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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第三部 王立学院二年目編
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 3 クラス発表と入学式

 新学年スタートのこの日、新しいクラスを確認しようと学院本館の入り口前は大勢の学生でごった返していた。

 入学式開始前までに、学年毎に張り出された表の中から自分の名前を探し出し、指定の教室へ移動しなくてはならない。

 アスールはマティアスとルシオと三人で第二学年の表のところへと向かった。

 既に人集りができていて、あの中に食い込んで行ってクラスを確認しなくてはならないのかと考え、アスールは眩暈を覚えた。


「来年は絶対にもう少し早く寮を出よう……」


 そうアスールが呟いたのが聞こえたのか、マティアスがアスールの肩をポンと軽く叩いた。


「ここに居て。僕が見てくるよ」


 そう言うと、持っていた鞄をルシオに預け、マティアスはさっさと人混みに向かって歩き始めた。


 アスールの想像とは違い、背の高いマティアスは人集りに突っ込むことなく、その後ろから背伸びをして、楽々と表を確認している。


「背が高いって良いよね!」


 ルシオが羨ましそうにそう言った。


「僕たちだって……まだまだ伸びるよ」

「そうかもしれないけど、今日は僕らの身長じゃ役に立たなかったね」

「じゃあ、来年に向けて今から頑張って身長を伸ばすのと、ちょっとだけ早く起きるの、どっちが良いと思う?」

「あはは。ごめん、ごめん。来年はもう少し早く起きます!」



 実は、今朝。ルシオが朝食の時間になってもなかなか食堂に降りて来ず、心配したマティアスが部屋まで様子を見に行ったら、なんとルシオはまだ夢の中だったのだ。

 ルシオを叩き起こした後、食堂へ戻ったマティアスはルシオの分の朝食を急いで用意し、慌てて着替えて降りて来たルシオは用意して貰った朝食を「これじゃ足りない!」と言いながら大急ぎで掻き込んだ。

 アスールはルシオのお茶を用意し、片付けを手伝い、どうにかこうにかここまで辿り着いたのだ。



「三人とも今年もAクラスだよ。教室へ移動しよう」

「「ありがとう、マティアス」」


 アスールはおそらく三人とも同じクラスだろうと予想はしていたが、やはりその通りになった。

 アスールが王子である以上、すぐ側に在るべき友人に関しては学院側としてもそれなりの配慮をするのだろう。

 ただ、四学年以降 “騎士コース” を希望しているマティアスと同じクラスで学べるのは、おそらく来年までになるだろうとアスールは考えている。



「そう言えば、マティアス。担任の先生って誰だった? またフェリペ先生?」

「いや、違った。確か……A.ジルダニアって書いてあったと思う」

「あっ。アレン先生だ!」

「アスール知ってるの?」

「去年Cクラスの担任だった先生だよ。魔道実技基礎演習の担当だった」

「……ってことは水属性か。どんな先生?」

「凄く面白くて良い先生だよ。元魔法師団員だって言ってた」

「へえ。それは興味深いな」


 ルシオはちょっと嬉しそうにしている。だからアスールは、ちょっとだけ意地悪心を起して言ってみた。


「それとね。怒ると()()()怖いよ」

「まじかぁ。気を付けよ」


 ルシオはぶるっと身震いをした。




 荷物を教室へ置き、急いで講堂へと入った。クラス毎に指定された席に座る。

 振り返って来賓席を見上げると、もう既にフェルナンドが一人悠然と座っているのが見える。

 ローザの入学式が楽しみ過ぎて、きっと学院側との挨拶もそこそこに一人でさっさと先に席に着いているのだろう。お祖父様らしいなとアスールは思った。


 フェルナンドは “感覚” が非常に鋭い。下からのアスールの視線をすぐに察知し、アスールに向かって大きな笑顔で片手を上げてみせた。

 アスールも手を振ってフェルナンドに合図を返す。



 在校生と保護者の席が埋まると、壇上に副学院長が上がり、来賓の紹介が始まった。

 カルロとパトリシアの名前が呼ばれ、大きな拍手の中、二人が手を取り合って現れた。来賓席に案内されると、既にフェルナンドが座っていることに気付いたカルロが苦笑いをしている。

 続いてフェルナンドの名前が呼ばれるた。フェルナンドはその場で勢いよく立ち上がり、両手を振って拍手に応えている。そのフェルナンドの飾らぬ様子に、わっと会場から歓声があがった。


「やっぱりフェルナンド様は最高に面白いね」

「それに人気もある」


 ルシオとマティアスはそう言って絶賛するが、アスールはなんだか褒められているんだかいないんだか分からなくなって一人顔を赤らめた。



 アスールを驚かせたのは、いや、おそらく会場全体が驚いただろう。次に名前を呼ばれ登場したのは、なんとアリシアだったのだ。


 アリシアが学院に足を踏み入れたのは、間違いなく今回が初めての筈。

 普段滅多に王宮を出ない第一王女の登場に、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

 アリシアは余りの歓待ぶりに一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐにニッコリと微笑んだ。席までの短い距離を優雅に歩く淑やかな美しいアリシアの姿は、見る者の目を釘付けにしている。

 アリシアは再び笑顔で歓声に応えた後、パトリシアの隣の席にそっと腰を下ろした。

 結婚を機に近々他国へと行ってしまう第一王女の予期せぬ登場に、会場全体がざわめいている。




 一旦下がっていた副学院長が、再び壇上に現れた。いよいよ入学式が始まる。会場内は水を打ったように静まり返った。

 新入生が一列に並んで入場して来た。ローザの姿も見える。ローザは最前列の中央付近、去年アスールたちが座った辺りに腰を下ろした。あの位置ならローザもおそらくAクラスだろう。


「マティアス。ローザ様の右隣、あれが僕の妹のカレラだよ」


 ルシオが興奮気味に自分の妹をマティアスに教えている。やっぱりルシオなりに妹の入学が嬉しいらしい。

 式は順調に進み、次はいよいよ新入生代表の挨拶だ。


「それでは続きまして、新入生代表から挨拶をお願いします。今年度新入生代表は、Aクラス、カレラ・バルマー。壇上へ上がって下さい」

「はい」


 場内から驚きと称賛の声が上がった。新入生代表挨拶はその年の入学試験で一番成績が良かった者が選ばれる。

 同じ点数だった場合は地位の高い貴族が選ばれることが多いと聞くが、女の子がこうして壇上に上がった話など聞いたことがない。

 今年はバルマー家よりも家格が上の貴族の子息が何人か居た筈だ。つまり、真にカレラが()()()だということだ。


「……なんでカレラが?」


 一番驚いていたのは、確実にカレラの兄のルシオだろう。




「今年の入学式は凄く面白かったな」


 入学式が終わって教室へ戻ると、マティアスがルシオに向かってそう言っていた。


「そ、そうだね。前半は。後半は僕、記憶がはっきりしないよ……」


 ルシオは妹が主席だったことが余程衝撃的だったのだろう。


「妹から、挨拶の話を聞いていなかったのか?」

「全然。全く。これっぽっちも」

「ぶふぁっ。ご、ごめん。なんだか可笑しくって。いや、ほんと、笑ってごめん」


 マティアスは完全に笑いのツボに入ったらしく、目に涙を溜めながら、必死に笑うのを止めようと奮闘している。


「良いよ、好きなだけ笑ってくれ! 家族全員で、僕がこんな風に当日会場で唖然とする姿を想像してたんだと思うと……。くそーーーーーぉ」



 そんなルシオの様子を、新しく同じクラスになったメンバーたちが愉しげに眺めている。


 マティアスが去年と同じ位置にさっさと荷物を置いていたので、アスールは今年もマティアスとルシオに挟まれて一番後ろの席に座ることになった。



 アスールが教室内を見渡すと、去年から同じクラスだった子はマティアスとルシオ以外に、平民の子が男女それぞれ二人ずつ居る。今この部屋に居ないカタリナとヴァネッサとは、どうやらクラスは分かれたようだ。


「レイフは居ないな……」

「そうみたいだね。同じクラスなら楽しかったのにね」


 アスールの呟きにルシオが答えた。どうやらルシオもレイフの姿を探していたらしい。

 夏の旅行以降、ルシオとレイフはすっかり意気投合していて、廊下ですれ違ったりすると互いに戯れ合っている姿も見かける程だ。


 レイフの友人たちにしてみたら、休み明けからレイフとは何の接点も無いと思われるバルマー伯爵家の息子が、急にレイフに接近して来たことをかなり不審に思っているらしい。

 二人とも他人からどう思われようと全く気にしていないので、レイフは友人に何を言われようと構わずルシオと変わらず巫山戯合っている。


 アスールはそんな二人を見て羨ましくも思うが、一応王族としての立場もあるので廊下での戯れ合いに加わることなどできず、横目でチラリと見ては苦笑いを浮かべていた。

 代わりに、週に一度は魔道実技基礎演習で一緒になるので、この時は周りの目など気にすることなく会話を楽しんだ。

 おそらくは今年 “基礎” が “中級に” 変わったとしても、レイフとは同じクラスだろう。

お読みいただき、ありがとうございます。

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