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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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閑話 エマ・ジスリムの独白

 私はエマ・ジスリムと申します。現在はクリスタリア王家の第三者王女ローザ姫様の側仕えとしてお仕え致しております。

 年齢は……そうですね、フェルナンド様よりは少し年下でございます。



 私が初めて姫様と出会ったのは、まだ姫様が本当にお小さい時でございます。

 姫様は生まれつきとても身体が弱く「もしかすると大人になるのは難しいのでは?」と皆から思われた日々もございました。

 こうして学院に入学し、王宮を離れ、寮や学院で楽しそうに過ごされている姫様をお側で見守れる日が来ようとは……。私は、感無量でございます。



 そんな姫様ですが、お小さい時から姫様には「何か特別な力があるのでは?」と感じることがございました。

 まだ姫様がやっと一人歩きができるようになった頃でしたでしょうか、王宮に仔犬が紛れ込んだことがございました。

 その仔犬は門を守る兵士たちにしつこく追いかけられていたようで、たまたま中庭をお散歩中の姫様の前に飛び出して来たのです。


 仔犬とはいえ、まだよちよち歩きの幼子にとっては脅威です。ましてその仔犬は兵士たちに追いまわされ続け、非常に神経質になっているようでした。

 突然姫様の目の前に現れた仔犬に、私を含め数人居た大人たちは何もできずにおりました。恐ろしいことにその仔犬は、唸り声をあげて姫様に向かって行ったのです。私は恐怖の余り目を閉じました。


 しばらく経って恐る恐る目を開けて見れば、なんと姫様がその仔犬に抱きついてニコニコと笑っているではありませんか。

 後から兵士の一人に聞いた話では、姫様は向かって来る仔犬に怯える様子は微塵も無く、小さな両手をいっぱいに広げて仔犬を抱き止めたそうなのです。


 驚いた兵士たちが駆けつけると、姫様は「にゃい。にゃい」と仰ったとか。

 この「にゃい」はこの頃の小さな姫様が頻繁に使われていたお言葉で「無い!」とか「大丈夫!」とか、おそらくそんな意味だったと思います。

 懐かしい思い出でございます。



 先日のこと。学院からお二人の兄殿下とご一緒に寮へと戻られた姫様が私に仰るのです。


「もう少ししたら、エマがビックリすることが起きるわ。だって私自身も今、とてもビックリしている位だもの。楽しみにしていてね」


 そう言って楽しそうに笑っておられます。

 私はもちろん何のことか分かりませんでしたが、姫様が楽しみにして待つようにと仰るのですから、何か良いことでもあるのだろうと期待しておりました。

 それがまさかあのようなことだったとは。



 昨日。学院から戻られた姫様は、小さな白くてとても綺麗な猫を抱いてお部屋に戻って来られました。


「あのね、エマ。この仔はレガリアという名前なんだけど、シア兄様が許可を取って下さったので、今日からこのお部屋で私と一緒に暮らします! よろしくね」


 と、いつもの可愛らしい笑顔で私に仰るのです。

 もちろん姫様のお願いですから、私は「否」とは申しません。きちんとお世話も致します。私だって、動物は嫌いではございませんからね。



 ところが、姫様から “レガリア” と名付けられた小さな生き物は、猫などという可愛らしいものではございませんでした。

 なんと、女神ルミニスに仕える神獣のティーグルだったのです。



 私の目の前で本当の姿を現したその神獣は、恐ろしい程に大きな体で姫様の横に並び、今にも小さな私の姫様を頭からバリバリと食べ尽くしてしまいそうな大きな口を開けました。

 私は悲鳴をあげそうになるのを必死に堪えました。ところが、レガリア様が口を開けたのは、ただ単に眠くなって欠伸をしただけ。

 全てすっかり気が動転していた私の勘違いでございました。



 その晩、姫様は大きな姿で寝転ぶレガリア様のお腹のあたりに寄りかかるように座って、ずっとレガリア様から遠い昔のクリスタリア国の様子や王様たちの話を聞いておられました。

 私も知らない、おとぎ話のようなレガリア様の昔語りを、夜更けまで姫様と一緒に楽しく聞かせて頂きました。



 レガリア様は普段はまるで小さな猫のように振る舞っておいでです。それでも契約を交わされた尊き神獣ですから、生涯に渡り姫様をお守り下さるそうです。



 私の小さな姫様にとって、かけがえの無い守り手となられたレガリア様に対して、私に何ができるでしょうか?

 せめて王宮への馬車での行き帰り、姫様もレガリア様もお疲れにならないように、小さな姿のレガリア様にピッタリな寝床でも用意して差し上げましょう。

お読みいただき、ありがとうございます。

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