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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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61 授爵式と婚約発表

 冬の社交シーズンの間、各地から大勢の貴族たちが王都に集まって来ているため、王都ヴィスタルはなにかと賑やかだ。


 王宮だけでなく、多くの貴族の邸でもお茶会や晩餐会、舞踏会などがどこかで毎日のように開かれるので、呼ぶ方も呼ばれる方もよくよくその内容や参加者を吟味し、自分たちにとって最適な取捨選択をしなくてはならない。



 二の月も半ばを過ぎたこの日、王宮の “玉座の間” で授爵式が行われることになっている。

 授爵式とは、王より新しく爵位を賜る叙爵式、先代の爵位を受け継ぐ襲爵式、今までよりも上の爵位を賜る陞爵式のいずれか、またはいくつかをまとめて行う祝いの式典のことだ。


 代替わりにより襲爵自体は既に済ませている場合でも、国王より直接祝いの言葉と褒賞とを得られるこの式典に出席することは大変名誉なことであるため、莫大な費用と時間を掛けてでも、わざわざ地方から出てくる貴族も多い。

 そんな授爵者を祝うために、式典後には数多くの貴族たちが王宮に集い、祝いの宴も開かれる。



 今回、数名の授爵者の名簿の中にはフレド・バルマーの名もあった。

 タチェ自治共和国との関係強化など、これまでの数々の功績が認められ、フレド・バルマー伯爵が侯爵位を陞爵することになった。


 フレド・バルマーはまだほんの幼い頃から、当時のフェルナンド王の唯一の王子であったカルロの遊び仲間として、イズマエル・ディールスと共に王宮で多くの時間を過ごしてきた。

 カルロと同い年のフレドは、王立学院在学中も、学院卒業後も、カルロがまだ皇太子だった時代から王に即位した現在まで、長年に渡りカルロを一番近くで支え続けてきた。


 実はフレドへの陞爵の話が出たのは今回が初めてでは無い。

 過去何度か、フェルナンドからもカルロからもその打診はあった。だが、話が公になる前に毎回フレドはその打診を断り続けて来たのだ。

 名誉な話であるにも関わらずフレドがそれを拒み続けてきたのは、フレドが幼い頃から王の側にあり、側近の地位を手に入れているのは実力からでは無く、カルロの温情に寄る物だと揶揄する声が一部にあることをフレドが認識していたからに他ならない。


 最近ではそんな下らぬ陰口を言う者もすっかり居なくなった。

 フレドが学院卒業直後から所属している王宮府に於いて、現在は王宮長官となっているハリス・ドーチ侯爵に厳しく鍛えられ、これまで多くの結果を残して来たことは誰もが知るところとなっているからだ。

 現在フレド・バルマーはその実力で、王宮府副長官という確固たる地位を得ている。



「クリスタリア国王の名において、フレド・バルマーに侯爵位を与えるものとする」


 “玉座の間” の謂れともなっている玉座の上からカルロの足元に跪くフレドに対して陞爵が言い渡された。

 カルロの朗々たる宣言が玉座の間全体に響き渡る。その場に列席していた者たちからフレドに対する称賛の声と大きな拍手が沸き起こった。


「ありがたく拝命致します」

(ようや)く受けてくれたな」


 カルロは、フレドだけに聞こえる小さな声でそう言うと、友に対し、一瞬だけ悪戯っぽい笑顔を向けた。


「これ以上固辞していたら、友人を辞められかねないですからね」

「ああ。だいぶ待たされた」

「恐れ入ります」


 そう言ってフレドも笑顔を見せた。




 授爵式の後は場所を移して、祝いの宴が開かれた。

 祝いの席には、夏に成人を迎えたフレドの長男であるラモスの姿もある。フレドだけでなく、息子であるラモスの周りにも、次から次へとフレドの侯爵陞爵に対しての祝いの言葉を述べる貴族たちが押し寄せている。


「やあ、ラモス! 今日から君は侯爵家の御令息だね。おめでとう!」


 同じく先日成人し、名前を改めたばかりのギルベルトが、得意の王子様スマイル全開でラモスに近づいて来た。

 周りに居た貴族たちはギルベルトに気を遣ってか、一旦その場を離れて行った。


「……来てくれて助かったよ」

「随分と大勢に囲まれていたようだね」

「ああ。家の家格が上がった途端、こんなことになるとはね。正直、驚いたよ」


 ラモスは毎年のように成績優秀者に選ばれ、卒業式でも表彰を受けていた。その上、春からは事務官見習いとして王宮府に勤務することが決まっている。

 年頃の娘を持つ貴族たちにとっては、間違いなくラモスは()()()()()うちの一人なのだ。




 そんな中、それまでずっと演奏を続けていた楽団が曲の途中にも関わらず不意に演奏を止めた。

 その場で思い思いに話をしていた者たちが、いったい何事が起きたのかとキョロキョロと周りを見回している。


 騒めきの中、カルロがゆったりとした足取りで再び壇上へと登り、第一王子であるドミニクの名を呼んだ。

 ドミニクは父王の声に応えるようにすぐに壇上へと向かうと、カルロの横へと並ぶ。


「皆、歓談中だが聞いて貰いたい」


 皆の視線がカルロに集まった。


「この度、ここに居る我が息子、ドミニクの婚約が相成った。相手はガルージオン国王の十二番目の姫君、ザーリア姫殿下だ!」


 歓声が上がり、あちこちから壇上へ向かって「おめでとうございます!」との声がかかる。

カルロは軽く手を上げて歓声に応えると、そのまま先を続けた。


「他国からの輿入れということもあり、婚約式は一年近く先になるだろう。ドミニクには此度の婚約と結婚を機に王家直轄地の中からイーリア領を与え、一年後の叙爵式をもってイーリア公爵とする。良いな?」


 ドミニクはカルロに向かって膝をつくと「恐れ入ります」と短く言った。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「それでは、ドミニク兄様の婚約者の方はガルージオン国から来られるのですね?」

「そうらしいわ」


 授爵式の翌日、アスールとローザが王宮の図書室に居ると誰かから聞いたらしく、ヴィオレータが珍しく図書室へとやって来た。

 ヴィオレータはローザを見つけると、昨日明らかになったばかりのドミニクの婚約話に関して、仕入れたばかりの情報を事細かに喋り始めた。


 ヴィオレータとローザの話し声はそれまで静まり返っていた図書室内に響き渡り、少し離れたテーブルで本を読んでいたアスールの耳にも、例え聞く気はなくても全て聞こえてくる。

 アスールはページを捲るのを諦め、潔ぎよく、二人の話に耳を傾けることにした。


「ガルージオン国王様は、確かエルダ様の伯父様にあたる方でしたよね? ドミニク兄様の婚約者の方は……国王様の娘なのですか? 孫では無くて?」

「娘だそうよ。それも十二番目の!」

「十二番目ですか?」


 ローザが目を丸くしているのがはっきりと見える。


「そうよ。ザーリア姫は王の一番末のお子様なのですって。王女が十二人。王子に至っては十六人も居るらしいわ」

「それは……名前を覚えるのにも、ちょっと混乱してしまいそうですね」

「一体全体、何人の奥方様をお抱えなのかしら?」


 ヴィオレータの言葉にはかなり棘がある。


「ヴィオレータお姉様は、ザーリア様とは以前、お会いになられたのですよね?」

「ええ、アリシア姉上のお茶会で少しだけ。確かドミニク兄上よりも一歳下だと聞いたわ。あの時はまさかザーリア様が兄上の婚約者に選ばれるとは思っていなかったから、はっきり言って、あまり印象に残っていないのよね……」


 なんだかんだ言っていても、ヴィオレータは同腹の兄であるドミニクをとても大事に思っているのは明らかだ。

 だから、あからさまな不満とまでは言わないが “()()()()()姫君” に対して、それなりに思うところがあるように、アスールは感じていた。


「ザーリア様はいつクリスタリアに?」

「知らないわ」

「確か、お兄様はお父様から新しく領地を拝領されるのでしたよね?……お二人は結婚後そこでお暮らしになるのかしら? それともこのままこの王宮にお住まいになるのかしら?」

「どうかしら。これ以上詳しいことは、教えて貰えなかったわ」

「……そうですか」


 ヴィオレータの浮かない表情とは裏腹に、ローザは新しい登場人物の出現を心待ちにしているようにアスールには見えた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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