閑話 ミゲル・オルケーノの独白
私はミゲル・オルケーノ。四十七歳。
オルカ海賊団の頭領であると同時に、アルカーノ商会の会頭でもある。とは言え、アルカーノ商会に関しては、長男のカミルに殆ど任せっきりの状態だ。
我が家には三人の息子が居る。
長男のカミルは数年前に結婚し、現在はテレジアにあるアルカーノ商会を妻のアニタと共に上手く取り仕切ってくれている。
カミルとアニタは二人の可愛い息子たちにも恵まれ、本当に毎日が幸せそうだ。
次男のイアンは王立学院の最終学年に在籍中だ。
イアンからは先日、学院卒業後に自分はオルカ海賊団に入ることを決めたと突然告げられた。
私自身、海賊団の頭領という立場ではあるが、海賊という商売についてはいろいろと思うところもある。イアンの将来を思えば、そう気軽には「オルカ海賊団をお前に託す」とは言えない。
それでもイアンの気持ちを嬉しいと思ってしまう自分も居る。親というのは勝手なものだな。
三男のレイフは王立学院に通い始めてまだ二年目のひよっこだ。
レイフは入学後、王家の第三王子であるアスール殿下と友人関係になり、一年前にはその王子と王子の友人をこの島へ連れて来た。
レイフと第三王子は、自分たちが再従兄弟同士だとは知らずに友人になっている。だが、その事実が判明して以降、レイフはレイフなりにいろいろと自分の将来について考え始めたように私には見える。
もちろんカミルにもイアンにも言えることだが、レイフには自分が望む道を歩んで欲しいと願っている。
例えそれがどんなに困難な道であったとしてもだ。
私自身に関して言えば、お世辞にも家族に恵まれていたとは言えない。
父の愛人たちのところに妹が何人も居るには居るが、殆ど会ったことも無く、今となっては顔すら思い出せない。ただ父親が同じだけという希薄な関係だ。
父親からも愛情を受けた記憶は皆無と言って良い位だ。苦労の絶えなかっただろう母親は早くに亡くなっている。
リリアナと出会うまで、私にとって唯一の家族はたった一人、叔父だけだった。
叔父のファビオは、私に人生を与えてくれた恩人でもある。
王立学院への進学を勧めてくれ、あの暴力的で横暴な父親から、精神的にも肉体的にも幾度となく守ってもらった。
あの人が実の父親であったらどんなにか幸せだっただろうと、子どもの頃から何度も何度も考えた。
だが、その大切な叔父の命は、私の本当の父親の手で奪われてしまった……。
私は、多分、私自身に流れるこの血を呪っている。
そんな私も、リリアナに出会えたお陰で人を愛するということを知った。リリアナとの間に三人の息子が生まれ、家族で共に過ごす喜びも、楽しみも、それから困難も知った。
結果的にリリアナには、私と結婚することで彼女の大切な家族と、公爵家令嬢という身分を捨てさせることになってしまったが、お互いに全く後悔はしていない。
今、島には王家の三人の子どもたち、リリアナの甥っ子姪っ子たちが滞在中だ。第二王子のシアン殿下、第三王子のアスール殿下、第三王女のローザ姫。
既に婚姻のためにクリスタリア国を出た第一王女のアリシア姫も含めたパトリシア妃の子どもである四人の絆は非常に強く、あの子たちは本当に仲が良い。
あの子たちがクリスタリア国を動かすようになるだろうそう遠くない将来、オルカ海賊団がどういう立場に立っているかは分からないが、そう悪くはない未来がこの国には待っている気がしてならない。
そうだな。明日あたり、リリアナを誘って久しぶりに叔父の墓参りにでも行ってみるか。
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