閑話 ヴィオレータ・クリスタリアの独白
私はヴィオレータ・クリスタリア。十一歳。クリスタリア国の第二王女です。
私の母であるエルダは王の第二夫人という立場で、隣国ガルージオン国の出身です。母には私の他にもう一人ドミニクという息子がいます。兄はこの国の第一王子です。
ガルージオン国は『武芸を極めることを好む肉体派の民族』と他国の人々からは言われています。実際にそうなのでしょう。兄のドミニクもまさにそのタイプです。私にしても、刺繍や裁縫といったことよりも、乗馬や鍛錬の方が性に合っていると思います。
私の父でもある現クリスタリア国王のカルロは、全ての点において私の目標であり、私が最も憧れる人物です。
城の中央の廊下には父がまだ少年だった頃の肖像画が飾ってあるのですが、その絵は私のお気に入りです。私は小さな頃からよくその廊下まで肖像画を見に通ったものです。
今よりずっと日に焼けた肌、宝石のように輝くブルーの瞳、美しい黄金色の髪を無造作に束ねた肖像画の中の少年は、“王子” と言うよりはむしろ “冒険者” のように見えます。
私は母親似の真っ直ぐな黒髪。これはこれでとても気に入っています。
ですが、兄のシアンや弟のアスールのような父親譲りの金色の髪が、ほんの少しだけ羨ましかったりもします。
こう見えて私は、美しいもの、繊細なもの、そして特に小さくて可愛いものが大好きなのです。
ただし、自分自身がそうありたいと願っているわけではありません。私にはそういったものが全く似合わないことをよく理解しているので、服にしても持ち物にしても、絶対にそういった物を選ぶことはありません。
実際、ヒラヒラした袖は邪魔になるし、美しいレースなどは心惹かれることはあっても、もしも引っ掛けて破いてしまわないかと心配するくらいなら着ない方が気が楽ですよね。
ですから私は、普段から動き易い服を好んで着用しています。
数日前のこと、私は王族の義務として “成人祝賀の宴” に列席致しました。
あのような場では、着飾った方々の参加も多いので、それを眺めるのはまあまあ楽しい時間です。
ですが、この日は特別でした。
なんと父上が私が『東翼』を訪問することを許可して下さったのですから。
私の母であるエルダと、その子どもである兄ドミニクと私は、普段は王宮の西翼で生活しています。
何かしら用事があって王宮の本棟にある図書室や執務室へ出向くことはあっても、第一夫人であるパトリシア様とそのお子たちが暮らす東翼に私が行くことは絶対にあり得ないことなのです。
嬉しさの余り天にも昇る心持ちとは、きっとこういうことを言うのでしょう。
東翼は想像していたよりもずっと素敵な場所でした。
調度品はどれも選び抜かれた品々で、パトリシア様の趣味の良さがそこに表れているのだと思いました。どれもウットリと見惚れてしまう物ばかり。
余りに私がキョロキョロとあちこちを観察しているので、アスールは私を不審人物でも見るような目で見ていたくらいです。でも良いのです。こんなチャンスは二度と無いかもしれないのですから。
調度品以上に素敵だったのは、ローザと一緒にお喋りをしながら味わったその日の夕食です。
ローザのことは前々から「可愛い子だなぁ」と思っておりました。
歩くたびにふわりと揺れるシルバーブロンドの髪、色白で愛らしいお顔。その中で際立つエメラルドのように輝く瞳。まるでビスク・ドールのよう。
まだローザはデビュー前です。
公式の席で一緒になることもありません。小さいローザが中庭を散歩している姿を私が一方的に遠くから眺めるくらいで、まともに会話をしたのは今回が初めてではないでしょうか。
あらためて近くで見れば、その見た目はもちろん、話をするローザのなんて愛らしいこと!
「ヴィオレータ姉様?」とローザから声をかけられた時には、嬉しさと感動の余り私は気を失うかと思ったほどです。
そういえば、ローザは乗馬に興味があるようでしたね。
ああ、一緒に城の近くの森でトレイルライディングなんて出来たら本当に素敵。
機会があれば、今度誘ってみようかしら。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすれば出来ます。




