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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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 6 だだ漏れの魔力

「小僧たちは知っておるのか?」

「はぁ。また小僧って……」


 アスールは軽い溜息を吐き出しながら、下を向くと、小声で続けた。


「あのさ、僕たちには君と違ってちゃんと()()があるんだけど。出来れば、小僧! とか小僧たち! ではなくて、名前で呼んで貰えると嬉しいな。ちなみに僕はアスール、兄上はシアン。どうせ忘れているだろうけど、もう何度も名乗っているよ」



 今日もアスールは図書室の最奥にあるキャレルで過ごしていた。最近では、滅多に人が来ることも無いこの場所が、すっかりアスールの放課後の定位置になりつつある。


「それは小僧たちの本当の名前ではなかろう?」

「……本当の。って、分かるの?」

「我を誰だと思っている。……まあ、そんなことは我には瑣末なことだ」

「なんだよ、瑣末って……」



 ティーグルはアスールの膝の上で思いりきよく伸びをした。伸ばした前足がアスールの太腿を押しす。痛くは無いが、ティーグルのその見た目に反して鋭い爪が、軽くアスールの太腿に食い込んだ。


 ティーグルにとってもアスールの膝の上は、それなりに居心地の良い定位置となっているようだ。



「アスール、お前は知っておるのか?ここひと月ほど、定期的にあの娘の魔力が学院内に漂っているのを」

「あの娘ってローザのこと?」

「……。ふむ。ローザ、のことだ」

「ローザの魔力が漂う?……どういうこと?」


 アスールには全く心当たりが無い。


「最初に気付いた時は、ほんの僅かな量だった。だが、回を重ねるうちに段々とその量が増えている。あんなに無駄にただ魔力を垂れ流すなんて……どういうつもりだ!」



 ティーグルの話によると、週の中頃、午後の大体決まった時間になると、どこからかローザの魔力が漂い流れて来るらしい。


 はじめてそのことに気付いた時は、漂う魔力は本当に僅かな量で、てっきりローザが近くを通りかかったのかと思ったそうだ。

 だが、アスールから「ローザはしばらくは図書室には来ない」と聞いていたので不審に思い、次にこの魔力の流れに気付いた時に、それがどこから漂い流れて来るか突き止めようと、その魔力の流れて来る方へ向かってみたと言う。



「出どころは小さな部屋だ」

「小さな部屋?」

「ああ、そうだ。中にはお前と同じような服を着た子どもが、あの娘、ローザを含めて三人座っていた。そういえば、一人、長いローブを着た大人も居たな」

「そこって、もしかして教室のこと言ってる?」

「教室が何か我は知らんが、あの……、ローザの揃えた両掌から魔力が床に溢れ落ちて、それがその部屋から少しずつ漏れ出しておった」



 もしかすると “魔道実技基礎演習” の授業かもしれないとアスールは考えた。確かローザは「地属性を持つ二人と一緒に授業を受けている」と言っていた。


 アスールが黙り込んでしまったので、ティーグルが鼻先でアスールのお腹あたりをクイッと押す。


「心配するな。溢れた魔力は我が全て綺麗に()()をしておいてやったぞ」

「掃除?……それって、魔力を美味しく頂いちゃったってこと?」

「……そうとも言う、か?」


 ティーグルは悪びれることなく、すましている。


 アスールはローザがその部屋でやっているのは “魔力を制御したり活用方法を学ぶ授業” だろうこと、アスール自身もそういう()()にローブを着た大人(先生)から教わった、とティーグルに説明した。


「ふん。あんなやり方では何の役にも立たぬわ」


 ティーグルは不機嫌そうにそう言った。


「そうなの? 僕はそれで上手く魔力を扱えるようになったよ」

「それはお前が水の属性持ちだからだろう? 火、水、雷、氷、風。そういうイメージし易い属性と光の属性とでは、根本的に違うのだ」

「そうなんだ……」

「光の属性の持ち主など、もうずっと長いこと見掛けてはおらん。気配すら感じたことは無かった。だとすれば、ローザに光の扱いを教えられる者など、ここに居るはずが無い」

「そう言われると、確かにそうだよね……」


 アスールはしばらくの間、じっと自分の膝の上で気持ち良さそうに寛いでいるティーグルを見下ろしながら考え込んでいた。


「ねえ」


 ティーグルが頭をほんの少しだけ動かしてアスールを見上げる。


「だったら、ティーグルがローザに教えることはできないの?」



       ー  *  ー  *  ー  *  ー



「へえ、そんな事になってるんだ……」


 アスールは自分の考え方が果たして正解なのか不正解なのか、それを確認するためにシアンの部屋を訪れていた。

 ティーグルの言っていたことをアスールがシアンに事細かに伝えている間、アスールにはシアンがひどく愉し気に見えた。


「で、アスールは魔道実技基礎演習の授業よりも、ティーグルにローザの先生になって貰う方が良いと考えたわけだね?」

「そうです」

「うん、うん、うん」


 シアンは左手を顎に当てて何やら考え込んでいる。


(なんだか兄上、父上みたいだ。やっぱりこういう雰囲気、ちょっと似ているよね)


 アスールには、目の前のシアンにカルロが重なって見え、意図せず顔が綻んだ。


「良いんじゃない?」

「えっ?」


 シアンの声に、慌てて表情を整える。


「良いと思うよ。ティーグルのその言い方だと、地属性の子たちの中に光属性のローザが混じって授業を受けていても、全く無駄ってことでしょ?」

「全く?……まあ、そうみたいです」

「授業は……。ローザが属性を秘匿している以上、例え無意味だとしてもそのまま受け続けるしかないね。その上で、ティーグルにも教えを乞えば良いと思うよ」

「ローザにはどう説明するのですか?

「説明するより、直接会わせちゃおうよ」


 アスールは驚いてシアンを見た。


「説明、すごく難しいよね?」

「……そうですね」

「だったら、いっそのこと説明なんてしなくても良いと思うよ。あの性格だ。ローザは絶対にティーグルを気に入るだろうし、お互いに仲良くなりさえすれば、後はどうとでもなるよ」


 確かに、シアンの言う通りかもしれない。


「ただし、少なくてもお祖父様にだけはきちんとこのことは話しておいた方が良い。週末帰った時にでも時間をとって頂こう。その上で、来週中にローザを図書室に連れて行けば良い」

お読みいただき、ありがとうございます。

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