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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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45 学院祭準備と給仕係

「思っていたよりも大変な仕事だね」


 秋の学院祭を翌週に控え、アスールのクラスも準備におおわらわだ。


 昨年とは違い、第二学年の各クラスにはそれぞれ飲食ブースの担当が割り当てられている。軽食を扱うクラスと喫茶を担当するクラスに分かれた。

 軽食に関しては、それぞれ西寮と東寮の食堂の料理人が調理する。喫茶の方は王都にある専門店に交渉して、当日学院まで配送してもらわなければならない。



 アスールたちの2Aクラスは喫茶室。

 焼き菓子は専門店から取り寄せたものをそのまま皿に盛り付けるだけだが、お茶に関してはその場で学生の手で淹れることになっている。

 焼き菓子はパトリシアのお気に入りの店と交渉し、五種類を用意してもらえることになった。



「2Bクラスはマカローナらしいよ」

「本当? あのいつも行列しているっていうあのお店?」

「そうだって。なんでも、2Bクラスにその店の関係者が居るらしい」

「マカローナかあ……。きっとお客はそっちに流れるな」

「でも、2Aクラスだって王妃様お気に入りのお店の品だもの。きっとお客様も沢山来られるわ!」

「とにかく今は、自分たちで美味しいお茶を淹れられるようにならないと!」


 そんな具合で、2Aクラスはお茶を淹れる係と給仕係とに別れ、絶賛猛特訓中なのだ。



 当日の衣装に関しては白のドレスシャツと黒のパンツかスカートを各自で用意する。

 まだ届いてはいないが、パトリシアが揃いのリボンタイとエプロンを人数分揃えてくれることになっている。



「マティアスは今年は模擬戦に参加するの?」

「ああ、そのつもりだ」

「第二学年での参加って、珍しいんじゃない?」


 ルシオが練習用にとダリオが用意してくれた焼き菓子を頬張りながら聞いた。


「そうでも無いだろ」


 マティアスが表情一つ変えずに、ルシオが抱え込んでいた焼き菓子の皿をさっと取り上げる。


「去年はヴィオレータ様も女子の部に参加されていたし」

「ヴィオレータ姉上はちょっと普通じゃないからね。参考にはならないと思うよ」


 アスールはマティアスから焼き菓子の皿を受け取った。ルシオはまだ未練タラタラで皿をの行方を目で追っている。


「レイフは? レイフも出るの?」

「いや、あいつは今年は参加しない」

「なんだ、そうなんだ。ねえ、アスール。シアン殿下は? 殿下は参加されないの?」

「兄上? さあ、聞いていないけど……。多分参加しないと思う」

「どうして? シアン殿下って、もの凄く強いよね?」

「強いね。でも……余りそういったことに兄上は興味が無いんじゃないかな」

「もしシアン殿下が模擬戦に参加されれば、競技場は見学者が、特に女性見学者がもの凄いことになって……そうしたらさ、その間喫茶室は暇になるのになぁ」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「兄上は模擬戦には出場されないのですか?」

「模擬戦? 出ないよ。どうして?」


 アスールはルシオが言っていた内容をシアンにそっくりそのまま伝えた。


「ルシオはそんなに給仕係の仕事をサボりたがってるの?」

「サボりたいというよりは、焼き菓子が余れば、余ったものを皆で分けて食べられるかもってことだと思います」

「そんな理由? だったら焼き菓子が絶対に余ることが無いように、僕が友人を沢山引き連れてルシオの接客時間帯に喫茶室にお茶を飲みに行くよ。そう伝えて」


 そう言ってシアンがウィンクをする。



 シアンは今年の学院祭でも魔導具研究部の模擬店に参加するのだが、まだ出品予定の品物が全数は仕上がっていないらしく、この日はアスールもシアンの手伝いを買って出たのだ。


「これはこのままで良いのですか?」

「そうだね。そこの箱を取って貰えるかな?」

「これですか?」


 箱に入っていたのは金属製の鎖のようなものだ。


「それに、前もって作っておいた魔導石を今から取り付けるよ」

「もしかして……今年はブレスレットですか?」

「そうだよ。今年もペンダントを出品して欲しいという話もあったんだけど、同じ物じゃ全然進歩が無いだろう?」


 シアンはアスールから箱を受け取ると、作業台の上で躊躇いもなく箱の中身をぶち撒けた。


「あれっ? 二種類ありますか?」

「今年は男性用も出品しようと思ってね」


 シアンの手は、アスールとの会話を続けながらも止まることなく動き続け、鎖の数箇所に手際良く次々と魔導石を取り付けていった。


「兄上。試してみても良いですか?」

「どうぞ」


 アスールは太い方のブレスレットを一本手に取り、左腕につけてみた。


「どう?」

「カッコイイ!」

「温度は? 冷え過ぎない?」

「大丈夫です!」


 シアンの説明によると、外気温にあわせて魔導石は起動するらしく、今日くらいの気温だと少しひんやりするかなと思う程度、暑い日には強目に、寒い日には起動しないように調整してあるらしい。


「気に入ったなら、それはアスールにプレゼントするよ」

「宜しいのですか?」

「もちろん! そのかわり、今日は帰寮時間まで手伝ってね」

「ははは。了解です」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「ローザ様、そちらの植木鉢にも水遣りをお願いしても宜しいですか?」

「はい。お任せ下さいませ」


 園芸クラブでも学院祭前の最終作業が慌ただしく行われていた。園芸クラブは模擬店としては参加しないが、植物園で育てている花々を学院中に飾るのだ。

 学院祭に合わせて温度管理をしてきた花々は、学院祭当日の開花を待っている。



「先生、今年は植物園の植物のどれもが、なんだかとても良い状態だと思われませんか?」

「そうですね。皆さんがきちんとお世話をしている賜物でしょう」


 園芸クラブの部長が担当の先生と話している声がローザの耳にも届いた。



「それは当然だろう。我とローザが、こうしてここに通って来てやっているのだから」


 ローザの頭の中にレガリアの声が直接響いてくる。



 夏の休暇が終わり学院に戻ってすぐ、レガリアとローザは “念話” が使えるようになっていた。

 レガリアに言わせれば、念話など簡単なことで元々できたのだが、今まで使う必要が無かったから使わなかっただけだそうだ。


 小さい姿とはいえ、さすがに学院の中をローザと一緒にレガリアがウロウロ歩き回っていては目立つので、普段レガリアは姿を消している。


「植物が良い状態なのは、私たちが来ているからなのですか?」

「そうだ。この植物園の閉ざされた空間の中には光の魔力が満ちている」

「魔力が?」

「ああ。前からここに居る者には、おそらくは、その差がなんとなくだが分かるのだろうな」



 その時、入り口が開き、大勢の学生たちがゾロゾロと植物園に入って来た。どの学生も泥で汚れている。


「ローザ様!」


 満面の笑みを浮かべ、ローザよりは少し背が高いようだが、小柄な少女が手を振りながら駆け寄って来た。魔道実技演習の地属性で同じクラスのイリーザ・ファイスだ。


「イリーザ様。もう畑のお手伝いは終わりましたの?」

「はい。今から植物園の鉢植えをいくつか本館に移動するそうなので、お手伝いの方々に来て頂いたのです」

「あの方たちは、皆さん美味菜倶楽部の方ですか?」

「そうです。作業後なので汚れていて申し訳ありません」

「まあ、謝る必要はありませんわ。お仕事ですもの!」



 イリーザは院内雇傭システムに登録して、美味菜倶楽部の手伝いをしている勤労学生だ。

 集団の中に、やはり同じく地属性クラスでローザと一緒のホセ・ソラナスの姿も見える。


「イリーザ様も鉢植えを運ぶお手伝いを?」

「はい。今から行って来ます」


 イリーザは振り返って、作業の進行具合を確認している。


「それが終わったら、またここに戻って来られるのでしょう?」

「ええ、着替えを終えてから」

「でしたら、兄の従者が焼き菓子を用意してくれたのを持って来ていますから、皆さんでお茶に致しましょう! 沢山あるので、あちらの方たちにもお声をかけて差し上げてね」

「焼き菓子ですか? うわー。ありがとうございます!」


 イリーザは飛び跳ねるように皆のところへ走って行った。

 わーっと歓声が上がり、沢山の泥だらけの笑顔の学生たちがローザの方を一斉に振り向いた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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