13 お見合い舞踏会(2)
夕食会はなんとなく気まずい雰囲気のまま終わりになった。
ヴィオレータはエルダに引き摺られるようにして西翼へと戻って行った。カルロとドミニクのニ人は「まだ仕事が残っているから」と言って、執務室に戻ってしまった。
アリシアも疲れたらしく、早々に部屋へと戻って行った。
「ヴィオレータお姉様は大丈夫かしら? エルダ様は随分と怖い顔をなさっていたから、お姉様はきっと叱られてしまいますね……」
東翼のサロンに戻ると、そう言いながらローザが心配そうに西翼の方へ視線を送った。
「そうかもしれないね。でもまあ、ヴィオレータも少し言い過ぎだった感は否めないな」
シアンがお茶を飲みながらそう言った。
「僕はヴィオレータ姉上があんなにはっきりとご自分の意見を言ったことに驚きました」
アスールは夕食の席でのやり取りに相当な衝撃を受けたようだ。
「そうかな。ヴィオレータは割とはっきり物を言う子だと僕は思うけど」
「そうですか?」
「学院でも専らそう言う評判だよ。成績も優秀。熱意があって意志も強く、しっかり者だって」
シアンがヴィオレータを誉めた。
「その上剣技に優れ、体力はあり、馬にも乗れる。あれが男だったら、次期王の候補に名が上がるだろうに。惜しいな」
フェルナンドがそう言って笑った。
「王様になるには男の人でないと駄目なのですか?」
ローザがフェルナンドに尋ねた。
「いや、そうとも限らん。碌な能力も無い男が王位に就くくらいなら、優秀な女王の方が良いに決まっておる。この国の王は、生まれた順番や性別では決まらないということは、お前たちも皆知っているだろう? 指導力、統率力、魔力。あらゆる能力に於いて優れた者が次代の王として選ばれる」
そう言いながら、フェルナンドはシアンとアスールを指差した。
「ほら、ここにも優秀な後継候補が二人も居るじゃろ? それにドミニクだって居る。ヴィオレータが王位を目指すのは……ちと難しかろうな。ローザ、お前さんも次代の王候補として名乗りを上げてみるか?」
「私が王様に? それはちょっと……辞めておきます」
「ははは。そうか、そうか。お前さんはパトリシアのような王妃様になりたいと、確か随分と前に言っておったな」
フェルナンドはそう言うと、また豪快に笑った。
ー * ー * ー * ー
翌日。姉弟四人で遅い朝食を食べていると、ヒラヒラと便箋を手に持ったパトリシアがダイニングに入ってきた。
「アスール。先程エルダ様の使いの者が伝言を持って来ました。ヴィオレータが早くに朝食を済ませて、既に学院へと一人で戻ったそうです」
そう言って、アスールの前に持っていた便箋を置いた。
「ですから、今日の午後学院に戻るのはローザと貴方の二人だけということになったわ」
「そうですか」
便箋に書かれた内容に素早く目を通してからアスールが返事をした。
「ローザもそう言うことだから、アスールの言うことをよく聞いて、気を付けて学院に戻るのよ。私はもしかすると時間が取れなくて、貴方たちを見送れないかもしれないわ。ごめんなさいね」
「はい、お母様。大丈夫です」
パトリシアは今日の午後に開かれるお茶会と、夕刻からの舞踏会の準備があるのか、アスールとローザに慌ただしく要件だけを伝えると直ぐにダイニングを後にした。
「お母様もお忙しそうですね……」
「そうね。私のために皆がいろいろと動いてくれていて、なんだか申し訳ないわ」
寂しそうなローザを見たアリシアが小さな声で呟いた。
「姉上が気にすることでは無いですよ。それよりもローザ、早く食べ終えて姉上のお部屋に行った方が良いんじゃないかな? 姉上は着替えも必要だろうし、もう余り時間は無い筈だよ」
「そうですね。急がないと!」
ローザはいろいろとアリシアから譲り受ける物が有るらしく、王宮に戻るとすぐにアリシアの部屋に行ったきり、夕食の直前までずっと二人で仲良く部屋で過ごしていた。
一家揃っての昨晩の夕食会が予想以上に長引いた為、途中だった譲り受け作業が夕食後にはできず、今もまだ作業は終了していないようだ。
「お姉様、大変お待たせ致しました。今からお部屋で昨日の続きを致しましょう!」
「そうね。では、私たちはお先に失礼するわね」
アリシアとローザは手を繋いでダイニングから出て行った。
「あの二人は本当に仲が良いですよね」
アスールが二人が去っていった方を見ながら呟いた。
「そうだね。もうすぐ離ればなれになってしまうと思うと、きっと余計に離れがたく思うんだろうね」
シアンもしみじみと呟いた。
「ところで、アスール。余計なことをローザに吹き込むのはやめて欲しいな!」
「えっと……。なんのことですか?」
「あの後、ローザから僕も今日の舞踏会で婚約者探しをするのかとしつこく聞かれたよ」
「ああ……」
アスールは王宮へ向かう前日の夕食の時に、食堂のテーブルでローザと喋った内容を思い出していた。
確かにローザとそんなような内容の会話をした覚えはアスールにもある。だが、それについて喋ったのは、アスールではなくてルシオだ。
「兄上。その件でしたら、犯人は僕では無くてルシオです」
アスールはその時にルシオが話した内容を掻い摘んでシアンに説明した。
「なるほどね。ルシオは兄のラモスが今日の舞踏会に参加する話を食事をしながら話たんだよね? それは理解したよ。だけど、それでどうして僕が婚約者を探すってことになっているのかな?」
「王宮の舞踏会には王家と繋がりを持ちたい令嬢がこぞってやって来るだろうとルシオが言ったんです」
「うん。それで?」
「今日参加する令嬢が王妃になるには、ドミニク兄上かシアン兄上に気に入られれば良いとルシオが。僕はまだ舞踏会に参加できる年齢じゃ無いから……と」
その話を聞いたシアンは大きな溜息をついた。
「……そう言うことか」
「申し訳ありません」
「大丈夫。アスールが悪くないってことは分かったよ。それじゃあ、僕は小さなお姫様のご機嫌取りにでも伺おうかな」
そう言ってシアンは立ち上がった。
「今からローザのところへ行くのですか?」
「姉上もお支度があるだろうし、そろそろ時間切れだろうからね。僕がローザを引き取って来るよ。運び出す荷物もあるだろうしね」
「僕も手伝いますか?」
「そうだね。お願いしようかな」
二人は揃ってアリシアの部屋に向かった。
「兄上には婚約者を決める話はまだ出て無いのですか?」
アスールは歩きながらシアンに尋ねた。
「婚約者? 無いね! もしそんな話があったとしても、僕は結婚相手は僕の意志で決めるよ。僕は本当に望む相手としか結婚するつもりは無いからね」
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