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クロスロード 〜眠れる獅子と隠された秘宝〜  作者: 杜野 林檎
第一部 王家の子どもたち編
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 9 不穏な動き

「この五日の間に、衛兵隊の方へ市民から捜索願が四件届けられているそうです。捜索対象者は全て十代の女性。十三歳が一名、十五歳が二名、十六歳が一名。行方が分からなくなる前に本人たちに特に変わった様子は見受けられず、家族にも思い当たる事が無いことが共通しています。おそらく人攫いかと……」



 今朝の主な議題は最近相次いでいるらしい行方不明事件に関してだ。

 同じような案件が、王都から西に五日程離れた海沿いの街マードルでもすでに起きていた。

 行方不明者は三人で、同じく若い女性。

 高波で知られる沿岸部という場所柄もあって、初めは「波に攫われたのでは?」との憶測もあったようだが、立て続けに三人が居なくなっては市長も重い腰を上げざるを得なかったのだろう。

 そんなこんなで、王都にやっとこの知らせが届いてからまだ数日が経過したばかりだった。



「儂の知る限り、同じような事件なら既に別の土地でも起きておるぞ! タスコラ地方のフエブラ村近辺でな」


 ドアを開けて悠然と入ってきたのは、先代の王、フェルナンド・クリスタリアその人であった。

 フェルナンドは空いていた席にドサリと腰を下ろす。


「タスコラ地方ですか?」


 先王の話に真っ先に喰い付いたのは、現王カルロの側近の一人にして、王宮府副長官でもあるフレド・バルマー伯爵だった。


「ああ。もう二ヶ月以上前の話になる。若い娘、それも村でも()()()()()と言われとった娘ばかりが立て続けに居なくなっとるって話だった」

「ほう。フェルナンド様はそれであちらにお出掛けに……」


 バルマー伯爵は左手で自分の顎をゆっくりと摩りながらぶつぶつ呟いている。これは彼が何やら考え込んでいる時の癖だ。


「タスコラ地方のフエブラ村……確かあそこは小さな()()だったかな?それからマードルは……そうそう沿()()部。そしてここ、王都ヴィステル。なるほど、なるほど。共通点は、ずばり『海』ってところですね」


 副長官の言葉に、その場に居た一同が騒つく。


「海……ってまさか海賊絡みって事は?」

「オルカ海賊団が?」

「まさか!」


 フレドは大きく咳払いをする。


「まあまあ皆様、少し落ち着いて下さい。私は別に海賊団がこの件の首謀者だとは一言も申しておりませんよ。ただ、あくまで共通点が『海』だと申し上げただけです。人を攫って何処かへ連れ去る場合、陸を行けば人目につく事も多いでしょう。しかし海上だったらどうでしょう? 余程のことがない場合……。まあ、あるいはそういう事もあるかもしれません。そして当然ですが、海にある船は海賊船だけとは限りませんよ。商船、漁船、連絡船。軍船もまた然り。疑わしきものは全て調査する。これ、基本です」



        ー  *  ー  *  ー  *  ー 



「なんだか前に来た時より兵士が増えている感じがしないか?」

「えっ? ……ああ、そう言われりゃ確かにそうかもな。港も、門の周りも、この辺でも。確かにここに着くまでに兵士が何人もうろちょろしてるのを見かけた気もするな。でも、明日は祭りなんだし、まあそれが普通のことじゃないのか? 別段気にすることでもないだろ」

「……そうだと良いんだが」

「まだ平気だろ。それよりこの肉串美味いぞ。冷める前に食っちまおうぜ」



 繁華街の一角にある酒場の賑わう店内、壁際の角の席で二人の男たちが辺りをうかがいながらなにやら話をしている。

 一人は地方から王都に買い付けに来ている商人という出で立ちで、もう片方がその部下といったところか。だが、なんとなくこの二人には不自然さを感じる。薄暗い店内に居るにもかかわらず、二人ともやけに日に焼け過ぎているように見えるせいかもしれない。その上、部下らしい男の頬には大きな切り傷まであった。


「明日が最後の仕事だ。済んだらさっさと引き上げよう」

「えっ。まだ大丈夫だろう? ここなら人も多いし絶対まだバレっこねえよ。折角だからもうちょっと稼がして貰おうぜ。ここのところ仲間も増やしたことだし、明日でこの街を引き上げちまったら分け前が少なすぎやしないか?」

「駄目だ」

「なんだよ。もう終わりかよ……」


 男たちはグラスに残っていたエールを一気にあおって飲み干した。それからポケットを探り、銀貨を乱暴に掴んでテーブルに投げると、奥にいた店員に軽く手を挙げ、合図をしてから店を出る。


 二人の男は酒場や宿屋が多く建ち並ぶ地区に背を向け、ゆっくりとした足取りで、敢えて薄暗いひと目につきにくい道を選ぶようにして広場を目指した。



 明日はいよいよ収穫祭当日だ。

 街の外れにある広場の周辺はすでに屋台は設置済みで、ほとんどの店は後は当日品物を並べれば良いだけといったところまで準備が済んでいるようだ。そんな中、作業がいまだ終わらない店も数軒あるようで、慌ただしく準備に追われている者もいる。でもそれらは極少数派らしく、既に広場に人影はまばらである。


「はあ。明日で終わりかあ……。まあ、お前がそう言うなら仕方ねえ。明日一日だけだって言うんならその分ガッポリ荒稼ぎさせて貰うぞ」

「ああ」


 男たちはもう繁華街へと戻る気はないようで、薄暗い道をさらに奥へと進んでいく。二つの影は闇の中へと吸い込まれていった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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