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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第四部 王立学院三年目編
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閑話 ルアンナ・ミュルリルの独白

 私はルアンナ・ミュルリル。年齢は二十一歳。ハクブルム国のミュルリル侯爵家の長女です。

 父はハクブルム国の宰相を務めております。弟のオスカーはクラウス皇太子の幼友達で、今は側近の一人です。

 そうですね、こう書き記してみると確かに家柄的には、私はハクブルム国内でもかなりの発言権も権力もある名門侯爵家の令嬢なのだと思います。



 私には生まれる前から家同士で決めた婚約者がおりました。

 お相手は、とある公爵家のご長男です。彼は現国王の弟の息子。(こんな風に書いてしまいますと、例えお名前を伏せても、分かる方には直ぐに分かってしまいますね)


 彼は、現国王がなかなか後継ぎに恵まれなかった為、五歳の年にお世継ぎとなられるクラウス様がお産まれになるまでは、王弟に続き、王位継承権第二位の地位にありました。

 その為か、お小さい頃から少し我儘で、若干癇癪持ちで、割と自分中心の考え方をするような……まあ、はっきり言ってしまえば甘やかされた唯の勘違い男です。(あら、つい本音が……)


 私も侯爵家の娘ですから、政略結婚というものに関して異を唱えるつもりは毛頭ございません。それどころか、貴族の家同士の結びつきは非常に重要だと理解しているつもりです。

 私は嫁ぎ先となる公爵家の為に、良き婚約者として自分の時間の多くを費やし、将来伴侶となる方のために生きてきたと言っても過言では無いと思います。

 例えそのお相手が、自分の事しか考えられないようなお方だったとしても……。


 ですが、我慢にも限度というものがございます。



 私の父から王家を通し、先方の公爵家に対し婚約破棄を申し出たのは、今からもう五年近く前の話です。


 当時私たちの婚約破棄の話題は、ハクブルム国の社交界でかなり大きなスキャンダルとして、人々の口に上りました。

 王弟殿下のご子息に対し婚約破棄を突き付けた “とんでもない令嬢” として、私はあることないこと様々に面白可笑しく噂されたものです。


 もちろん私の家族は、私がこの婚約を破棄することに対して理解を示してくれました。一方で、今後私が別の方と婚姻を結ぶ可能性はもうと無いだろうと諦めていたようにも思います。

 実際、私自身も諦めておりました。

 ならば、私はこれから先の自分の人生を、好きに、自由に、心の赴くままに生きようと心に決めたのです。



 私は趣味で絵を描いております。

 婚約破棄をして以降、ずっと屋敷に閉じこもってばかりいても仕方がないので、天気の良い日などは時々街に出てスケッチをしたり、散歩をして時を過ごします。

 もちろん、私一人で行くことは許されていないので護衛は付きますが、自分の足で気ままに街を歩くのは楽しいものです。


 一年程前のよく晴れた日、私はいつものように街歩きを楽しんでおりました。

 散歩中「王城が見渡せる小高い丘に、今の季節にしか咲かない花が満開で見頃になっている」との話を耳にした私は、その丘へと足を運びました。

 丘を登り切った場所で私が目にしたのは、話に聞いて想像していた以上に素晴らしい一面の花畑だったのです。

 手を繋ぎゆっくりと歩く老夫婦、はしゃぎ回る子どもたちを追いかける若い父親、お弁当を広げる家族連れ…… その場所には幸せそうな笑顔が溢れていました。


 そんな中、少し離れた場所で一人黙々と絵を描いている男性を見つけました。私も以前絵を描いたことのある、王城が見渡せる場所です。

 近付いてみると、案の定その絵描きは熱心に王城をスケッチしています。私が声をかけるまで、私が絵を覗き込んでいることにちっとも気付かないくらい熱心に。


 その絵描きは、装いこそ平民風でしたが、言葉遣いや振る舞いからして、おそらくかなりの身分と思われます。ただし、私の顔に見覚えが無いようなので、間違いなくこの国の貴族では無いでしょう。

 私たちはお互いに名乗ること無く、世間話や絵の話をして別れました。



 半月後、私はその絵描きと、まさかの再会を果たすのです。

 それは我がミュルリル侯爵家が揃って招かれていた、クラウス皇太子殿下の結婚式後の舞踏会でのことです。


 私は婚約解消後、晩餐会や舞踏会のお誘いを頂いても、余程の例外を除き欠席のお返事をお返ししておりました。

 ですが、流石に皇太子殿下の結婚祝いの舞踏会とあっては欠席できる筈もありません。私は渋々両親と弟と共に久しぶりに王城へと足を運んだのです。

 絵描きと思っていた人物は、皇太子殿下と()()()()()()()から来られたアリシア妃の横で和やかに談笑されていらっしゃいました。

 彼はアリシア様の重臣として滞在中のエルンスト・フォン・ヴィスマイヤー様と仰る、()()()()()()の貴族だったのです。



 弟のオスカーが皇太子の側近ということもあって、その後私もアリシア様と親しくなり、王宮に足を運ぶ回数が増えました。当然のように私がエルンスト様とお会いする回数も増えます。

 私はいつの間にかエルンスト様に恋をしていたのです。



 結婚式から一年が過ぎた頃、エルンスト様の帰国の話を耳にしました。

 エルンスト様が国にお帰りになってしまえば、おそらく私たちは二度とお目にかかることも叶わないでしょう。

 私は意を決してエルンスト様にお尋ねしてみたのです。「私と結婚する気は無いですか?」と。


 エルンスト様は私の言葉にしばし絶句した後で、楽しそうに笑い出されました。そしてこう仰ったのです。「喜んで」と。


 私の両親は両手を上げて祝福してくれました。結婚式は一年後に行い、その後、私はエルンスト様と共にロートス王国へと参ります。


 エルンスト様にはいろいろと複雑なご事情もあるようですが、エルンスト様とならどんな険しい道だとしても一緒に歩いて行ける気がするのです。

お読みいただき、ありがとうございます。

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