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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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15 救出作戦(3)

「ああ、ローザ。無事で良かった」


「お母様。アス兄様。心配かけてごめんなさい……」


 ローザと他の三人の女性は助け出され、マルコとフリオ、それからその他の男たちは騎士団の手によって捕らえられ投獄されていた。


 すでに遅い時間だったため、女性たちは一旦帰宅し、明日改めて事情を聞くために集まってもらうことになっている。集まるのは城の騎士団ではなく、街にある兵士の詰所の方だ。今回はローザが関わったため騎士団が動いたが、今までの行方不明事件も含め、今後は騎士団の管轄ではない。

 とは言え、バルマー伯爵がこの一件に少しでも関わった以上、彼がなんとかしてくれるのではないかと大方の関係者は考えているようだった。



 ローザが母に抱きついたまま温かい紅茶を飲んでいるのを、アスールは二人の向かいのソファーに座ってぼんやりと眺めていた。サロンには城の関係者が始終出入りしている。


「ねえ、お母様。私が助けられた時、大きな船から人が降りてきて、私をその船に引き上げて乗せてくれたの。暗かったからてっきり男の人かなって思ったのだけれど、男の人の格好をしているけどその人は女の人だったのよ。とっても綺麗な女の人。それでね、乗せてもらった船って……海賊船だった気がするの」


「そう……。母様は、ちょっと分からないわ……」


 明らかに母は答えに困っているようだとアスールは思った。

 ローザが言っている『男の格好をしている女の人』と言うのが誰のことを指しているのか、アスールには分かっていた。お祖父様が『リリアナ』と呼んでいたあの人で間違いないだろう。


「すぐにもう一隻の船が来て、そこにバルマー伯爵が乗っていて、ローザはその船に移されて岸まで送ってもらったんだけど……その船の……」


 そこまで言って、ローザは息を呑んだ。

 フェルナンドの後ろから部屋に入って来たのが、今まさにローザが話題にしていた『その人』本人だったからだ。

 すぐにカルロもサロンに入ってきた。例によって二人の側近を引き連れている。バルマー伯爵が人払いを命じ、サロンに残ったのは家族と王の側近とその女性だけになった。


 その女性は相変わらずの男装で「ごきげんよう」と右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出し優雅に挨拶をした。ローザがソファーから飛び跳ねるように立ち上がった。


「アスール、ローザ、ちょっとおいで」


 フェルナンドがアスールたちに手招きをする。


「こちらはリリアナ・スアレス。スアレス公爵家の長女で、儂の姪っ子じゃ。今はリリアナ・オルケーノ、女海賊リリーと言った方が分かりやすいかの」


 それは僕とローザにとっては衝撃の新事実だったが、この部屋に居た人たちにとっては驚くような内容でなかったことが、まわりの反応からすぐに分かった。


「お前たちの従伯母にあたる女性だよ。ああ面倒だな。伯母さんだ。伯母さんでいいな、リリアナ?」

「はい、構いません」


 リリアナはにっこりと微笑んで、それから二人の前に膝をついて座り、両手を二人の方へ差し出した。ローザがおずおずと歩み寄る。アスールもローザに倣って前に進み出る。


「はじめまして、アスール殿下、ローザ姫。もうスアレスの名は捨ててしまったので、リリアナ・オルケーノで御座います。ああ、殿下とは厳密には『はじめまして』ではないですね」


 そう言うとリリアナは悪戯っぽくアスールにウィンクをし、さらに手を伸ばし、二人を引き寄せゆっくりととても優しく抱きしめた。

 アスールはリリアナと触れ合っている彼の頬になにかが流れ落ちたのを感じた。たぶんローザもそうだっただろう。二人は黙ってしばらくそのままリリアナに抱きしめられたままでいた。



「実はね、伯父様が貴方たちが『マルコス船長と女海賊リリーに扮してお祭りに参加する』って私にホルクで知らせてくれたのよ」

「本当ですか? 普段からあんなにホルクを悪様に言っている父上が?」


 カルロがリリアナの言葉を聞いて、驚いたように父親に詰め寄っている。フェルナンドは面倒くさそうにそっぽを向く。


「そうなの? 今までも時々ホルクを飛ばして下さっていたけど……」

「ほう……。そうでしたか」


 フェルナンドは「お茶と菓子のおかわりでも催促してくるかな」と言ってきまりが悪そうに外に出て行ってしまった。その背中をリリアナが可笑しそうに見送っている。


「それで、ちょっとだけでも良いから、二人のことを遠くからでも見てみたいなぁと思って広場を探して歩いたのよ。ふふふ。すぐに貴方たちを見つけることが出来たわ。だってね、二人だけとっても衣装が豪華なんですもの。すれ違う人たちがみんな振り返って二人の衣装を見つめていたわよ」

「あら。そうだった? 私、やり過ぎてしまったかしら?」


 リリアナとスサーナが顔を見合わせて笑い合っている。

 スサーナはローザがどうしても海賊リリーになりたいと言いはったこと、見たことのない海賊の衣装を想像してオーダーするのに如何に苦労したのかを語っていた。

 それからお茶を一口飲むと、リリアナは真面目な顔つきで言った。


「ちょっと目を離した隙にローザ姫がどこにも居なくなっちゃって、そうしたら私の目の前を殿下がすごい勢いで走り抜けて行ったでしょ。本当に何事が起きたかと慌てたわ。追いかけてみれば戦闘に巻き込まれてるし……でも、無事で本当に良かった」

「我々も驚きましたよ。騒ぎの一報が入った後、戻った殿下の後ろ一緒に立っていたのが、まさかのリリアナ様ですからね」


 バルマー伯爵が口を挟む。それから伯爵はリリアナが立てた作戦を皆に語り聞かせ、ホルクの有用性を熱く語っていた。ついには「リリアナ様を王宮府副長官補佐として迎えましょう!」とまで言い出した。


「それはさて置き、リリアナ。君のお陰でこうして無事にローザを取り戻すことが出来た。本当に感謝する。ありがとう」

「どういたしまして」



 今まで黙ってじっと皆の話を聞いていたローザが、丁度話が一区切りついただろう様子を見て、待ち構えていたかのようにリリアナに向かって口を開いた。


「あの。お聞きしてもよろしいですか?」

「何かしら?」

「リリアナ様はいつもそのようなお洋服なのですか?」

「ん?」

「スカートではないのですね……」

「ああ、そういうことね。そうよ。私は大抵こういった格好をしているわ。船に乗るにはレースの多い袖や、長くて裾の広がったスカートは邪魔になるでしょ? どう考えても派手でゴテゴテした服装は船上では動きにくいもの」

「では、私たちの格好は間違っていたのですね……」


 ローザは自分の衣装を見て、がっかりしたように肩を落とした。


「そんなことはないと思うわ。仮装なのだし、それそれが思い思いの女海賊で良いと思うの。実際の私の格好をそのまま真似するよりもずっと可愛いし、間違いとは違うわね。貴方の女海賊、とっても素敵よ。それに、そういった服を好んで着ている船長も実際に居るしね。貴女も船でちょっとだけ会ったでしょ? とっても派手なあの人に」

「はい。とっても格好良かったです!」

「ふふふ。ありがとう。そう伝えるわ。でも、可愛いローザ姫にそんな風に言われたのを知ったら、益々衣装道楽に拍車がかかっちゃうかも……それはそれで困るわね」


 サロンが笑いに包まれた。

2023/1/9 誤字報告のご指摘ありがとうございます。修正しました!感謝です。




お読みいただき、ありがとうございます。

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