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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第五部 王立学院四年目編
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閑話 リーナ・サイトの独白

 驚きました。焦りました。冷や汗って本当に出るのですね……。

 あっ。


 私の名前はリーナ・サイト。十三歳です。

 クリスタリア国の王都ヴィスタルで、出版ギルドを運営しているサイト家の長女です。

 祖父がギルド長、祖母が副ギルド長、父が経理主長、叔父が事業主長。その子どもたちを含めた親戚総出の家族経営のギルドです。

 出版ギルドでは、大まかに言って本や新聞の印刷、製本、流通、販売を取りまとめています。


 私には少し年の離れた兄が二人いて、二人とも王立学院の卒業生です。

 その二人の兄たちもギルド職員です。上の兄が経理担当。下の兄が窓口担当です。兄たちは “商科コース” を卒業しました。もちろん家の仕事を手伝うのに最適なのが “商科コース” だからというのが理由です。

 でも、私はその当然に逆らう決心をしたのです!



 昨年。今から丁度一年前。学院を揺るがすような出来事がありました。


 この国の第二王女のヴィオレータ様は、第四学年に進級される際のコース選択で “淑女コース” をお選びになりました。(この国の高位貴族のご令嬢は大抵 “淑女コース” に進まれます)

 既に在学中から婚約者がいらっしゃる方も多いですし、殆どのご令嬢はお仕事に就かれることなく数年以内にご結婚されます。

 そういった点からしても “淑女コース” を選ぶことは、ご令嬢方にとっては極々自然なことなのです。

 ところが、ヴィオレータ様は “淑女コース” に進みながら、その選択科目の中身は、まるで “騎士コース” と見紛う内容だったそうです。

 つまりヴィオレータ様は、王族としての義務に配慮しつつも、ご自身の本当の希望を見事に勝ち取られたわけです。


 このことは、ちっぽけな存在である私にも、大きな勇気と希望を与えることになったのです。

 私も自分の道を自分で選び取る決心をしました。家族から当然と思われている “卒業後はそのままギルド職員となる道” ではなく、やりたい仕事に就くための道を進むのです!

 それが例え茨の道であったとしても!



 話は変わりますが、小さい頃の私は本が大好きな子どもでした。

 家族が忙しく、放って置かれることが多くても、本さえ与えてもらえれば、どれだけの長時間も苦にはなりませんでした。家業からして、家に本は沢山ありましたし。

 そんな本好きの私にとって、王都に一つだけある王立図書館は最も好きな場所です。

 王立図書館は、平民であっても、子どもであっても、登録さえしてあれば、図書館内で本を読むことも、週に一冊までなら借り出すことも可能なのです。


 学院に在学中の今は、学院の図書室が私の憩いの場所です。学生の間は、好きなだけ本を借りて読むことができますからね。

 私は図書室で読みたい本を選び、寮の部屋に持ち帰って借りてきた本を読んでいます。(図書室にはもちろん閲覧室もありますが、そこを利用して読書をする学生は殆ど居ません。居たとしても試験前に勉強をする方が数名程度でしょう)


 学院入学から半年くらい過ぎた頃だったでしょうか。

 閲覧室の奥にはとても大きくて美しい貴石が置かれていて、夕方になるとその貴石に日が差してとても素敵だという噂を聞きました。

 一度だけ試しに見に行ってみたことがあるのですが、奥のキャレルではお二人の王子殿下がお話をされていて……。

 あまりの神々しい雰囲気に、その時の私は圧倒されてしまい、以来閲覧室の奥へは行くことができないままです。


 ところが、その神々しい王子殿下のお一人と、今年、私は同じクラスになりました。それどころか、殿下のすぐ近くの席に座ることになってしまったのです。

 と言うのも、クラス替え前日、借りていた本に夢中になり過ぎた私は寝坊をしてしまいました。その上、遅刻ギリギリに教室に飛び込むという失態まで犯してしまいました。

 慌てて駆け込んだ教室内は男子学生ばかり。唯一見つけた女子学生のお隣の席が空いているのに気付いた私は、よく確かめもせずにその席に荷物を置いてしまったのです。……まさかそこが、貴族のご令嬢のお隣の席とは気付かずに。


 クラスに女子学生は私とその方だけ。ヴァネッサ・ノーチ男爵令嬢はとてもお優しい方で、すぐに打ち解けることができました。

 私にとっては初めてできた貴族の友人です。(今までの三年間では同じクラスのご令嬢方とは、朝の挨拶をする程度でしたから)

 そのヴァネッサさん(“様” 呼びはしない約束をさせられました)を通して、アスール殿下とそのご友人方ともお話しさせて頂いています。

 とは言え、緊張のあまり、何を話しているか殆ど記憶がありませんが……。いつかこの状況に慣れることができるでしょうか?


 ああ、話がすっかり逸れてしまいましたね。

 私が “商科コース” ではなく “分科コース” に進んだ理由は、将来王立図書館に勤務したいためです。もしくは王立学院の図書室か。

 調べたところ、王立図書館の職員も学院の図書室の司書の方も “分科コース” の卒業生なのが分かりました。

 詳しいことは今後更に調べる必要がありますが、可能性があるのであれば私は前に進むだけです!


 残り二年の学院での生活を楽しみつつ、夢に向かって頑張ります!

お読みいただき、ありがとうございます。

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