表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
169/394

閑話 ミランダ・リントンの独白

 私はミランダ・リントン。十六歳。リントン男爵家の長女です。

 現在、クリスタリア王立学院の最終学年に在籍致しております。



 この国では成人は十六歳とされています。この国に暮らす貴族の子女は成人を迎えると、王宮で開かれる祝賀会に参加することができます。

 成人祝賀の宴と呼ばれるもので、その場で一人ずつ国王陛下に忠誠を誓い、陛下より記念のメダルを授かるのです。

 これは人生に於いてたった一度の記念すべき行事で、私も小さな頃からこの祝賀の日を迎えることを楽しみにしていました。



 この夏、王家の第一王女であられるアリシア様が婚礼のためハクブルム国へと旅立たれました。

 それに伴い国王ご夫妻をはじめとした王族の方々がハクブルム国へと行かれたため、今回の夏の成人祝賀の宴の日程が大幅に変更になりました。

 通常七の月の最初の光の日に開催されるものが、八の月の終わりの光の日に移動したのです。つまり学院の夏休みの初めから、終わりに移動したということです。



 リントン男爵家は毎年夏の休暇を家族揃って(父上は王都に残りますが)領地で過ごします。

 リントン男爵領は王都から北東方向にある、海に面したこぢんまりとした漁業がとても盛んな土地です。

 夏の間ずっと領地で過ごすので、私は毎年夏休み明けに学院に戻ると、多くの友人から肌を日に焼きすぎだと注意を受けてしまいます。

 祝賀の宴が夏休みの終わりに移動してしまったので、少しでも白い肌で宴に出席できるようにと、日焼けをしないように私なりに気を遣って毎日を過ごしました。


 この日のために両親は、ほんのりと淡いオレンジ色のドレスを新調してくれました。私は嬉しくてたまりませんでした。



 祝賀会の宴当日。新成人たちは、宴が開かれる大広間の隣にある控えの間で待機することになりました。

 王宮府長官から名前を呼ばれたら、大広間の中央を一人ずつ歩き、陛下の元まで行かなければなりません。想像しただけでとても緊張します。


 名前を呼ばれるのは生まれの早い順なので、私のすぐ前はシドゥラー伯爵家のテレサ様でした。

 テレサ様とは第二学年の時に同じクラスになったことがあります。控えの間でご挨拶させて頂いたのですが、どうやらテレサ様の方は私のことなど全く記憶に無いようで「はじめまして」と言われてしまいました。

 私はそれほどに印象が薄いのかと、少し悲しくなりました。

 テレサ様のように真っ赤なドレスを着て、髪も華やかにしていれば、誰の目にも印象的に映るのでしょうね。



 名前を呼ばれ大広間に足を踏み入れた途端、周りに居た多くの人々と、正面にずらりと並んで居られる王族の方々に圧倒されました。

 緊張で足が上手く前に出せません。その上、前を歩かれているテレサ様のドレスの裾を踏んでしまわないかと気になって、下ばかり向いてしまいました。本当は堂々と前を向いて歩くつもりでしたのに……。


 とは言え、陛下に忠誠を誓う言葉はしっかりと言えましたし、メダルも作法通りきちんと受け取ることができ、緊張しながらも我ながら立派だったと自画自賛しております。



 ですが、悲劇はこの後に起こったのです。

 何故そんなことになってしまったのか、正直はっきりとは覚えていません。近くでテレサ様の大きな声が聞こえたのに驚いて振り向いた瞬間、私のドレスの胸元から裾にかけて、何かが飛んできたのです。

 一瞬にして私の淡いオレンジ色のドレスに赤いシミが広がっていきます。匂いからその赤色の正体がワインだと分かりました。


 近くに居た友人が驚いて叫び声をあげ、辺りは騒然としました。

 幸い彼女に被害はありませんでしたが、私以外にもう一人ワインをかけられた方がいらっしゃいました。

 バルマー伯爵家のラモス様です。

 ラモス様と、叫び声をあげた友人と、私の三人は、現在王立学院で同じクラスなのです。


 ラモス様のお母様が私とラモス様を、変に注目を集めないで済むようにとすぐに大広間から連れ出して下さいました。

 ラモス様のお母様と王妃様とはどうやら仲がとても宜しいようで、すぐに私には王妃様が別のお衣裳をお貸し下さいました。

 なんと婚礼で国を離れたばかりのアリシア様がお召しになっていらした、薄緑色の一見シンプルに見えますが、よく見ればとても豪華で美しい、私には勿体無いほど素敵なドレスです。



 着替えを済ませ、ラモス様にエスコートして頂いて大広間へ戻った時には、既にテレサ様のお姿はありませんでした。

 大広間に残っていた友人によると、その後直ぐにご両親と一緒にお帰りになったそうです。

 どうやらテレサ様は少しお酒を嗜まれていらしたようで、きっとご気分が悪くなってしまったのでしょうね。


 その後は皆様が気をつかって、とても親切にして下さいました。陛下や先王様からもお声がけ頂きました。ですが、私は緊張の余り何を話したのか覚えておりません。

 王妃様からは、アリシア様が残していかれたドレスは今後着る人も居ないので返す必要は無いと、良かったら今後もこのドレスを着て欲しいと仰って頂きました。

 本当にお言葉通りに受け取ってしまっても良いのでしょうか?

 学院が始まったら、ラモス様を通して、ラモス様のお母様に相談させて頂いた方が良いのかしら?



 いろいろあった成人祝賀の宴でした。

 想像していたものとはちょっと(かなり?)違うものになってしまいましたが、私にとって決して忘れることのできない一日になったことは確かです。

お読みいただき、ありがとうございます。

続きが気になると思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすれば出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ