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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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16 アスールと新しい友人

 収穫祭でのゴタゴタも片付き、秋の終わりが近づいてきている。

 先日から剣の鍛錬には以前ディールス侯爵が予告していた通り、アスールと同じく春から学院入学予定の二人が加わっていた。



 一人目はバルマー伯爵家の次男、ルシオ・バルマー。

 幼い時からアスールとは知り合いのルシオは、髪の色も瞳の色も明るい栗色で外見は母であるラウラによく似ている。だが、母よりもかなりクセの強い彼の髪の毛は常にあっちこっちの方向に飛び跳ねていて、きちんとまとまっているのをアスールは見たことがない。

 性格は父親似だろう、飄々としていて小気味良い。


 二人目はオラリエ辺境伯家の三男、マティアス・オラリエ。

 彼の両親には会ったことがないので似ている似ていないは分からない。と言うのも、マティアスの実家は王都から遠く離れたオラリエの地にあるので、マティアスは入学の準備の為に現在はディールス侯爵家に滞在中なのだそうだ。

 ちなみにマティアスの母上は侯爵の妹なので、マティアスは侯爵の甥にあたる。



 鍛錬中は三人とも常にディールス侯爵の監視下にあるし、鍛錬が終わればマティアスはすぐに侯爵と一緒に帰ってしまうため、アスールもルシオもなかなか彼とは話も出来ないでいた。


「マティアスはやっぱり侯爵に似て無口なんだろうか? 見た目は……あまり似てないように思うけど、歩き方はそっくりだよね」


 去って行く侯爵とマティアスの後ろ姿を見送って、流石に二人に声は届かないだろうほどの距離が出来たのを確認してからルシオは口を開いた。


「確かに似てる!」


 アスールは声をあげて笑った。鍛錬中の張り詰めた緊張感が一気に溶けていく。

 この数週間、こんな感じで鍛錬の後はルシオと二人でくだらない話をして時を過ごしていた。

 出来ればマティアスとも一緒に話をしてみたいとは思うのだが、あの侯爵を前にするとどうしてもマティアスに声をかけるのを躊躇ってしまう。そして毎回こうして二人で彼の背中を見送る羽目になっているのだ。


「次こそ声をかけようよ。城の小さいサロンを借りて、お茶に誘うのはどう? 前もって断っておけば侯爵も許可を下さるかも。帰りは我が家の馬車で侯爵家までマティアスを送って行くよ」

「そうだね。サロンの方は僕が手配する。いつにする? 次回誘うとして、次の水の日はどうかな?」

「よし。そうしよう!」


 二人は『右肘を互いに合わせる』いつもの別れの合図をしてから、道具をかき集めてその場を離れた。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー 



「パトリシア様、本日はお招き頂きありがとうございます。オラリエ辺境伯家マルセロの三男、マティアスでございます」

「ようこそ、マティアス。そんなに緊張しなくて大丈夫よ。今日は正式なお茶会ではありませんし、気楽になさいね」

「あ、ありがとうございます」


 剣の訓練の後にマティアスと話をしてみたくて「ちょっとサロンを使いたい」と母であるパトリシアに相談をしてみたところ、パトリシアはディールス侯爵家を通してマティアスにお茶会の招待状を送ってしまい、いつのまにか話が大きくなってしまっていた。

 王妃を前にガチガチに緊張しているマティアスを見てルシオが肩を震わせながらも必死に笑いを堪えている。


「ルシオ。貴方もそんなところに立ったままニヤニヤしていないの。こっちに来て、早くお座りなさい。ほら、アスールも」

「「はい」」


 呼ばれた三人が席につくと、パトリシアはいつもの穏やかな口調で皆にお茶を勧めてくれる。


(今日のお茶は母上が最近好んで飲んでいるミルクティーのようだな。ジャムが真ん中にのった小さな焼き菓子が三種類。イチゴとチェリーとオレンジかな? やった! 大盤振る舞いだ)


 パトリシアがお茶を飲みながらひとしきり話をする。その後、極上の笑顔で退席の挨拶をすると、三人だけを残して部屋を出て行った。



「き、緊張した……」


 マティアスがはぁーっと大きな息を吐き、ガクリと脱力した。それを見たルシオが声をあげて笑う。


「マティアス、君っていつも稽古の時は鉄仮面みたいにずっと無表情でいるのに、ここに来てからは青くなったり赤くなったり。百面相を見ているみたいで面白かったよ」

「酷いな。初めて王妃様にお目にかかったんだ。緊張するに決まっているだろ! 逆に君がなんでそんな平気そうにしているのか、僕には不思議でならないよ……」


 マティアスは思わずルシオに喰ってかかってしまってから「しまった!」と言う表情でアスールの方をちらりと覗き見た。


「ルシオは幼い頃からしょっちゅう城に出入りしているから、もうずっとこんな感じなんだ。マティアス、君も僕に対して気を遣い過ぎる必要は無いよ。春からは王立学院で一緒に学ぶことになるだろうし、僕は君とも友人になりたいと思っているんだ」

「僕だってそうだよ! 友人! 友人!」


 ルシオが焼き菓子を頬張りながらアスールの考えに同意する。マティアスはルシオのその余りにも軽薄過ぎる “友人宣言” を聞いてブフッと吹き出した。


「ありがとうございます。殿下」

「僕らだけの時はアスールで良いよ。殿下は必要ない」

「……でも」

「アスールが良いって言ってるんだから良いんじゃない? 僕のこともルシオって呼んでよ」

「じゃあ、他に人が居ない時はそうさせて頂きます」

「「うーん。まだ固い!」」


 この三人でなら上手く付き合っていけそうな予感がして、アスールは次回からのキツい稽古も少しだけ楽しみになった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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