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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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16 剣術五本勝負(1)

「ねえ、アスール。レイフとマティアスの試合の話……知ってる?」


 放課後、剣術クラブの練習に行くと言うマティアスを見送ると、ルシオがアスールにそう言って話を切り出した。


「えっ、何? 試合? 何も知らないけど……。もしかして、剣術クラブの話?」

「そうだよ! あれからレイフはずっと放課後の練習に参加しているらしいんだけど、まだ正式に入部は認められていないんだって」

「……そうなんだ」

「酷いと思わない? 練習に参加しているって言ったって、実際にはほとんどの時間、雑用を押し付けられているって話だよ」

「レイフがそう言ってたの?」

「レイフからは何も聞いていないよ。Dクラスに居る剣術クラブの子から聞いたんだ」


 どうやら、剣術クラブ内にレイフの入部を快く思っていない者が数人居て、レイフは嫌がらせ紛いのことをされているようだ。



「レイフって、あれでなかなか強いらしいんだよね。騎士コースに進みたいって言ってるヤツを、練習試合で派手にやっつけちゃったらしくて、それからソイツとその取り巻きたちに目の敵にされてるってさ」


 ルシオが聞いてきたと言う話によると、レイフが練習試合で打ち負かした相手というのは伯爵家の四男で、彼は自分が騎士コースを希望しているということを入学当初から周りの友人に明言していたらしい。

 自分の腕にかなり自信があったその四男は、急に剣術クラブに現れたレイフに対して嫌がらせ半分で勝負を挑み、大方の予想に反して酷い負け方をしてしまった。それも大勢の貴族たちの前で。

 自分で仕掛けておいてあっさり返り討ちにあったのだ。それも平民風情と馬鹿にしていた相手に。逆恨みにしても程があるが、レイフに負けたことを相当根に持っているらしいのだ。


「それで? どうしてそこにマティアスが出てくるの?」

「ああ、それはね。四男のレイフに対する目に余る態度を知ったマティアスが、四男に対して対応を改めるように諌めたらしいんだよね」


 それを聞いて、アスールは「ああ、マティアスらしいな」と思った。

 マティアスは真面目で実直な性格だ。レイフに対する横暴を黙って見過ごすことなどできなかったに違いない。


「段々話が大きくなっちゃって、結局は剣術クラブの部長さんが間に入ったらしいよ。それで部長さんが出した仲裁案っていうのが “試合による解決” なんだって」

「試合による解決?」

「そう。レイフがマティアスと五本勝負をして、一本でも取れたらレイフの入部を正式に認める。他の二学年生と同等に扱う。以後この件に関して一切のクレームは受け付けない」

「なんでそこでマティアスが出てくるの?」

「その四男じゃ話にならないからだろ?」

「もしマティアスから一本でもレイフが取れれば、もう誰にも文句は言わせないっていうのが部長さんの判断なんじゃないかな」

「そうかもしれないけど……」


アスールは思った。これまでのは全てレイフが勝った時の条件だ。だとしたら。


「逆に、もしレイフが一本も取れなかったら? マティアスって “同学年に敵無し” って言われているくらい強いって前に言ってなかった?」

「そうだよ。マティアスは剣術クラブ全体でも上位に食い込む強さだよ」

「だったら……」

「レイフは一本も取れなかったら入部を諦めるってはっきりと言ったらしいよ」

「まさか、本当に?」

「そう聞いたよ」


 レイフなら言いかねないとアスールは思った。


「それで、その試合はいつだって?」

「来週だって聞いたよ」

「……来週か。今日はまだ氷の日だよね?」

「そうだよ」

「雷の日、地の日、光の日。大丈夫! まだ間に合うな」

「アスール、何か考えがあるの?」

「ルシオ、すぐに寮へ戻ろう。ピイリアを飛ばす!」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー



「よく来たな。お前さんがリリアナの息子か?」

「はい。レイフ・アル……。レイフ・オルケーノです」

「レイフか。良い面構えだ!」


 地の日の授業が終わるとすぐに、アスールはレイフとルシオを連れて王宮へと戻って来ていた。


 あの日、ルシオからレイフとマティアスとの五本勝負の話を聞いてすぐに、アスールはピイリアを王宮のフェルナンドに向けて飛ばした。フェルナンドにレイフの剣術指南を頼むためにだ。

 ピイリアはすぐに了承する旨が書かれたフェルナンドからの返事を持って帰って来た。




 翌日の雷の日。アスールとルシオはレイフのクラスを訪ね、レイフに何故この状況に追い込まれていることを、自分たちに知らせてくれなかったのかと詰め寄った。


「だって、言っても仕方ないと思ってさ」


 レイフは自分の一人の力でなんとかするつもりだったようだ。それでも相談して欲しかったとアスールとルシオはレイフに訴えた。


「僕たち、友だちだよね?」

「ああ」

「だったら協力させてよ」


 アスールは既にピイリアを飛ばしてフェルナンドに剣術指南の依頼をしてあること、フェルナンドからは雷の日の授業が終わったらすぐに王宮へ向かうように言われていることを伝えた。


「あの金獅子王と呼ばれているフェルナンド様が? 僕の練習を見て下さるってこと?」

「ああ、そうだよ」

「レイフ、君だけじゃ無いよ。僕とアスールも何故か巻き込まれて、一緒に練習に付き合うことになってるよ」


 ルシオが苦笑いを浮かべながらレイフにそう言った。




「それじゃあ、今から軽く手合わせをしようか」

「今からですか?」


 ルシオが声を張り上げた。まさか王宮に着いて早々、フェルナンドによる剣術指南が始まろうとは夢にも思っていなかったからだ。


「時間が無いんだろう? マティアスは手強いぞ」

「お願いします!」


 レイフが持ってきた自分の木剣を手に立ち上がる。


「特訓はレイフだけでも良いのでは……」

「何をごちゃごちゃ言っておる。ルシオ、お前さんも早く着替えて来い! 夕食は稽古を済ませてからじゃぞ」

「……ですよね。頑張ります」



 軽いとは言えない稽古を終え、夕食を食べ終えると、フェルナンドは三人を前に今日レイフと手合わせをしてみて感じたことを語り始めた。


「まず、基本が()()なっとらん」


 そう厳しく言い捨てると、ショックを受けているレイフの前にフェルナンドが木剣を差し出した。自分も一本持っている。


「持ち方はこう! それで、こんな風に構えるんだ!」


 そう言って、フェルナンドはレイフの欠点を一つずつ指摘しながら、細かく対処法を教え込んでいく。


 ダイニングの隅で、フェルナンドの指示のもとレイフはひたすら木剣を振っていた。

 給仕をしてくれていた使用人たちは既に夕食の片付けを終え、もう全員下がっている。テーブルにはすっかり冷えてしまった二人分のお茶が置かれていた。



「良いぞ! だいぶ良くなってきたな。じゃが、一度その身に染み込んでしまった形を正しく矯正していくのは、とても時間がかかるし、根気のいる作業だ」


 フェルナンドの言葉一つ一つにレイフはいちいち頷いた。流れ落ちる汗を手で拭いながら、レイフはフェルナンドの話を真剣に聞いている。


「マティアスは強いぞ」


 レイフはフェルナンドのその一言に唇を噛み締めた。


「だが、一本だったら取れるかもしれない。今日はこれくらいにしてゆっくり休め。明日の朝、また稽古をつけてやる。ルシオ、お前も一緒にやるんだぞ。寝坊するなよ!」


 呑気に二人の訓練を見物していたルシオは、フェルナンドのその言葉を聞いて一瞬で青褪めた。

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