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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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48 祭りの後

「なんかさ。学院祭が終わっちゃって、気が抜けたと言うか。つまらないと言うか……」


 授業が終わり教室も空になりかけた頃、ルシオが溜息を吐きながらそう言った。


「そう言われてみれば、ルシオは学院祭前はやたらと生き生きしていたな」


 マティアスは今日も剣術クラブの練習に参加するようで、急いでいるだろうに荷物をまとめながらも律儀にルシオの相手をしている。


「そう! あの頃は幸せだったよ……」

「毎日のように焼き菓子を食べられたから。だろ?」

「……。まあ、そうとも言う」


 ルシオの返事を聞いて、マティアスは立ち上がった。


「じゃあ、アスール。また夕食の時に」

「分かった。練習頑張ってね!」

「ありがとう! ルシオも用が無いならさっさと寮に戻れ!」

「はいはい、帰りますよ」


 ルシオも重い腰を上げた。


「ねえ、アスール。もしかしてダリオさん今日も何か焼くとか、言ってなかった?」




「いただきます♪」


 結局荷物を部屋に置くと直ぐに、ルシオはチビ助を連れてアスールの部屋に遊びに来た。

 残念ながら焼き立ての菓子は無かったが、ダリオはお茶と一緒に前日に焼いて寝かして置いたドライフルーツ入りのパウンドケーキを切ってくれた。

 ルシオは続け様にケーキを頬張る。


「美味しーーーい!」

「夕食前にそんなに食べて大丈夫?」

「もむだいまい!(問題無い)」


 ようやく気持ちもお腹も満たされたようで、ルシオがティーカップをテーブルに置いた。


「そう言えば、アスール。騎士コースの模擬戦、レイフと一緒に観戦したんだってね」

「姉上の試合を見に行こうとしていたら途中でレイフに会ったんだよ。それでそのまま一緒に」

「ああ。ヴィオレータ様か!」

「うん。姉上は準決勝で負けちゃったけどね」

「そうそう。ヴィオレータ様と言えば、低学年の平民の女の子たちに大人気だってこと、アスールは知ってた?」

「姉上が?」

「そうだよ! ヴィオレータ様は見た目も立ち居振る舞いもカッコイイって。その上、馬術も剣術も一級品!」


 そう言われてみれば、模擬戦の時もヴィオレータが登場する度に、やけに女の子の観客たちが騒いでいたのを思い出す。


「そういうことだったのか」

「そういうことって、何が?」

「姉上が登場する度に大騒ぎをしていた集団が会場に来ていたなと思って」

「きっとそれ、ファンクラブのメンバーだね!」

「ファンクラブ? そんなのまであるの?」

「らしいよ」


 ファンクラブのメンバーは、主に北寮にいる第一学年と第二学年の平民の女の子なのだとルシオはアスールに語った。

 ルシオはいったいどこでこんな情報まで仕入れてくるのだろうか。



「そう言えば、模擬戦はずっと一般席で見てたんだって?」

「うん」

「だったら、僕も一緒に行けば良かったな」

「だったら?」

「そうだよ。てっきりアスールは特別席で観戦するんだと思ってたから」

「どう言うこと?」

「あそこに行くとフェルナンド様に捕まるだろう?」

「……ああ。そう言うことか」



 最近ルシオはフェルナンドからの鍛錬の誘いを避け続けているのだ。

 模擬戦会場で会えばフェルナンドからは逃げられないと思ったのだろう。アスールがマティアスの試合を見に行かないかとルシオに声をかけた時になんとなく微妙な態度だったのはそのせいだ。


「マティアス。準々決勝敗退でしょ? 相手は結局準優勝したってね」

「そうだよ。決勝戦は凄い試合だった。結果は部長のセンテル先輩が優勝したんだけど、手に汗握る展開って言うのはああいうことなんだと思ったよ」

「そんなに凄かったんだ。……やっぱり行かなくて良かった」

「お祖父様?」

「……うん」

「お祖父様なら、来年の模擬戦に向けてマティアスとレイフを鍛え直す! って意気込んでいたよ」

「一年計画かぁ。マティアスもレイフも気の毒に」

「ちなみにお祖父様はマティアスに、鍛錬にはルシオのことを引き摺ってでも連れて来い! って仰っていたよ」

「……。やっぱり逃げられないよね?」

「無理なんじゃ無い? 相手はあのお祖父様だもの。可哀想だとは思うけど、諦めるんだね。月に二回は泊まりがけで王宮に召集されると思うよ」


 それを聞いたルシオは、ガックリと肩を落とした。




 窓際に置かれた止まり木ではピイリアとチビ助が機嫌良くお互いに羽繕いをしている。生まれた時から割と一緒に過ごしてきたせいか、この二羽はとても仲が良い。

 もしかすると番になるのではないかと考えて、最近は時々こうして二羽が一緒に過ごせるようにしているのだ。


「今年は飼育室の雛は四羽しか居ないんだよね?」

「そうらしいね」

「と言うことは、やっぱり僕たちは凄くラッキーだったってことだね。五羽以下なら全数、飼育室の管理下になっちゃうんだから」


 確かにそうだ。それも二羽も同時に飼育室が手放すなんてことは、ここ十数年無かったらしい。


「もしピイリアが卵を産んだらどうなるの?」


 ルシオはチビ助が遊んでいた玩具をヒョイと取り上げて、怒ったチビ助がルシオの髪の毛を引っ張った。


「卵の行き先のことを言っているの?」

「違うよ! どうやって世話するのかってこと! ゴメン、ゴメンって。玩具なら返すからもう許して!」


 クセの強いルシオの髪がチビ助の攻撃でクシャクシャになっている。チビ助はルシオから玩具を奪い返すと何事も無かったかのように玩具を咥えてピイリアの元に戻っていった。


「この部屋でピイリアとチビ助が交代しながらずっと卵を温めるのかなぁ?」

「ああ、そうだね。……考えてもみなかったよ」



 前にフェルナンドからチラッと聞いたことがある。ホルクは約ひと月の間絶えず卵を温めるそうだ。

 確かピイリアたちが孵ったのは四の月の初めの頃だったから、三の月の初め、つまりアスールたちの進級直後に卵を産む計算になる。


「卵を孵したいって言ってる割に、僕たちってホルクに関して全然知識不足だよね?」

「確かに!」

「今度飼育室に相談に行ってみようかな」

「ところで、ピイリアは長距離飛行訓練はどうするの? 次回開催予定の訓練にチビ助を参加させようと思ってるけど」

「参加しようかな。もしピイリアが母親になったら、しばらく訓練を受けるどころじゃ無くなるだろうしね」

「確かにそうだね」



 夏季休暇明けすぐに行われた長距離飛行訓練には、シアンとラモスのホルクが参加していた。アスールとルシオも訓練の様子を見学に行ったのだ。


 シアンの愛鳥シルフィは、夏の間にテレジアで海上飛行を何度か経験したせいか、馬車で二日かかる町への往復飛行をあっさりクリアしてしまった。

 シアンは来年の夏、シルフィに王都とテレジアの間を飛行させるつもりらしい。



「となると、後残っている今年の大きなイベントは……。三年に一度開催されるっていう学年末のダンスパーティーだけだね」

「その前にある “学年末試験” のことを忘れていなければ、そうだね」


 アスールの答えにルシオが顔をしかめた。


「まあ、そうなんだけどさ。それはちょっと置いておいて、ダンスパーティーなんだけどね。ひと月くらい前から放課後にダンスのレッスンが始まるらしいよ」

「それって、全員参加なの?」

「レッスン? 希望者だけだって聞いたよ」

「僕たちは小さい頃からダンスのレッスンは受けてきてるし、わざわざ初心者用のレッスンに参加しなくても良いんじゃないかな」

「えー。面白そうなのに? アスールは参加しないの?」

「その間試験勉強ができて丁度良いんじゃないかな?」

「うぐっ」

お読みいただき、ありがとうございます。

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