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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第四部 王立学院三年目編
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49 ザーリア姫とその従者

 打ち合わせがあると言って茶会を終わらせ、フェルナンドと共に “赤の間” を退出したカルロは、その足で執務室へと戻った。

 すぐに、ギルベルトとドミニクが大量の書類を抱えたフレド・バルマー侯爵と共に執務室へとやって来た。

 しばらくすると扉をノックする音が聞こえ、イズマエル・ディールス侯爵が足早に執務室へと入って来る。その後ろにザーリア姫と、先程まで “赤の間” に一緒に居たガルージオン国の二人の姿もあった。


「悪いな。場所を移動させてしまうことになって」


 全員が着席したのを確認した後でカルロがそう言った。


「あのままあそこで話が進むと、とてもじゃ無いが、子どもたちに聞かせても良い話では無くなりそうじゃったからの……」


 フェルナンドが続ける。


「それに、今後の対応もある。フレドやイズマエルにもどうせなら一緒に話を聞いておいて貰った方が良いじゃろうと思ってな。そうだろう、カルロ?」

「ええ、その通りだと思います。父上のお気遣い、感謝します」

「では、改めて聞かせてもらおうかの。ガルージオンの現状を」



 フェルナンドに促され、ザーリアは意を決したように大きく頷いてから、静かに語り出した。


「今、ガルージオン王家は、いつ何が起きてもおかしくない程に混乱しているのです」


 そう話すザーリアの顔からは、先程までの “お茶会” での楽しそうな笑顔は消え失せ、少し青褪めているようにさえ見える。


「二ヶ月前、私は二人居る兄のうちの一人を失っております。もう一人の兄も……その時に酷い怪我を負い、その怪我を理由に王位継承の権利を失いました」



 ザーリアの話によれば、招待を受けて出席したとある貴族の晩餐会からの帰り道、二人の兄を乗せた馬車が強盗団に襲われたのだと言う。

 常識的に考えれば、王家の紋章を付け、護衛が前後を付き従うような馬車を襲うような間抜けな強盗団などいる筈は無い。それでも馬車は襲われた。


 四人居た護衛は大怪我をし、馬車に乗っていた長兄は深手により死亡、次兄は二度と自力では歩くことができない程の大怪我を右足に負ってしまった。

 そんな惨事の中、何故か一人だけ軽い怪我だけで済んだ御者は、事件から数日後に酔っ払って川へと転落し、溺死したと報告があったそうだ。


「……犯人は? その強盗団は捕まったのですか?」


 ギルベルトの問いに、ザーリアは唇を噛み締め、首を横に振った。


「恐らく指示を出したのだろうと思われる人物には目星がついているのです。でも、証拠がありません……」


 ザーリアに代わってそう言ったのは、侍女頭のマーラ・ガインだ。


「私は先代のシェルン伯爵の長女でございます。ここに居るジュールの父親が私のすぐ下の弟で、現シェルン伯爵家の当主。一番下の妹がザーリア姫様の母親。私たち三人は、そういった間柄なのです」



 マーラは若くして、ガルージオン国とクリスタリア国の国境近くに領地を持つ、ガイン伯爵家へと嫁いだ。数年前、夫であるガイン伯爵は病を患って亡くなり、現在は長男が伯爵位を継いでいるそうだ。

 マーラは孫たちに囲まれて領地で幸せに暮らしていたのだと言った。


「私のところは王都からかなり離れているため、情報が流れてくる迄に時間がかかります。王都で起きている不穏な出来事に関しての噂話が私の耳に入った時には、もうすでにいろいろなことが手遅れの状態でした……。悔やんでも悔やみきれません」



 マーラは妹家族の不幸を知り、急いで王宮へ駆け付けた。妹から頼まれたのは、一刻も早く無事に娘をクリスタリア国へと送り届けて欲しいと言うことだったそうだ。

 このままガルージオン国内に留まっていては、ザーリアの身にも危険が及ぶかもしれないと危惧したのだろう。

 マーラは妹にザーリアを必ず守ると約束し、侍女としてクリスタリアへの一向に加わったのだ。



「他国の王族との婚約が決まっている者まで危険に晒される恐れがある程、それ程までにガルージオン王家は継承争いで揉めているのですか?」


 フレドが聞いた。


「……そうなのだと思います」



 ガルージオン国王には、夫人が第一から第七までの七人居たそうだ。過去形なのは既に二人が亡くなっているからだ。

 この七人に関しては全て貴族の元ご令嬢で、ガルージオン国王とは正式な婚姻関係にあると言う。

 その他に国王には愛妾が数名居るらしい。子どもを産んで、母となっている女性だけでも八人。それ以外に関しては、私では分からないと言ってザーリアは冷ややかに笑った。



「……あり得ない」


 ギルベルトが小さく呟いてから、思わず口から溢れ出た自分の台詞(せりふ)にハッと息をのんだ。


「申し訳ありませんでした」


 と、誰に言うでもなく、ギルベルトは謝罪の言葉を述べた。



「私の母は第七夫人です。母は伯爵家の出身ではありますが、シェルン伯爵家はガルージオン国内でそれ程有力な家ではありません。その為、母には王宮での発言権は無いに等しいのです」


 ガルージオン王宮の夫人たちの中で実権を握っているのは、第一夫人と第四夫人の二人だそうだ。

 この二人はガルージオン国の有力な公爵家を後ろ盾に持ち、人脈的にも金銭的にも王家に対し幅を利かせているとザーリアは言った。


「第二、第五夫人は……お二人ともこの二年の間に相次いでお亡くなりになっています。毒殺ではないかとの噂話が囁かれていますが、真偽の程は分かりません」


 死亡した二人の夫人の共通点は()()()()()()()()()()()では無いかとザーリアは言った。それらの王子は後ろ盾である母親を失ったことになる。

 今も存命の第三、第六夫人には男児は居らず、王女には王位継承権は無い。

 そして、第七夫人であるザーリアの母親は、片方の息子を失い、もう片方の息子は命は繋ぎ止めたが継承権を失っているに等しい立場になってしまったそうだ。


「王子は、確か十六人居るとのことでしたが?」

「その通りです。ですが、正式な婚姻関係に無い方との間に生まれた男児は王子として数えられてはいますが、実際には継承権は無いに等しいのです」

「それは、つまり母親に地位も後ろ盾も無いことが理由と言うことですね?」

「はい」

「第二、第七王子は第一夫人のお子です。第一、第四王子は第二夫人だった母親を失いました。第四夫人のお子は第十王子です。第十三王子も第五夫人だった母親を亡くしています」

「そうなると……継承争いの最前線に居るのは、第二、第七、第十王子ということになりますね」


 メモを取りながらザーリアの話を聞いていたフレドが、溜息混じりにそう言った。


「はい。ちなみに私の兄たちは第十五、第十六王子です」


 ザーリアがぽつりと呟いた。


「呆れた国だな!」


 怒りに任せ、ドミニクが握った拳をテーブルに振り下ろした。


「……申し訳ありません」


 ザーリアがビクッと身をすくめる。


「ザーリア。貴女が謝る必要は無い。怖がらせたなら……すまない」


 ドミニクが慌てて隣に座るザーリアを気遣っている。


 ギルベルトはそんなドミニクの姿に驚いた。どちらかといえば人の心の機微に疎い兄が、婚約者に気遣い、心を砕いている。

 ドミニクにどんな心境の変化があったのだろうか?


 ふとギルベルトが顔を上げると、テーブルの向こう側でカルロ、フェルナンド、フレドの三人が揃ってドミニクとザーリアの寄り添う姿を、驚きに満ちた表情で見つめているではないか!


(お三方。驚くのは理解(わか)ります。でも、流石にそれは……見過ぎです!)

お読みいただき、ありがとうございます。

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