閑話 ホセ・ソラナスの独白
僕の名前はホセ・ソラナス。十一歳。
今年からクリスタリア王立学院に通う学生で、北部ケーレン州の出身です。
ケーレン州はクリスタリア国内でも豊かな穀倉地帯として知られています。僕の家族は親戚縁者皆で協力し合って、ケーレン州の中でもかなり大規模な農場を経営しています。
僕は珍しいと言われている “地属性” の持ち主で、両親の勧めもあり、実家からは遠く離れた王都近くの王立学院を受験したのです。
その属性を磨き、将来的に農場の発展に役立てて欲しいとの両親の願いを叶えたかったから。
ですが、実際に学院に入学してみて分かったのですが、地属性は珍しい属性であることは事実ですが、珍しいが故に資料や教本は少なく、教師に至っては学院に一人、それもかなり年配の先生だけしか居ないのです。
その上、直接目に見える魔力では無いため、学院内でも地属性の扱いは、正直、決して良いとは言えない状況です。
それでも「去年までと比べれば遥かに改善はされている!」と同じ地属性の上級生たちが話しているのを耳にしました。今年、第三王女のローザ様が入学されたからだそうです。
王女様と同じクラスになると最初に聞いた時には、これからの五年間、どれ程の無茶振りを我慢しなくてはならないのだろうかと恐怖を覚えましたが、実際に目の前に現れたローザ様は驚くほど普通の可愛らしい女の子でした。
物腰も柔らかく、他人に対しての気遣いもでき、真面目で勉強熱心です。噂では算術がかなり苦手だそうですが、地属性クラスでは算術は必要とはしないので、特に問題は無いと思います。
若干のんびり過ぎる感はありますが、クラスの人数は僕も含めて三人だけなので、こちらも特に問題は無いでしょう。
一年目の学院生活は、こうして無事に終了しました。……と、言いたいところですが、最後の最後に僕は大変な事態に巻き込まれたのです。
それは、ローザ様の何気無い一言から始まりました。
三年に一度だけ開かれるというダンスパーティーで「当日は一緒に踊りましょうね」とローザ様が僕に仰ったことがそもそもの発端です。
今回のパーティーでは、楽団によって “五曲” がダンス用に演奏されます。ローザ様は王女様なので、五曲しか無いダンスのお相手は、誰が考えても当然平民である筈はないでしょう。
もちろん、僕もそう考えていました。ローザ様がどう仰ったとしても、僕がパートナーになることなど絶対に無いと。
ですが、後半が始まってすぐに慌ててやって来た友人が言うのです。第二王子のシアン殿下が僕のことを探していると。
急いでシアン王子の元へ行くと、王子の口から思いも寄らない言葉が飛び出して来ました。ローザ様が次の曲を僕と踊るつもりでいるのでよろしく頼むと仰るのです。あのシアン殿下が僕に頼むと!
その上、シアン殿下は何も分からない僕に、親切に作法を教えて下さいました。
僕は教えられた通りにローザ様を迎えに行きました。僕が右手を下からそっと差し出すと、ローザ様は僕の手の上に小さな左手をそっと乗せてくれたのです。
そのまま二人でホールの中央を目指します。ローザ様の手を引いてゆっくりと歩くと、その場に居合わせた人たちが左右に避け、真ん中にスッと一本道ができました。
そこからは、正直、あまり記憶がありません。
放課後の練習通りにそれなりに踊れたとは思いますが……もしかすると緊張し過ぎていたため、ローザ様を振り回してしまったのでは無いかと、思い出しても身の縮む思いです。
ですが、曲が終わってお辞儀を交わした後にローザ様が僕の目を見てニッコリと微笑んで下さったので、特に問題は無かったと思います(……そう思いたいです)。
結局僕は、一曲目を同じ地属性クラスのイリーザ・ファイスさんと、四曲目をローザ様と踊りました。
最後の曲の最中は知り合いに取り囲まれ、なぜ僕のような地味な唯の一般学生が王女殿下であられるローザ様と踊れたのか? と、ずっと激しい質問攻めに合いました。
ひたすら投げられる質問の答えに困惑している間、知り合いたちの合間から、ホール中央でシアン王子と踊るローザ様がチラリと見えました。
僕と踊った時とは別人のように軽やかに、とても楽しげに踊るローザ様の姿に、やはり彼女は紛れもなくこの国の王女様なのだと実感しました。
あのパーティーの三日後から、学院は長期休みに入りました。
殆どの学院生はそれぞれの家へと戻り、学院内は閑散としています。
僕は志願してそのまま学院に残り、院内雇傭システムに登録して、イリーザさんと一緒に菜園と薬草園の水遣りと生育管理を請け負っています。
今日はこれから薬草の収穫作業と乾燥作業があります。
それでは、行ってきます!
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