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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第四部 王立学院三年目編
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53 パトリシアの首飾り

「もう、父上たちとの話は終わったの?」


 アスールがパトリシアの部屋に入って行くと、ギルベルトがアスールに近寄り、小さな声で聞いてきた。


「……はい」

「大丈夫かい?」

「大丈夫です」

「なら、良いけど。無理は禁物だよ」


 ギルベルトはそう言いながらアスールの背中を、ポンポンと労わるように叩いた。


「ありがとうございます。でも、そう言う兄上もなんだか随分とお疲れのように見えますよ」

「まあ、そうなんだよね。ちょっと頑張ったからね」


 そう言ってギルベルトはアスールにウィンクをした。



「母上、ただいま戻りました」

「アスール、おかえりなさい。お話は済んだの?」

「はい」


 今日のパトリシアは顔色もとても良く、体調も問題無さそうに見える。ベッドから起き出して、ソファーの方に座っている。


「アス兄様、早くそちらへお座り下さい!ギルベルトお兄様も!」


 レガリアを膝に抱き、パトリシアの横にピタリと寄り添って座るローザが、アスールとギルベルトに早くソファーに座るようにと促した。


「はい、はい」


 ギルベルトがそう言って笑いながらアスールの横に腰を下ろした。アスールが向かいに座るローザを見ると、ローザは楽しくて堪らない! といった表情を浮かべている。


「母上。少し早いのですが、僕たち兄妹から母上に誕生日プレゼントを用意しました」


 ギルベルトが綺麗なリボンがかけられた箱を取り出し、パトリシアの前にすっと置いた。


「まあ! なんてことでしょう!」


 パトリシアの顔がパッと輝いた。テーブルに置かれた箱を手に取り、嬉しそうにその箱を抱きしめている。


「お母様、早く開けて、中を見て下さい!」

「ああ、そうね。何が入っているのかしら?」


 パトリシアがリボンをほどき、ゆっくりと箱を開けた。


「まあ! 素敵だわ! 首飾りね?」

「お母様。この首飾りに使われている宝石は全部、皆で魔力を込めて色を付けた物なのですよ!」


 ローザが得意気にパトリシアに説明している。


「もしかして、この緑色。……染めたのは、アリシアなの?」


 パトリシアは首飾りを手に取り、驚いた顔でギルベルトに聞いた。


「そうです。姉上がハクブルム国へ発つ前に、いずれ何かに使えるかもしれないと思って、いくつか魔導石を染めて貰っていた物を加工しました」

「まあ、なんて事でしょう!」

「お母様、この薔薇が私で、薄い青の石がギルベルトお兄様で、濃い方の青がアス兄様ですよ!」

「ええ、ええ。そうね、本当に素敵だわ」


 パトリシアは手に持った首飾りを愛おしそうに触っている。


「こんなに嬉しい誕生日の贈り物を子どもたちから受け取れるなんて、私はなんて幸せな母親なのかしら。本当にありがとう!」

「お母様、首飾りを着けて見せて下さいませ!」

「そうね。ローザ、お願いできるかしら?」

「もちろんです」


 ローザは首飾りをパトリシアから受け取ると、ソファーの後ろへ回って慎重な手付きでパトリシアの首に取り付けた。

 控えていたパトリシアの側仕えが、手鏡をパトリシアに手渡した。


「まあ。なんて素敵なんでしょう!」

「良くお似合いですよ、母上」

「ありがとう。嬉しいわ!」


 パトリシアは手鏡を覗き込み、幸せそうに微笑んでいる。


「実は、もう一つあるんです」

「「えっ?」」


 思いがけないギルベルトの台詞に、アスールとローザの声が揃った。


「最初に考えていたよりも豪華な仕上がりになってしまったので、それだと普段使いはできませんよね?」

「そうね」

「ですから、こちらも作ってみました。これなら日常使いも可能かなと思いまして。折角ローザの光の魔力が込められているのですから、母上には常に身に着けて頂かないと」


 ギルベルトがそう言って取り出したのは、魔導石がぐるりと一周並んだブレスレットだ。殆どがピンク色の魔導石で、所々に他の三色の石が配置されている。


「ローザにとって魔導石に魔力を込めるのは今回が初めての挑戦だったので、練習をした結果染め上がった魔導石が沢山できたのです。それを中心にブレスレットを作ってみました」


 ギルベルトやアスールが魔力を込めた魔導石は、殆ど全てがほぼ均一の色に染め上がるのに、ローザが魔力を込めると、何故だか濃いピンク色の物や、薄いピンク色の物など、いろいろな色合いの魔導石になってしまったのだ。


 何度か試しているうちに、ローザがパトリシアのことを強く思って魔力を込めた魔鉱石の方が、より濃いピンク色になる場合が多いことが分かった。

 ただ、必ずしもそうとも言えない色合いになる場合もあり、何度も試行錯誤を繰り返しているうちに、結果として “光の魔力を含む” 様々な色味のピンク色の魔鉱石が大量に完成してしまった。


「結局色合いに変化が出る本当の理由に関しては、今のところまだ分かっていないのです。ですが、そのお陰でこうして見た目はとても華やかになりましたので良しとしましょう」


 そう言って、ギルベルトはパトリシアの首飾りを指し示した。


 確かにローザが魔力で染め上げた三つの薔薇は、少しずつ色合いが微妙に違っている。ギルベルトの言うように、それがかえって美しいとも言える。


「それに均一の色で無いので、知らぬ者が見れば魔力で染め上げたとは思わないでしょうしね」


 ローザが光の魔力の持ち主であることを秘匿している以上、パトリシアの首飾りの “薔薇” が光の魔力を帯びていると知られない方が確かに都合が良いのだ。


「兄上が疲れた顔をしているのは、首飾りだけで無く、ブレスレットも作っておられたからだったのですね。仕事もあるのに、仕上げ作業を全て兄上に任せてしまい申し訳ありませんでした」

「良いんだよ。僕は楽しくやっているんだから。と言うか……。実は寝不足なのはこれのせいだけじゃ無いんだよね」


 そう言って、ギルベルトは悪戯っ子のように笑いながら上着のポケットに手を突っ込んだ。

 カチャカチャと何かがぶつかり合う音が聞こえる。ギルベルトが掴んで取り出した物を、ひとまとめにしてテーブルの上に置いた。


「まあ!」

「うわっ!」


 少々乱雑に積み上げられたのは、ギルベルトがつい今しがたパトリシアに渡したブレスレットと同じ物のように見える。


「ギルベルトお兄様、これって、もしかして……」

「そうだよ、ローザ。皆の分も作ったんだ。ローザは()()()が大好きだろう?」


 ギルベルトがニヤリと笑った。


「はい!」

「長さがいろいろとあるから、ローザには一番短い物が丁度良いと思うよ」


 ローザは嬉しそうに積み上げられたブレスレットをテーブルに一本一本順に並べていく。


「でしたら、この一番短いのが私ので、こっちの一番長いのは……お祖父様のですね?」


 アスールもローザから手渡された一本を受け取った。


「ねえ、ギルベルトお兄様」

「なんだい?」

「アリシアお姉様には……どうやってこのブレスレットをお渡しになるのですか?」

「ああ、すぐに届けるのはちょっと難しいね。いつか誰かがハクブルム国へ行く時に、持って行って貰えるようにお願いするしかないかな」

「……そうですよね」


「ふあああぁぁぁ。ああ、失礼」


 ギルベルトがこんなに大きな欠伸を人前でするなんて珍しい。


「兄上、やはりお疲れのようですね。もしかして、寝不足の原因はこの大量のブレスレットでは?」

「ちょっとばかり熱中してしまっただけだよ。今日に間に合わせたかったし、ローザの魔導石は使い切ってしまいたかったからね」


 ギルベルトは余計なことを言わないようにとでも言うかのように、アスールに向かって唇に指を当てて見せた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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