プロローグ
一度気になりだすと、それまで何とも思っていなかったことがひどく気になって、どうにも仕方がないのは何故なのだろうか。
少し前の夏の夜。
もう何十年も会わずにいた懐かしい友と、思い掛けず再会を果たした。何十年? ああ、もしかすると優に百年以上は経っているかもしれない。
まあ、私たちにとっては十年だろうが百年だろうが、どちらも大した違いは無い。
私の記憶の中に居るその友は、気分屋で、その上かなりの気難し屋だった。にも関わらず、久しぶりに互いに顔を合わせてみたら、随分と友の纏う雰囲気が変わっていることに驚かされた。
その上、事もあろうに『人の子と契約を結んだ!』などと、誇らし気に私に向かって言うではないか!
私も友も、神が作りし誇り高き “神獣”。人の子と馴れ合うなど……。
だが、友が人の子と契約を交わすことに、文句ばかりも言ってはいられないのもまた事実。
“ティーグル” である友は、光の魔力を糧とする。光の魔力は人の子にしか作り出せない。
自然の中に溢れている魔力を取り込むことで命を繋ぐことのできる私を含む他の神獣たちと、ティーグルである友とでは、そもそも生きる術が違うのだ。
その友は、主となった小さな子どもから、新しい “名前” で呼ばれておった。確か “レガリア” と言ったか。
まあ、悪くは無い。
季節が巡りまた夏が来た。私はてっきり友が人の子と共に、またこの地へとやって来るものだと思っていた。
だが、友も、友の主となった小さな娘も、それから霧の中で出会ったあの少年も、私に会いには来なかった。
山から聞き覚えのある声がするので行ってはみたが、そこに居たのはあの少年では無い。微かにあの少年の匂いはするが、全く別の子どもが二人彷徨っていた。
可笑しなことだ。人の子とは、どうして揃いも揃ってああして道に迷うのか……。
冬が終わり、また春がやって来る。
次の夏こそは、友は私を訪ねてここへとやって来るだろうか?
友は望んで人の子と共に居ると言っていた。人の子と生きるのも存外愉快なものだとも言っていた。
本当にそうなのだろうか?
ここでは無い、別の何処かへ行って人の子と共に暮らすなど……私にも可能なのだろうか?
第4部 学院三年目編 スタートです。
第四学年に進級したアスールと友人たち。アスールの過去を知ったことで、友人たちの生活にも大きな変化が訪れます。
ドミニクが結婚したことで、第二王子のギルベルトの元には国内外の有力貴族から次々と縁談話が持ち込まれはじめます。クリスタリア王家の子どもたちを取り巻く大人たちの思惑を前に……。
引き続き楽しんで頂けたら幸いです。
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