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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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28 裏山へ登ろう!(2)

 今年は去年よりも早い時間に屋敷を出発していることと、ジルの提案でのんびり頂上を目指しているので、最初の休憩場所にある小川で皆で水遊びをすることになった。


 アスールとレイフは早速裸足になり、勢いよく小川に駆け込んだ。


「「うわー。冷たい!」」


 そう言って、仔犬のように二人は戯れながら水をかけあっている。

 そんな二人から少し距離をとって、ローザがシアンに手を引かれながら恐る恐る小川に片足を入れた。


「わあぁ。本当に冷たいですね」


 そう言ってすぐに足を引っ込める。そんなローザの横をすり抜け、レガリアが勢いよく小川に飛び込んだ。水飛沫がローザにかかる。


「あれ? 猫って水が苦手じゃなかったっけ?」


 レイフがレガリアを指差してそう叫んだ。


「レガリアは猫じゃありません!」


 そう言うローザの目の前を、レガリアが気持ち良さそうに泳いでいる。流石にそれにはローザも驚いたようで、大きな目を更に大きくしてレガリアの泳ぐ姿を追っていた。


「レガリアは何でもできるのね」

「ローザは、泳げないのだろう?」


 水から上がったレガリアがブルブルブルっと身体を震わせたので、すぐ側に居たローザにまた水がかかる。


「……泳げないわ」

「だったらこの島にいる間に海で練習すると良い。川や湖より余程楽に身体が浮くぞ」

「シア兄様、本当ですか?」

「そうらしいね。僕も海で泳いだことがないから、どのくらい違うのかは分からないけど。試しに今度海で泳いでみる?」

「……。」

「ちゃんと手を握っていてあげるよ」

「でしたら…‥海に入っても……良いですよ?」


 ローザの答えにシアンがニッコリ微笑んだ。



「さあ、そろそろ出発するぞ! 靴を履いてくれ!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 その後にもう一度休憩をはさんで、なんとか全員無事に頂上に辿り着いた。

 今日は天候にも恵まれて、頂上からは綺麗に水平線が見える。


「さあ、お昼ご飯だ! 今日のお弁当の中身は何かなぁ?」


 いかにもルシオの言いそうな台詞をレイフが言ったので、アスールが思わず吹き出した。


「何?」

「いや、ルシオが居るのかと思っちゃたよ。レイフ、段々とルシオに似て来てるんじゃない?」

「本当に? それは不味いな。うん。気を付けよう!」

「そんなこと言ったら、今頃ルシオが王都でクシャミをしてるんじゃないか?」


 ジルが荷物を下ろしながら笑っている。



 ダリオが山の頂に広げたお弁当は去年を遥かに上回る豪華さで、それを見たレイフは飛び上がって喜んだ。


「凄いよ、ダリオさん! これで本職の料理人じゃないなんて信じられない!」

「お褒めに預かり光栄です」


 ダリオのお勧めは、昨日皆で釣りあげた白身の魚をフライにして、細く切ったコールと山盛りのタルタルソースと一緒に挟んだサンドイッチだそうだ。


「今年は何故だかシーディンが釣れないんだよな……。去年のあれも、凄く美味かったのに」


 ジルがボヤいている。そう言われてみれば、ジルは去年、シーディンのオイル漬けの入ったサンドイッチを相当気に入って食べていた。


「まだ半月以上ここに滞在致しますし、魚さえ有ればいつでも作れますよ」

「つまりは、シーディンの群れの気分次第ってことか……。俺にはどうにもできんな」


 そう言ってジルは頭を掻いた。



 食後のデザートは、今年もジルが背負って来た小振りのリンゴだった。ジルは皆にリンゴを放って寄越した。

 アスールはハンカチを取り出すと、慣れた手付きでリンゴをさっと拭いてそのままかじり付く。その途端、驚いた顔でアスールをまじまじと見つめているローザと目が合った。

 アスールはローザの手の中のリンゴを掴み取ると、自分のハンカチでそれをさっと拭いて、またローザの手の中へと戻した。ローザはキョトンとしている。


「食べないの?」

「ええと……」

「流石に丸かじりはお行儀が悪うございます」


 エマが眉をひそめている。


「そりゃそうだな。姫さん、貸してごらん。切ってあげるよ」


 ジルはローザとエマからリンゴを受け取ると、食べやすい大きさに切り分け、慣れた手付きであっという間に皮を剥いていく。


「お上手ですね!」

「そうかな? 何でも器用にこなさないと一流の船乗りは名乗れないからね」

「そうなのですか?」

「そうだよ。料理はもちろん、掃除に洗濯。縫い物だってお任せあれ」

「まあ凄い!」

「はい。召し上がれ!」

「ありがとう存じます」


 ローザは小さく切り分けられたリンゴをぽいっと口に入れた。


「酸っぱい! でも、とっても美味しいです!」

「その酸っぱさが疲れを取るんだよ」

「一流の船乗りのジルさんは、とても物知りですね」



 食事も終わり、皆がそれぞれに景色を楽しんでいると、ジルが近づいて来てアスールに聞いた。


「そういえば、エルンストは元気にしてますか? 殿下は彼と定期的に連絡を取っているのですか?」

「ジルさんは、アーニー先生が今ハクブルム国へ行っていることをご存知だったのですか?」


 アスールは驚いてジルに聞き返した。


「ええ。エルンストがここを離れてからも僕らはホルク便でたまにやり取りをしてましたから」

「そうだったのですね。知りませんでした」

「それに……」


 そう言いかけてジルは口を噤んだ。


「なんですか?」

「ああ、もしかするとこれは秘密だったりするのかな……」

「構いませんよ、話しても」


 そう言ったのはシアンだった。

 シアンの声に驚いてアスールが振り向くと、いつの間にかシアンが側に来ていて、二人の話を聞いていたらしい。


「兄上!」

「オクルタ島も見せて頂きましたし、これからは今まで以上に協力し合える関係になるべきだと思うので」

「なんの話ですか?」

「王家とオルカ海賊団の今後のお付き合いについてだよ」


 シアンがニッコリ微笑んだ。



 シアンとジルの話では、もう何年も前から王家とオルカ海賊団は秘密裏に情報交換をしたり、お互いの利になる手助けをしたりしていたそうだ。


「今回もヴィスタルからタチェ自治共和国の港まで王家の船の護衛をして貰ったんだよ。だからジルさんはヴィスマイヤー卿がハクブルムへ行かれたことも当然知っている。その時も護衛をお願いしていたからね」

「私も毎回任務に就いていたので」

「毎回?」

「そうです。エルンストの時と、アリシア様の時と、それから陛下の時に」


 アスールは全然知らなかった。

 三歳しか年が離れていないシアンがいろいろと知っていたことにも驚いたが、どちらかかといえば “当事者” だと思っていた自分が、すっかり蚊帳の外だったことに衝撃を受けた。



「アーニー先生からは僕に直接連絡が来ることはありません」

「そうですか。まあヤツのことだ、上手く立ち回っているに違いない!」


 そう言うとジルは話を終え、レイフとローザの方へ歩いて行ってしまった。


「どうした?」


 急に黙ってしまったアスールにシアンが声をかける。


「僕にはまだ全然力が足りていないのだなと思って……。お祖父様からも力を付けろと言われているのに」

「これからだろう?」


 アスールはシアンを見た。


「アスール。お前は何歳だ?」

「十一歳です」

「そう、まだ十一歳なんだよ。力なんて無くて当然の年齢だと僕は思うよ」

「でも……」

「自分は蚊帳の外だと思った?」

「はい」

「僕だって、父上やお祖父様からいろいろと聞かせて頂けるようになったのは最近だよ。焦る必要は無い。この前レイフも言っていたじゃないか。もうしばらくはいろいろな方面の勉強をして、自分に何が向いているか探る。それから将来を考えても遅くは無いって。君たちはまだ学ぶ時期だよ。焦っては駄目だ」


 そう言ってシアンはアスールの頭をガシガシと撫で回す。

 アスールは「兄上……なんだかお祖父様みたいだ」と、溢れ落ちそうになる涙をぐっと堪えながら思った。

お読みいただき、ありがとうございます。

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