教師を雇えるような裕福な家の子がほとんどだそうだ。最低限の魔力量も必要なのでその門戸はさらに狭くなる。
貴族に対しても優遇措置は一切無い。
貴族が魔力量で不合格になることはまず無いが(魔力量で不合格を受けるのは貴族のプライドに係る重大な問題なので、通過出来ない程度の魔力量しか無い場合はそもそも受験はさせない)算術と面接の結果が芳しくなければ容赦なく不合格になるそうだ。
ちなみに試験に合格出来なかった場合でも、大きな都市には十三歳までは無料で通える学校がある。
貴族の場合は家庭教師だろう。
貴族の中にはそもそも学院を選択肢に入れずに家庭教師に全て任せる家も多い。第一王女のアリシア姫もその一人だ。
王立学院は王都クリスタリアから馬車で二時間ほど離れた国有地にあり、周りには森と泉、そこから流れ出る小川しか無い。学院は全寮制で、寮は三棟ある。
一番大きい北寮は平民用の寮。全て四人部屋の寮で、寮費と寮内の食費は全額無料だそうだ。
後の二棟は、西寮は平民寮、東寮が貴族寮。この二つの寮に関しては、部屋の大きさに応じて寮費が細かく設定されている。
「この後に行われる面接試験についてですが、各自指定の時間までに指示された部屋へお越し下さい。時間に遅れた場合は受験放棄とみなします。今から行われる算術試験を終了したした方は退出しても構いません。では、始めてください」
試験が始まった。
基礎的な問題が多く、これといって手を焼くほどの難問も無い。アスールは見直しも終え、半分以上の時間を残して教室を出た。
(面接までまだかなり時間があるなあ……)
どう時間を潰して待つかを考えていると教室の扉が開いて、相変わらずの無表情でマティアスが出て来た。「お待たせ」と手をあげながらすぐに笑顔のルシオが続く。とりあえず3人で中庭のベンチへ移動する。
「想像してたよりも簡単だったね」
「確かに」
「というよりは、バルマー伯爵の予想問題が難し過ぎたってことだろ?」
「「ああ、それは言える!」」
二日前、剣術の稽古をしているとバルマー伯爵がふらりとやって来て、しばらく稽古を眺めた後でディールス侯爵に何かの紙を渡して城へと戻って行った。稽古が終わると侯爵がマティアスを呼んで、こう言うのが聞こえた。
「学院入学試験の予想問題だそうだ。着替えをしたら図書室で問題を解いて、終わり次第答え合わせをするので、三人揃ってバルマー伯爵の部屋まで行くように」
その予想問題は、今日の試験とは比べ物にならないほど難しかったのだ。
なんとか答案用紙を埋め持っていくと、バルマー伯爵は僕らがそれぞれ間違えた問題を丁寧に解説してくれた。
それから「必ず見直しをするように!」と念押しをされてから三人は解放されたのだった。
「父上たちの時代は、今よりもっと難しい問題ばかりだったのかな?」
「そういうことでは無いだろ。敢えて難しい問題をバルマー伯爵は僕らに与えたんだと思う」
「僕もそう思うよ。あのレベルを想像していたから、正直ちょっと今日の試験は拍子抜けだったけどね」
「「言える!」」
アスールとルシオとマティアスの三人は他愛もないお喋りをしながら面接迄の時間を潰した。
名前を呼ばれて部屋に入ると、面接官が三人並んで座っていた。アスールは指定された席につく。
質問をするのは真ん中に座っている一人だけだった。特に答えにくい質問をされるわけでもなく面接はあっという間に終わり、最後に右側の面接官が小さな魔導具を出してテーブルに置き、それを握るように言われた。
前にカーリム博士と魔力量を測る時に使ったものとは随分と見た目も大きさも違う。
アスールが手に取った瞬間、それは強い光を放った。
「問題ありません。お帰り頂いて結構です」
呆気ないほど面接は簡単なものだった。
アスールたちは三人はそれぞれの家の馬車に乗り帰路についた。試験結果は二週間後に送られて来るそうだ。
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