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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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14 救出作戦(2)

「マルコ、やっぱり貴方だったのね……」


 バルマー伯爵が予想していた通り、徐々に海が荒れ始めていた。

 時折強い風が吹きつける中、海賊船のクルーが一回り小さな帆船にピタリと横付けした。リリアナはデッキから彼女がマルコと呼んだ男を完全に見下ろす形になる。


「貴方とフリオの様子がおかしいんじゃないかって、少し前から気になってはいたのよ…… 。貴方たち、どういうわけか金回りも最近すごく良さそうだったしね。まさか仲間うちから裏切り者が出るなんて夢にも思わなかったわ」

「……」

「後ろで手を引いているのはプラシドファミリアってとこかしら?」

「……」

「今よりいい地位でも約束してくれた? そうね。副船長とか、一隻任せるとか、そんなところかしら?」


 マルコは押し黙ったまま、不愉快そうにリリアナを睨み上げている。


「黙ってたって無駄よ。もう証拠は掴んでるもの。貴方たちが雇っていたゴロツキ、あの後全員騎士団に取り押さえられてるわ。当然そんなことはもう知ってるわよね? 貴方は彼らを使い捨ての駒程度にしか考えてなかっただろうから、それ程重要な話を彼らの前でしなかった。だから情報が漏れることはないと貴方は考えているみたいだけど、フリオはどうかしら。彼ってお喋りよね。口の軽過ぎる男を側に置くのは考えものよ。フリオが黙っていられなかった話をゴロツキたちは騎士団の詰所で喋っちゃったそうよ。真実を話せば減刑もあるって聞いて、先を争うように、それはもうペラペラと」


 マルコの顔色が変わったように見えた。

 リリアナは押さえても押さえても風に煽られる前髪を持て余して顔をしかめる。


「ほら、フリオが来たみたい。真相を聞いてみたら如何かしら。そうそう、騎士団はここ以外にも派兵されてるの。プラシドファミリアの面々も今頃慌てふためいている頃ね」


 前には自分たちが裏切ってしまった二隻の海賊船、後ろからは騎士が乗り込んだ小舟が追いかけて来ている。もう前に進んでも後戻りしても無駄だと気付いているであろうフリオを乗せた小舟が徐々に近づいてきていた。

 信じられないという表情で、やっとマルコが口を開いた。


「騎士団? 何故こんなちっぽけな事件程度で騎士団が動く?」

「何故って……。貴方たち、決して触れてはならないものに手を出しちゃったのよ。ご愁傷様」


 リリアナの言葉は冷ややかだった。

 それからリリアナは意を決したように振り返り、船員たちに向かって指示を出す。


「さあ、みんな。嵐が来る前にさっさと終わらせて帰るわよ」

「「おう!」」

「とりあえず全員縛り上げておいて頂戴。仲間への裏切りは死をもって償わせるのが掟のはずだけど、そもそも彼らは私たちを仲間とも思っていなかったみたいだもの、引き取りたいって人がそろそろ来る筈だからそちらにお任せしましょう。ここで死んでおいた方がマシだったってきっと思うことになるでしょうけど……」


 リリアナの指示を受け、海賊たちが続々と帆船に降りていく。マルコたちは抵抗虚しく、次々と縛り上げられていった。

 すでに勝敗の決した事を理解していたらしいフリオは素直に投降する。ローザは激しく揺れる小舟の上で、大きな男に守られるように座っていた。なんとか騎士の操る小舟が追いつき、海賊船上のリリアナからもローザが無事に解放されるのが見えた。



「リリー。お出でなさったぞ」


 もう一隻の海賊船のデッキ上で、遠目にも見事に鍛え上げられた体躯と分かる男が叫んでいる。金糸で縁取りされた漆黒の長いマントが風を受けたなびいている。羽根飾りのついた帽子はまさに海賊船の船長を思わせるまさにそれだ。明るい陽射しの下に立ったその姿はどれほど美しかろう。


「ありがとう。ミゲル。後はお願いしてもいいかしら? 私、あの子のところへ行っても?」

「ああ、構わんよ」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー 



 だんだん揺れの激しくなる沿岸警備船のデッキでフレド・バルマーは苦戦していた。どうにもバランスを取るのが難しい。フレドにとって船という存在が彼の興味の対象になったことなど過去に無く、当然揺れる船上での身の処し方など知る由も無い。


(沿岸警備船は足回りをよくするため一般的な帆船よりも小型に作られている。船足は速いが揺れには弱いのか?)


「伯爵、何かお困りですか?」

 頭の上の方から低い声が問いかける。


「ああ、キャプテン。どうにもこの揺れには参っていてね……。君は全く平気そうに見えるが、慣れれば誰でも平気になるのかな? おっと危ない」

「まあ、慣れも必要だとは思いますが、船の差ですよ。この船は揺れに強い形に造られていますから」

「根本的な問題か。それでは如何ともしがたいな。ならば今後のことを私たちが話し合うため、私が正気を保てている間にそちらの船に移動させて貰えると助かるのだが、どうかな?」

「おや。伯爵様が海賊船に? 貴方が御自身の評判を気になさらないのでしたら是非。歓迎致しますよ」

「評判? そんなもの気にはしないさ」

「では、どうぞこちらへ」


 ミゲル船長が船員に合図をすると、すぐさま乗降機が用意される。屈強な海賊四人の力でもってバルマー伯爵はあっという間に海賊船へと引き上げられた。


「確かに揺れが少ない!これは素晴らしい!」

「後半刻もすれば例えこの船の上であっても先ほどの小舟と同じ状況になりますよ。この風だ、海はこれからどんどん荒れてきます。急ぎましょう。話が済めば岸までお送り致します。もちろん人目につかないようね」


お読みいただき、ありがとうございます。

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