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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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53 学院執行部初顔合わせ

「そう言えば、今週からいよいよダンスのレッスンが始まったらしいよ」


 予定の時間になっても始まらない打ち合わせに、暇を持て余したルシオがアスールに話しかける。


 この日、アスールとルシオは王立学院執行部の集まりに参加していた。

 学年末に開かれるダンスパーティーの準備を学院の執行部が担当することになり、アスールが王族代表として出席を依頼されたからだ。


 執行部は第四、第五学年の平民の成績上位五名と貴族二名の計十四名で運営している。

 だが、ダンスパーティーが卒業式目前に開催されるため、第五学年はこれを機に執行部を引退し、新たに第三、第四学年のメンバーで新執行部を運営することに決まった。


 シアンの卒業後は本来であればヴィオレータが執行部入りするのが筋だが、ヴィオレータ本人に全くその気が無いので、以前シアンが予想した通り、次に年齢が上のアスールにお鉢が回って来てしまったのだ。



「そうみたいだね。昨日実習の時にレイフから聞いたよ」

「レイフ。レッスンに参加してるの?」

「そうらしいよ。悪戦苦闘しているって言ってた」


 貴族の子女であればダンスは小さい頃から嗜んでいるが、平民の子の場合は一度も踊った経験の無いことが殆どだ。

 折角ならパーティーで踊って楽しめるようにと、学院側がダンス教師を呼び、放課後、希望者に短期集中レッスンを行っているのだ。


「踊らなくてもパーティー自体には参加できるらしいね。だからだろうけど、それ程レッスンの参加者は多く無いみたいだよ。学年末試験もあるしね」

「そうだよね。ダンスパーティーは試験終了後すぐだもんね。ねえ、アスールは誰かと踊るの?」

「ええっ? 逆に聞くけど、僕らに踊らないって選択肢はあるの?」

「そりゃ、あるでしょ。兄さんから聞いたんだけど、シアン殿下は前回誰とも踊っていないってさ」

「それ、本当の話?」

「そう言ってたよ」

「どうして兄上が誰とも踊らなかったか、理由は聞いた?」

「後々面倒なことに巻き込まれないためだって」

「……ああ。そういうことか」


 多分王子が誰かと踊れば、その相手が婚約者候補では無いか? などと余計な憶測を呼ぶ可能性もある。誰と踊って誰とは踊らない……確かにいろいろと面倒そうだ。



 そうこう話をしていると、最後の一人が部屋に入って来た。

 フリオ・ディールス。ディールス侯爵家の次男で、マティアスの従兄弟だ。第四学年の主席らしい。彼が新しい執行部の部長だ。


「遅れてすまない。第四学年のフリオ・ディールスだ。それでは会議を始めよう」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「ねえ、アスール。次の学院執行部の部長は、結局誰になったの?」


週末。シアンとアスールとローザの三人は久々に揃って王宮へ戻って来ている。


 フェルナンドが例のホルクの繁殖施設の後始末にかかりきりになっているため、ここしばらく王宮での泊まりがけの剣術鍛錬は行われそうもない。

 マティアスとレイフは、おそらく学院でも自主的に鍛錬をしているだろうが、アスールは久しぶりにのんびりと王宮での週末を過ごしていた。



「ディールス侯爵家のフリオさんです」

「ああ、やっぱり」

「兄上の側近候補のアランさんの弟さんですよね? あまり顔立ちは似ていないようですけど……」

「そうだね。アランはディールス侯爵似で、フリオは亡くなられた母親似らしいよ。僕はほとんど覚えていないけれど、いつも笑顔の、すごく優しい方だったとアリシア姉上がよく言っていたよ。姉上はソフィア様に随分と可愛がって貰っていたそうだから」

「そうでしたか」



 ディールス侯爵の奥方だったソフィアはアランとフリオの母親で、アランが四歳、フリオがまだ一歳になったばかりの頃に病気で亡くなったそうだ。

 その後ディールス侯爵は、ロートス王国の双子と共にクリスタリア国に逃げ延びたアナスタシア・フォン・ヴィスマイヤー(アンナ)と再婚している。アランが七歳の時だ。

 再婚後、ディールス侯爵とアンナとの間には娘が二人産まれている。八歳のエミリアと三歳のナディアだ。一部の限られた者にしか知られていないことだが、この二人はアーニー先生の姪に当たる。



「フリオは凄く優秀だよ。ちょっと真面目過ぎる面もあるけれど……。アリア嬢も居ることだし、他の五人もしっかり者が揃っている。来年の執行部も安泰だね」


 シアンの口振りから想像するに、第四学年生に関してはそのまま全員が持ち上がりのようだ。

 フリオについて「真面目過ぎる」と表現したシアンの台詞を聞いて、アスールは先日の初顔合わせの後に続いて開かれた会議を思い出していた。



 フリオはダンスパーティーに於いてのありとあらゆる不測の事態を想定し、それについての対応を前もって完璧に検討するべきだと熱く語り出したのだ。

 確かにフリオの問題提起も正しいとは思うが、あまりにも細部に渡っての検討がひたすら続くので、ルシオなど途中からうつらうつらしはじめ、終いには意識を失いかけていた程だ。


「お待ち下さい、フリオ様!」

「なんだい?」

「細部の検討に関しては、後日もう少しパーティーの具体的な内容が学院側から伝えられてからに致しましょう!」


 そう言って、おそらくフリオの中にある検討課題の内の半分の提示も終えていない段階でフリオの演説にストップをかけたのは、リント侯爵家の一人娘のアリアだった。


「執行部会の初回からこのように検討議題が多過ぎては、下級生が混乱してしまいますわ。既にお疲れのご様子の方もいらっしゃるようですし」


 アリアはにこやかな笑顔でそう言いながら、ルシオの方にチラリと視線を送っている。アスールは慌ててルシオを揺り起こした。


「ああ、そうだね」


 うたた寝をしていたのはルシオの筈なのに、何故だかフリオは、そのルシオを起こしたアスールの方を見ていた。

 ルシオと言えば、まるでずっと会議に真剣に参加していたかのような顔をして座っている。アスールは小さく溜息を吐いた。


「では、次回の会議までに各自配られた資料を読んで来ること。リント嬢の言う通り、今日はこれで解散にしようか」


 次回の会議は来週の水の日と決まり、その日は解散になった。




「基本的にはダンスパーティーは学院が主催する行事だから、執行部はお手伝い程度で良い筈なんだけどね……。ましてやアスールはまだ二学年生だし。ああ、ルシオもね」


 アスールの話を聞き終えたシアンは、苦笑いを浮かべながらそう言った。


「それにしても、ルシオはやっぱりいろいろな意味で、大物だね」

「……まあ、そうですね」




 その時、向こうの方からパタパタと駆けて来る足音と、それを追いかけるように「姫様、廊下を走ってはなりません!」と言うエマの声が近付いて来た。


「お兄様!」


 その声と同時に、両開きの扉が勢いよく開いた。


「ローザ。廊下を走るのはレディのすることでは無いよ」

「……はい」


 シアンから怒られるとは思っていなかったのだろう、ローザの勢いはシュッとしぼんでしまった。


「どうしたの? そんなに慌てて」


 それを見たシアンが、慌ててローザに優しく声をかける。


「再来週末、お兄様のお誕生日のお祝いのお茶会を、このサロンで開いても良いとお母様が!」

「僕の誕生日? ああ、そうか。確かにもうすぐだね」


 学院に入学してからは、それぞれの誕生日のお祝いの会などしていないのに、いったいどういう風の吹き回しだろうか?


「お茶会には、ニコラス従伯父様のご家族もお呼びするってお母様が仰ってました」

「へえ、そうなんだ」

「それから……リリアナ様も」

「本当に?」

「はい。イアン様とレイフ様にもお声掛けするそうです。楽しみですね!」

お読みいただき、ありがとうございます。

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