プロローグ
卒業式が終わり、翌日の終了式が済むと、学院内にある三つの寮から卒業生たちの荷物が慌ただしく運び出されて行く。
学院の五分の一の子供たちが一斉にここから巣立っていくのだ。正直、寂しくはある。
どの子も幼さの残る入学当初の面影は薄れ、すっかり大人っぽく、それぞれが王立学院での五年間で立派に成長していったことが分かる。
こうして卒業生たちを見送ることに、私もすっかり慣れてしまった。
卒業生と入れ替わりに入って来る新入生のための寮の部屋の改造工事は、この時期の恒例行事となっている。
この長期休暇の間には、室内からだけでなく、室外からも何やら工事の音が聞こえてきていた。
私の目の前に建つ東寮の二階にある両端の部屋のベランダに、今年は二つばかり新しい鳥小屋が完成したようだ。
春を待ち切れなかったのだろうか、少し気の早い子どもたちが何人か学舎へと戻って来た。その子らもどうやら件の鳥を連れている。
最近は学院に通う子どもたちの間で、鳥を飼うことが好まれているのだろうか?
それにしても、大空を自由に飛ぶための強く美しい翼を持って生まれて来る鳥たちを、あんなに小さな小屋に押し込めるなど、いったいどう言った了見だろうか?
大地に深く根を張り、この場所から一歩も動くことのできない私のような老木にとって、空を行き交う鳥たちほど憧れる存在は他に無い。
小さな鳥たちが私の枝で羽を休めている間に聞かせてくれる他愛もないお喋りを、私がどれ程楽しみにしているか……まあ、人間が知る由も無いな。
話し相手と言えば、一年前からよくこの中庭を散歩したり、授業中に私の足元でのんびりと昼寝をしていた神獣ティーグルの姿をこのところ見かけていない。
確か前に、小さな可愛らしい新入生と契約を交わし、その者から新しい名を与えられたと嬉しそうに言っていたが……。
まあ、心配せんでもそのうちふらりと姿を見せるだろう。
それにしても、あの神獣と契約を交わすくらいなのだから、あの小さな娘、おそらくは強力な光属性の持ち主に違いない。
この一年、気付けばずっと学院内の気は澄み渡っている。
私の調子がすこぶる良いのも、周りの花々が例年より色鮮やかなのも、もしかするとあの小さき娘の恩恵なのだろうか?
次にティーグルを見かけたら、聞いてみるのも面白いかもしれん。
第4部 学院三年目編 スタートです。
第三学年に進級したアスールと友人たち。それぞれが自分たちの将来について考え始めます。
結婚を控えるドミニク、学院を卒業したギルベルト、自分の生き甲斐を探すヴィオレータ、相変わらずふんわりなローザ、クリスタリア王家の子どもたちの生活にも少しずつ変化が訪れ……。
引き続き楽しんで頂けたら幸いです。
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