42 アーニー先生からの手紙
親愛なるアスール殿下
殿下でしたら、この手紙をきっといとも容易く見つけることができたと確信しています。
ご機嫌如何ですか?
(万が一殿下が気付かなかった場合には、カルロ陛下が帰国後にこの手紙の隠し場所を殿下にお伝え下さることになっております。結果は如何に?)
我々第一陣がハクブルム国に到着して、もう三か月近くが過ぎました。
クリスタリアの王宮程では無いですが、ハクブルム王宮の庭園も花の美しい季節になりました。
あの中庭で三人で、時にはバルマー伯爵を含めた四人で、のんびりと絵を描いて過ごした日々を懐かしく思い出しています。
過日、パトリシア様とアリシア様がこちらに無事に到着され、お二方からいろいろとそちらでの皆様の楽しいお話をお聞かせ頂きました。
殿下はもちろんのこと、ローザ様もお元気とのこと、学院生活にも無事に馴染めたと伺い、ほっとひと安心致しております。
私は、クリスタリアの皆様がヴィスタルへ戻られて以降も、おそらく一年程はこの地で暮らすことになると思います。
(現在既に父方の祖母の実家にあたるチェトリ侯爵家の屋敷内に私室を借りており、居候の身分です)
・ 私がハクブルム国内でも名門貴族と呼ばれている、チェトリ侯爵家の血筋に連なる者であること。
・ 近い将来、ロートス王国のヴィスマイヤー侯爵家を私が受け継ぐだろうこと。
・ クリスタリア王家が私の後ろ盾だと表明して下さっていること。
これらの事実をクラウス皇太子の口から、貴族たちが多く集まる場に於いて、何度も明言して頂いております。
非常にありがたいことに、アリシア様との結婚を機に「今後はハクブルム王家としてもエルンスト・フォン・ヴィスマイヤーを後見するつもりである」とも仰って頂きました。
おそらくこれらの話は、既にロートス王国中枢はもちろん、私の叔父のヘルフリートの耳にも事細かに伝わっていることでしょう。
結婚式にはロートス王国からも数名の列席者が居るとも聞き及びます。
このことを知ったヘルフリート叔父が、今後どう動くつもりかは、今のところ私にも分かりません。
ですが、少なくとも私が死亡しておらず、出奔しているわけでも無く、正式な形でハクブルム国に滞在していることが明らかになった今、ヘルフリート叔父としても下手な手を打つことはできなくなったと思われます。
私はしばらくの間はここシーンの王宮で、名目としては皇太子妃となられるアリシア様付きの事務官としての職に就くことになります。
その一方でチェトリの伯父の力も借りつつ、ロートス王国の現状についての詳細な情報を入手すべく動く所存です。
いつとはまだはっきり明言できませんが、近い将来、私自身があの国へ戻る日も参ります。
先ずはハクブルム国に於いて私自身の立ち位置を固め、その上で祖国へと戻り、あのように卑劣な形でロートス王国を奪った者たちから、必ず国を取り戻す足掛かりを作ってご覧に入れましょう。
アスール殿下。
まだ我々の戦いの幕は開いてはおりません。
今はまだ、クリスタリア国にて毎日の学院生活を楽しみ、心を預けられる友人を沢山作り、学問にも、武芸にも、精一杯取り組んで下さい。
いつの日かロートス王国の王都キールで、ロートス王国の正統な後継者である殿下と姫様お二人のご帰国を、国民全てが喜びを持って迎え入れられる日が来ることを信じて。
エルンスト・フォン・ヴィスマイヤー
追伸
返事は不要です。
どこでどんな形で手紙の内容が漏れるとも分かりません。余程信頼できる手段を確保した場合で無い限り、今後私の方からも殿下にお手紙を差し上げることは難しいと思われます。
どうかお元気でお過ごし下さい。
お読みいただき、ありがとうございます。
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