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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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27 裏山へ登ろう!(1)

「いよいよ明日ですね。レガリアのお友だちには無事にお会いできるでしょうか?」

「あれは……なかなか気難しいからな。捜されていると気付けば、姿を見せんかもしれんぞ」

「それは困りましたね。でしたら捜している雰囲気を出さないように気を付けつつ、明日は頑張ってお友だちを捜しましょうね」


 ローザは大きいレガリアのお腹あたりに、すっぽりと埋まるように寄り掛かって座っている。

 レガリアが特に嫌がる風でもないので、アスールも見て見ぬ振りを貫いているが、ずっとああして寄り掛かられていて重くは無いのかと心配にはなる。



 ガイド役のジルに先約があったので、先週の光の日に裏山へ登ることができず、ローザはずっとうずうずしながらこの一週間が過ぎるのを待っていた。


 そうはいっても、何もせずにこの一週間が過ぎたわけではもちろん無い。勉強部屋が終わった午後からは、毎日のように子どもたちと一緒に島のあちこちへ出掛けていた。

 魚釣り(ウネウネクネクネモゾモゾは代わりに付けて貰った)にも挑戦したし、海岸へ行って貝殻を拾ったり、山の入り口近くで野葡萄やワイルドベリーも摘みに行った。

 摘んできたベリーは屋敷の料理人が美味しいジャムにしてくれた。

 ローザは次は自分の手でジャムを作ってお土産にするつもりのようで張り切っている。



「姫様、明日は早起きですよ。そろそろお休みになった方がよろしいのではございませんか?」


 明日は裏山へのハイキングとは言え、休憩を挟みながら五時間程の山歩きになる。昨年ダリオは難なく歩き切ったが、ダリオより若いとはいってもエマには厳しい行程となるだろう。

 皆はエマに屋敷での留守番を勧めた。だが、エマは今回は何があってもついて行くと言い張った。


「私だって若い者には負けませんよ。もし私が途中で歩けなくなったら、その辺に置いていって下さっても構いません!」


 オクルタ島に一緒に行かれなかったことを余程残念に思っているようなので、それを理解している皆もエマに屋敷に残るようにと強くは言えなかった。


「まあ、確かに私よりもエマ様の方が余程健脚かも知れませんね」


 フーゴが笑いながらその場で足踏みをして見せる。皆が声をあげて笑った。


「さあ、さあ。姫様!」

「分かりました。では皆様、おやすみなさい」

「「おやすみなさい。ローザ」」



 ローザがエマと共に部屋から出て行くと、レガリアは(おもむろ)に立ち上がった。それからその場で前脚を床にピタリと付け、お尻を高く上げてぐーっと大きく伸びをした。


「やっぱり重かったんでしょ?」

「何がだ?」

「ローザだよ。あんな風にずっと寄り掛かられてたらレガリアだって疲れるだろう?」

「そうでも無いぞ。ああして側に居れば、我とローザの魔力は一体化する。あれはあれで我には心地良い」

「へえ、そうなんだ。そんなものなんだね」


 アスールは一年前に霧の中で出会った大きなオオカミに似た生き物のことを思い出していた。


「そういえばサスティーって言ったっけ? あのオオカミみたいな銀灰色のレガリアの友だち」

「そうだ」

「彼のお腹の毛もふわふわもふもふで気持ち良かったな……」

「あれは彼では無い。彼女だ」

「えっ、そうなの?」

「話はせんかったのか?」

「……何も」

「そうか。だとすれば、分からんでも仕方ないな」


 そう言いながらレガリアは小さくなりながらアスールの方に歩み寄ると、ひょいとジャンプしてアスールの膝の上に収まった。


「我の背中もなかなか触り心地は良いぞ!」

「それって……。やっぱり、撫でて欲しいってことだよね?」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



 今年も一番裏山のハイキングを楽しみにしていたのはダリオのようで、アスールが起きた時には既にダリオはお昼に山頂で食べるつもりのお弁当の用意を終えていた。


「おはよう、ダリオ。今日のお昼は何?」

「それは、着いてからの御楽しみで御座いますよ」



「まあ、ローザ。やっぱりそれも良く似合っているわ! 凄く可愛いわよ」


 食堂に入って来たローザにリリアナが抱きついた。


 島へ着いて数日後、ふんわりと裾の広がったドレスかスカートしか持っていなかったローザの為に、リリアナは数着のズボンを用意した。

 魚釣りに行ったり、貝殻拾いに行ったり、山葡萄を摘みに行くにも新しいズボンは大活躍で、ローザもすっかりこのスタイルが気に入っているようだ。

 それでも、今までのズボンはどれも少しドレープを多めに入れたふわりとしたものばかりだった。今日ローザが履いているのは、茂みを掻き分けながら歩いても大丈夫なようにピタっとしたデザインだ。


「なんだか……男の子みたいでは無いですか?」

「そんなこと無いわ! 凄く可愛いわよ!」


 アスールは朝食を食べながら二人の様子を横目で見て、ローザに何を着せても、リリアナは可愛いとしか言わないだろうと考えていた。


「アスール。言いたいことがあるならちゃんと口に出しなさい!」


 突然リリアナに指摘され、アスールは動揺した。おそらく考えが顔に出ていたのだろう。


「えっと。ローザ、凄く似合っているよ」

「そう。それで良いのよ!」


 リリアナがアスールに向かってウィンクを投げる。アスールは今度こそリリアナに気付かれないように横を向いて小さく溜息をついた。


「リリアナさんは一緒に登らないのですか?」

「私? 私、山登りは、ちょっと苦手なのよ」


(へえ、知らなかったな。リリアナさんにも苦手なことはあるんだ……)


「アスール!」

「ああ、すみません。何でもありません!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「そういえば、去年はこの辺を歩いている間ルシオがずっと調子っぱずれの鼻歌を歌っていたよね」


 アスールのすぐ後ろを歩くレイフが可笑そうに言った。


 そういえばそうだった。ルシオの鼻歌が聞こえていた間はまだ道もまだなだらかだった。この後は急に道幅も狭くなって鬱蒼とした木に邪魔されて歩き難くなる。


 今日も先頭はジル。すぐ後ろをエマとローザ。続いてシアン、フーゴ、ダリオ、アスール、レイフの順だ。去年よりも三人も多い。


「今回は人数も多いし、少しゆっくり歩こう!」


 ジルは出発前にそう言っていた。

 エマとローザを気遣っての台詞だろうが、決して名指しをしないところがジルが女性からモテる理由だと、こっそりレイフがアスールに耳打ちした。確かにそうかもしれない。


 レガリアは小さい姿で好き勝手に歩いている。不思議なことに、レガリアがどんなに藪や茂みの中に分け入って歩いても、あの美しい雪のように白い毛皮が泥で汚れることは無かった。

 流石は神獣といったところか?



 そのまましばらく歩くと、去年も最初の休憩をした小川のほとりに到着した。ここにはダリオが “女神の清水” と名付けた湧水の出る岩場もある。

 エマに手を貸し、適当な岩の上に座らせると、ダリオはすいすいと目の前の岩場を登って湧水を汲み始めた。


「ダリオさん、何だか一年前より元気な気がするんだけど……気のせいかな?」

「僕もそう思うよ。あの湧水には若返り効果があるのかも」

「だとしたら、来年はエマさんも頂上まで走ったりして?」


 アスールとレイフは顔を見合わせて大声で笑った。

お読みいただき、ありがとうございます。

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