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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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12 収穫祭(3)

 ローザを追いかけていった護衛騎士の跡を追うようにアスールが脇道に入っていくと、更に道の奥から激しく叩きつけ合う剣の音と一緒に、何人もの喚きが聞こえてきた。

 そこに居たのは護衛騎士たちと……。えっ? あとは誰だ? 如何にも柄の悪そうな男たちが十五人ほど、狭い路地でグチャグチャに揉み合っていた。


「ローザは?」

「奥です……」


 護衛が奥の道に進むのを邪魔するかのように、ゴロツキたちがふざけ半分といった感じで剣を大きく振り回していた。


「退け! 僕が行く!」


 アスールは剣を抜き身構える。


「坊ちゃんでも誰でも、ここから先に行かせるつもりはねぇんだよ!」

「かかってきな」

「ほらほら。そんな細っこい身体で俺たちに立ち向かおうってのかよ」


 護衛騎士たちの方が遥かに実力が上なことは誰の目にも明らかだったが、狭い路地で多勢に無勢。なかなか思うようにはいかず、アスールたちはなかなかローザの跡をを追いかけることが出来ずにいた。


「うわ。なんだお前!」

「死にたくなかったら手を引け!」

「や、止めてくれ」


 突然一人のスラリとした男がすっと歩み寄り、アスールの横に並んだ。


「加勢します!」


 華麗な台詞とともに割り込んできた男だったが、彼は左手にお世辞にも立派とは言えない程度のナイフを持っているだけである。


「あの。危ないから下がっていてください」

「ああ、大丈夫。心配いらないよ」


 男はアスールの制止に耳を貸す気などないようで、アスールに向かって軽く手を振ると、正面で剣を振り回している大柄な男に向かっていった。


(強い……)


 まさに瞬きする間に正面の男を倒すと、倒れたその男の剣を素早く奪い取った。奪った剣を左手に持ち替え、元のナイフを右手で構えている。

 仲間を一瞬で倒されたことに驚いたゴロツキたちが大声で喚きながら細身の男を囲む。細身の男は両手に持った剣とナイフを器用に扱い、前後のゴロツキたちを相手にしている。

 護衛騎士たちもそれぞれ必死に戦っていた。


「ちょっと、どうなってるのよ、この状況?」


 突然、後ろから甲高い声がした。

 そこにいた者たち全員が、一瞬そちらに目を向ける。


(……女性?)


 呆れ顔でそこに立っていたのは、男物の剣士風の衣装に身を包んだ、とても綺麗な女の人だった。


「一体全体どうなっちゃってるの? 本当にもう、なんなのよ……」


 その女は腰の剣を抜くと戦いに加わる。どうやらアスール側に加勢してくれたようだ。女性が剣を振るたびに、高い位置で一つに結ばれている彼女の長いシルバーブロンドの美しい髪が揺れる。

 2人の助っ人が加わったことで、形勢は一気にアスール側に傾いた。

 ゴロツキが次々と倒され、道端に転がっていく。


 アスールは目の前の敵が減って道が開けたのを確認すると、ローザが消えたと思われる小道へローザを追って走り込んだ。


「待てっ! 危ないから一人で行くなっ!」

「ちょっと。あなたたち、待ちなさい!」


 アスールの後を二刀流の男と、男装の麗人が慌てて追いかけてくる。

 だが追いついた二人が見つけることが出来たのは、飾り羽根が無惨に折られた赤い海賊帽を手に持って呆然と立ち尽くしているアスール一人だけだった。


「連れ去られたのはローザなのね?」

「えっ?」


 ローザの名前がその女性の口から出たことに驚いているアスールに向かって、女性はもう一度繰り返す。


「連れ去られたのはローザで間違いないわね?」

「はい」

「だったら急いで王宮に戻りなさい。すぐに王に助けを求めるのよ! 手立てはいろいろ残されているから大丈夫。ああ、もう。やっぱり私のホルクちゃんを連れて来るんだったわ!」



       ー  *  ー  *  ー  *  ー 



 ローザが連れ去られたと言う一報を受けて、アスールが助太刀をしてくれた二人と一緒に城に戻った時には、もうすでに王宮は大騒ぎになっていた。

 護衛騎士たちの中には怪我を負っている者もいたが、騒ぎを聞きつけ救援に駆けつけてくれた街の兵士と共にゴロツキたちを縛り上げて牢に入れ、すでに詰所へ戻っていた。

 

 アスールが執務室に足を踏み入れた途端、カルロがアスールに駆け寄ってくる。


「アスール、戻ったか!」

「はい、父上。申し訳ありません、ローザが……」

「話は先に戻った者から聞いている。とにかく詳しい話を聞かせてくれ……。えっ?」


 顔をあげた視線の先に立っている女性を見つけ、カルロは驚きの余り言葉を飲み込んだ。


「どうして貴女がここに?」

「どうしてもこうしてもないでしょ。とにかく今は時間を無駄にはできないはずよ。当然あの子の『セクリタ』は用意してあるわよね? それから私にも城のホルクを一羽貸してちょうだい。こちらはこちらで動くわ。その方が良いでしょ?」

「……分かった。頼む」

「ああ、それと、そこに居るお兄さん。彼、アスールの命の恩人よ。すっごく腕が立つし、何か情報を持っているかもしれなし、ちゃんと引き止めておいた方が良いと思うわよ」


 そう言うと、その女性はアスールに向かってウィンクをし、バルマー伯爵と一緒に、と言うか伯爵を引き連れて、さっさと部屋から出て行ってしまった。


「では、こちらでお話をお聞かせ願えるかな?」


 ディールス侯爵が残された若者に声をかけ、二人も部屋を出て行った。


「怪我はないか?」

「はい……」

「ローザのことなら大丈夫だ。すでに打てる手は打ってある。何があっても、あの子はすぐに取り戻す。心配するな」

「はい」


 カルロはアスールを引き寄せて、力強く抱きしめた。それからアスールの身体をドアの方へと向ける。カルロはアスールの肩に両手を乗せ、軽くその肩を叩いてから背を押した。


「サロンでパトリシアが待っている。顔を見せてやれ。おっと、その前に顔を拭いたほうが良いな。それではパトリシアが余計な心配をする」

「……はい」



       ー  *  ー  *  ー  *  ー 



「ねえ、ちょっとしっかりして!」


(なんだか、クラクラする……)


「大丈夫?」

「こんなに小さな子まで……」

「私たち、どうなるのかしら……」


 ローザが意識を取り戻すと、そこは一応小さなランプは置いてはあるが薄暗くて、お世辞にも綺麗とは程遠い小さな部屋の中だった。

 三人の女の人が心配そうな表情をして、ローザを取り囲むように座り込んでいた。


「ここは……どこですか?」

「……分からないの。私たち皆連れ去られて来たみたいで……」

「今は夜?」

「いいえ。まだ夕方くらいだと思うわ。窓は外から木が打ち付けられているらしくて、外の様子は確認できないけれど、多分それくらいだと思うわ」

「そうですか……」

「あなたは二時間くらい前にここに連れて来られたの。ずっと気を失っていたのよ。具合、悪くない?」

「はい、大丈夫だと思います。お姉さんたちはずっとここに?」

「私が最初で……そうね、お昼前くらいだったわ。後の2人もそれぞれ別々に攫われてきて、みんなここに押し込められてる。あなたが最後よ」


 話を聞くと、皆だいたい同じような状況で攫われて来たようだった。



       ー  *  ー  *  ー  *  ー 



 王の執務室は城の文官や騎士たちでごった返していた。怖いくらいの緊張感が部屋全体を覆っている。


「アスール、お前は城に残るんだ」

「僕も行かせて下さい」

「駄目だ」

「どうして?」

「……お前が居ては足手纏いになる」


 カルロにはっきりと『足手纏い』という言葉を使われ、アスールは悔しさのあまり奥歯を噛み締めた。だが、その言葉を彼自身否定できないことも理解している。

 実際、ゴロツキに囲まれたあの時もアスールは何一つ出来なかった。ローザが連れ去られるのをただ指を咥えて見ていたのと同じだった。


 その時、バルマー伯爵が先程の女性と、それから厩舎番二人を連れて戻って来た。四人それぞれがホルクの入った鳥籠を抱えている。

 女性は籠をテーブルに置くと何やら手紙を書き始めた。


「三羽にはローザのセクリタを。五分間隔だ。それぞれ三名で追跡させよ」

「はい」

「残りの一羽はリリアナに」

「ええ、任せて頂戴」

「今から二十分後に本作戦を開始する。頼んだぞ」


 カルロの指示で騎士たちが一斉にそれぞれの持ち場へと移動する。


 手紙を書き終えたらしい女性がその手紙をホルクの足に取り付ける様子をアスールはじっと見つめていた。アスールがホルクをこんなに間近で見たのは初めてだった。

 女性はホルクを籠から出した。それから小さな緑色の石を取り出し、それを首のケースにセットする。そしてホルクを左腕に乗せて立ち上がり、そのままテラスへと出て行く。

 女性が左手を高く上げる。ホルクが大空へと飛び出して行った。


 彼女の腕から飛び去ったホルクが完全に見えなくなるのを確認した女性がテラスから戻ってくるのと同じタイミングで、先王フェルナンドが数人を引き連れて部屋に入って来た。軍のお偉方と、大臣も居る。

 フェルナンドは女性に気付いたようで、ズンズンと歩み寄り腕を大きく広げ女性をがっしりと抱きしめた。


「お久しぶりでございます、フェルナンド様」

「ああ、久しいな……」


(父上やバルマー伯爵とも知り合いに見えたし、お祖父様とあんなに親しいなんて……あのリリアナと呼ばれていた人はいったい誰なんだ? それに、僕とローザのことも知っている風だった)


「お話したいことは沢山あるのですが、今は急ぎます故、失礼致したく存じます」

「うむ。よろしく頼む」

「はい。では……」


 そう言うと女性は部屋を後にした。

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