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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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31 海賊船で大海原へ

「おはよう! 今朝早くフェルナンド様からホルク便が届いたわよ」


 朝食を食べようと食堂の扉を開けた途端、待ち構えていたリリアナがアスールとシアンにフェルナンドからの手紙を手渡した。


「「ありがとうございます」」

「王宮のホルクはそのままここの厩舎で待たせているから、返事を書くなら早めにお願いね。それと、ローザにくれぐれも文章は短めにって伝えること!」


 それだけ言うと、リリアナは二人にウィンクをして食堂から出て行った。


「どうする? ローザが来てから三人で読む?」


 シアンがアスールに聞いた。そう言いながらもシアンは手紙をポケットにしまっている。アスールの答えなど聞かなくても分かっているからだ。


「そうですね。先に読んでしまっては機嫌を損ねそうですし」

「だよね。とりあえず朝食にしよう」



 しばらくすると、バタバタと大きな足音を響かせてレイフが食堂へ駆け込んできた。


「おはよう、レイフ。どうしたの? そんなに慌てて」

「おはよう、アスール。おはようございます、シアン殿下」

「おはよう、レイフ」

「さっき父さんからホルク便が来て、今日の夕方船を出すから、三人に乗りたいかどうかを聞いておけって!」

「船って……まさか海賊船?」

「ああ、そうだよ」

「乗る! 乗りたい!」


 レイフからの予期せぬ誘いを聞いたアスールが喜びの余り勢いよく立ち上がったので、椅子が大きな音を立てて倒れた。


「僕も是非お願いしたいな」


 急いで何事もなかったかのように椅子を起こすアスールを見ながら、前の席でクスクスと笑っていたシアンも賛同した。


「分かりました。ところで……ローザちゃんは?」

「まだだよ。そろそろ起きてくると思うけど、返事は急いでるの?」

「ホルクを飛ばすように言われてるけど…… まだ大丈夫です」

「良かったら、その返事を飛ばすのに僕のホルクを使ってくれないかな」


 シアンがお茶を飲みながらそう提案する。


「良いのですか?」

「ああ。普段飛び慣れていない場所を飛ばす訓練も兼ねられるしね。シルフィはまだ海の上を飛んだことが無いんだ」

「じゃあ、ローザちゃんの希望を確認したら手紙を書きますね」

「ローザは絶対に乗る! って言うと思うけどね」

「まあ、僕もそんな気がしますけど、一応聞いてみます」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 午前中の勉強部屋の手伝いをいつも通りに終え、子どもたちと一緒に昼食を済ませると、アスールたちは急いで島の船着き場へと向かった。

 船着き場には既に先日オクルタ島まで乗せていってもらった一本マストの小型船が待っていた。船の上ではイアンが手を振っている。


「ローザ。今はミゲル船長は居ないのだから、歩み板の上は自分の足で歩くんだよ」

「分かっています!」


 シアンの揶揄いにローザがプイっと横を向く。だがそうは言っても、シアンはちゃんとローザに手を貸したので、ローザはなんとか歩み板の上を自分の足で渡って小型船に乗り込んだ。



「ねえ、レイフ。この前通った、あの細い絶壁の間をまた通るの?」

「いいや。今日は海上で待ち合わせてる」

「海上で?」

「そうだよ。行けば分かるよ。もう、すぐそこだから」



 しばらく走ると、イアンが言った通り前方に一隻の海賊船が見えて来た。一本マストの小型船は海賊船の真横にピタリとつけて止まった。


「ここから、どうやって船に乗るの?」


 アスールの問いかけにレイフが上を指差した。レイフの指差す方を見上げれば、上から何かがスルスルと下りてくるのが見える。


「あっ。私、あの乗り物知っています! 前に乗ったことあります!」


 ローザが興奮気味に隣に立つシアンに向って叫んでいる。


「あれは、乗降機」


 レイフが言い終えないうちに、アスールたちの目の前にその乗降機と呼ばれた箱型の乗り物が下りて来た。


「誰から上がる? 定員は二名が限度かな」


 そう言いながらもレイフはローザの方を見ている。


「それじゃあ、乗降機経験者のローザちゃんが、まずアスールたちに見本を見せてあげてくれる?」

「はい。喜んで」

「そうしたら……シアン殿下も一緒にお願いします。揺れることもありますので、しっかりと()()()()()()()下さい」

「分かった。ローザ、行くよ」


 二人が乗り込んだのを確認すると、レイフは上に向かって何か合図を送った。すぐに箱型の乗り物は下りてきた時よりもゆっくりと上に登っていく。


「滑車を使って四人掛かりで引き上げてるんだよ」

「四人で二人を? それは凄いね!」

「上がれば分かるよ。乗降機を任される船員は本当に凄いから。僕やアスールじゃ、何年かかっても無理だね」

「なんだい、それ?」


 そうこう言っている間にまた昇降機が下りてきた。上を見上げれば、ローザが満面の笑みを浮かべて手を振っているのが見える。

 ダリオがエマに手を貸して昇降機に乗り込んだ。ダリオはしっかりとエマの左腕を掴んでいる。


「掴まってでは無く、掴まえてなんだね?」

「そうだよ。もしも落ちたら……分かるだろ?」

「そうだね」


 アスールはブルっと身震いした。



 ダリオたちを乗せた昇降機が上がり始めると、少し離れた位置に太いロープが二本、船上から勢いよく落とされた。

 小型船に乗っていた船員が二人そのロープに勢いよく飛びつくと、海賊船の横壁を上手く利用しながらロープをスルスルと登っていく。

 登り切ったのを確認すると、また別の船員がロープに飛びついた。


「うわぁ。凄いね!」

「どう? アスールも試してみる?」


レイフがニヤニヤしながら聞いてくる。


「僕は半分が限度だから昇降機で上げてもらうけどね」


 レイフは船の真ん中辺を指差しながらそう言って、アスールにウィンクをした。


「それか、縄でできた梯子。こっちもかなり高難易度だよ」




「全員乗り込んだな?」


 ミゲル船長が舵輪に手を添えた。船員たちが持ち場へと走る。


「今日は波も穏やかですから、このままデッキに居ても構いませんし、目的地まで船長室で休まれるのも良いでしょう」


 副船長のジルが集まっていたアスールたちに向かって、順に声をかけて回っている。



 今日のジルは普段のラフな服装とは違って、随分と海賊っぽいなとアスールは思った。もしかするとこれも “海賊船ツアー” の演出なのかもしれない。


 ミゲル船長の方を見れば、彼もまた、金糸を贅沢に使って縁を蔦柄に刺繍された派手なマントを身につけている。

 その上、大きな羽根飾りが付けられたブルーの海賊帽は、以前アスールが収穫祭でかぶった物にそっくりだ。

 思わずアスールは苦笑した。


「どうしたの、アスール?」


 アスールの様子に戸惑ったかのように、レイフが慌ててアスールに歩み寄って来る。


「なんでもないよ!……それにしても、いつから準備していたんだろう。君の母上には本当に参るよ」


 レイフに詰め寄られて、アスールは渋々二年近く前の収穫祭で自分が着た衣装の話をした。レイフはお腹を抱えて大笑いしている。


「ああ、そう! ()()母さんならやりかねないな。折角ならアスールにもその時の格好で、船長としてこの船に乗船して欲しかったよ」

「はん。着たくても、もう小さくてあれを着るのは無理なんだよ!」


 二人はお互いの顔を見合わせると、堪え切れずまた笑い出した。



大海原をゆっくりと進む海賊船の上空を、二羽のホルクが気持ち良さそうに飛び交っていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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