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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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13 救出作戦(1)

 辺りは薄暗くなり始めていた。

 入江から少し入ったところに、今はもう誰も住んではいなそうな小屋が一軒だけポツンと建っている。その使われなくなった窓には外から木の板が打ち付けられている。だがよく見ると、打ち付けられた板と板の間からうっすらと中の光が漏れ出ていた。


「あそこです」


 小屋から百メートルほどのこの岩かげには、既に二十人以上の騎士たちが揃っていた。その中の一人が小屋を指差して、今ここに到着したばかりの二人の男に耳打ちする。その小屋の上空を三羽のホルクが音も立てずに旋回していた。

 男が一人立ち上がり、首から下げていた小さな笛を吹く。音は全く聞こえなかったように思えたが、三羽のホルクは旋回を止め、一直線に男の方へ向かってくる。別の二人も立ち上がると、三人のあげた左腕にそれぞれホルクが降り留まった。


「よく突き止めてくれた」


 男はホルクに優しく声をかける。鳥笛を吹いたのはカルロだった。

 主人の腕に戻った一番大きなホルクが、自分たちが褒められたことを理解しているかのように「フィイ」と小さく鳴いた。


「この後の指揮はディールス侯爵に一任する」


 カルロはすぐ後ろに居たイズマエルに場所を譲る。


「この場でしばし待機だ。完全に闇に包まれてから突入する。陛下は護衛二人とホルクと共にあちらの少し離れた場所で作戦終了までお待ち頂ければ……」

「いや、ここでいい」

「……そうですか。では、このままここで」



誰もが押し黙ったまま、重苦しい時間だけが流れていった。

入江の方を警戒していた騎士が侯爵に告げる。


「閣下、小舟が近づいて来ています」


 真っ暗な海の上をこちらへ向かって音も無く進んで来ている小舟が二艘見える。

前を進む船の先端に立っている男の姿が、その男が掲げているランプの灯りで暗闇の中に浮かび上がって見える。


「まずいな。思っていたよりも相手の動きが早い」

「どうやらあそこ。入江の入り口に近いところに帆船を錨泊させてますね。外海に逃げられたら我々の手に負えなくなってしまいます」

「そうだな。急ぎ小屋の裏手まで移動するぞ」


 騎士たちが音もなく暗闇の中を移動し始めた。その場に残ったカルロたちからは、小舟が岸に着くよりも早く、小屋の裏手に身を潜めた騎士たちが見えていた。船から降りた者たちがその動きに気付いている様子は見受けられない。

 男が三人、小舟を降りて小屋に入って行った。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー 



 入り口が開けられた音が聞こえてきて、ドカドカという靴音と共に数人の男が小屋に入って来たのが隣りの部屋にいたローザにもはっきりと分かった。小屋で見張りをしていた男たちがガタガタと椅子から慌てて立ち上がる音が続く。


「入江の入り口で船が待っている。今すぐそこまで移動するぞ。隣の部屋に居る女どもを全員連れて来い!」


 乱暴に隣りの部屋に続く扉が開けられた。


「なんだ。縛り上げていないのか」


 先頭で入って来た男がチッと舌打ちをして、不機嫌そうに見張りをしていた男たちに文句を言った。先頭の男の頬には見覚えのある切り傷がある。


(私を騙して攫ってきた男だ!)


 ローザは気付かれないように、注意深くその男たちを観察する。


「まだ大丈夫かと思いまして……」


 ずっと小屋で見張りをしていた気の弱そうな猫背の男が答える。ローザが目覚めた後、男はローザのために水を汲んできてくれた。


(固かったけどパンも用意してくれたし、あの人は悪い人だけど、本当に悪い人じゃない。この中で一番威張っていて悪い人はあの傷の男だわ!)


「逃げられないように、さっさと全員縛りあげろ。すぐにここを引き上げるぞ」


 男たちが部屋の隅に固まって身を寄せ合っている四人に乱暴に縄をかけた。


「悪いな、小さなお嬢ちゃん……」


 大柄だが気の弱そうな見張りの男が、ローザにだけ聞こえるようにそっと囁いた。



        ー  *  ー  *  ー  *  ー 



「小舟が二艘、今入って行ったのが男三人。小屋の大きさからして中の見張りはせいぜいその倍の六人だとして、敵は多くて十人か……。ローザ様以外に攫われた女性が何人居るのかは不明だが、しか小舟を二艘しか用意していないところを見るとそれ程多くはないはず」

「全員が外に出た時に一気に仕掛けますか?」

「そうだな。では、総員用意!」


 ディールス侯爵の指示に全員が頷いた。



 再び入り口が開く音がして、暗闇の中、ランプを掲げた男を先頭に小屋からゾロゾロと人影が列になって出て来る。二人の男の影に続き、一つだけ小さな影がヨタヨタと歩いているのが見てとれた。すぐ後ろを猫背の男がぴたりと付き添っている。


「閣下、おそらくあれがローザ様では」

「だろうな」

「1、2、3……全部で十一人。うち女性は姫様を除いて三人のようです」

「あっ」


 ローザがよろけて転びそうになる。するとすぐ後ろを歩いてた大きな影がローザを担ぎ上げそのまま歩き出した。途端に列の進むスピードが上がる。


「まずいな逃げられる。行くぞ!」


 号令と同時に騎士たちが一斉に駆け出した。女性たちは後方から突如飛び出してきた大勢の人影を見ると、驚きのあまり悲鳴を上げ、身を縮めその場にしゃがみ込んだ。

 騎士の奇襲に反応した前方の数人が慌てて駆け出し、騎士が追い付くよりも早くローザを抱えたまま桟橋から小舟に飛び移った。岸に残った男たちは応戦する気満々で剣を構えて向かってくる。


「急げ!早く船を出すんだ!」

「待てっ!」

「助けて!」


 ローザの叫び声と共に、彼女と三人の男を乗せた小舟があっという間に桟橋から遠ざかって行く。


「 マズイぞ。姫様が連れ去られる!」

「そこの小舟を使って追うんだ!」


 三人の騎士が舟に乗り込み、逃げる前の舟を追う。だが、手漕ぎの舟に全く乗り慣れていない騎士たちでは追いつける筈もなく、ローザを乗せた小舟との差はどんどん開くばかりだ。


「急げ。入江の入り口に停泊しているあの帆船に乗り込まれたらお終いだぞ」


 気ばかりが急くが、舟は思うように進まない。

 三羽のホルクがローザを乗せた小舟の上で旋回を始めた。


 突然、暗い海上にいた二艘の小舟を眩しい光が飲み込んだ。それは大きな照明灯を煌々と点けた二隻の海賊船だった。海賊船は錨泊していた帆船と、まさにそれに乗り込まんとする小舟を挟み込むように帆走る。海面が大きくうねった。


「もう逃げ場はないわよ」


 海賊船の甲板の上で、リリアナが髪を風にたなびかせながら微笑んでいた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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