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閑話 ドミニク・クリスタリアの独白

 私はドミニク・クリスタリア。十六歳。クリスタリア国王カルロ・クリスタリアの長男で、この国の第一王子だ。


 王立学院を卒業して早十ヶ月。先日、我が母校クリスタリア王立学院の秋の学院祭に行ってきた。

 学院祭で行われる恒例の行事の一つである “模擬戦” の観戦と、優勝者及び準優勝者への祈念の盾を贈呈する役目を、光栄にも父王より賜ったのだ。



 当日は祖父であるフェルナンド先王と、騎士団で一緒にその祖父から訓練を受けている友人たちと一緒に学院を訪れたのだが、やはり学生として参加していた学院祭と、外部の者として見に行く学院祭とでは、受ける印象も大きく違うものなのだと驚いた。

 いろいろと制約も多く、煩わしいとすら感じていた学院生活も、過ぎてしまえば懐かしく、楽しい日々だった。まあ、もう一度やりたいかと問われれば、間違いなく「否」と答えるがな。



 私の卒業後も、弟妹たちは皆元気に学院生活を楽しんでいるようで安心した。


 すぐ下の弟のシアンは、相変わらず人眼を引くあの綺麗な顔で、周囲の視線を見事に集めていた。シアンは私とは違い、小さい頃から頭脳明晰で神童の名を欲しいままにしている。その上あの見た目だ。麗しの王子様といった雰囲気で母親世代にもシアンのファンは多い。

 学院の騎士コースの者たちは知る由もないだろうが、シアンはああ見えて恐ろしく剣の腕が立つ。もしもシアンが模擬戦に参加していれば、今年の優勝者はゲイリー・ギルモットでは無かっただろう。



 そうそう。模擬戦の女子の部に、すぐ下の妹ヴィオレータが出場していたのには驚いた。まだ第ニ学年にも関わらず、なんとヴィオレータはニ回戦を突破していた。我が妹ながらアレは凄い!

 王家に生まれていなければ(兄の欲目かもしれないが)女将軍にでもなれる器の持ち主だと思う。私は絶対にあんなのとは戦場で合間見えたくは無い。恐ろしすぎる。

 来年はまだちょっと分からないが、最終学年になれば、ヴィオレータの女子の部での優勝は間違いないだろう。

 見事なまでに馬を乗りこなし、剣技を磨き……妹はいったいどこ目指しているのだろうか? 兄としては彼女の将来が少しばかり心配ではある。



 受付には下の弟、アスールの姿があった。

 祖父フェルナンドや、母方の親戚筋に似た肉体派の私とは違って、アスールは父王カルロに似ているのだろう、どちらかといえば見た目的にはシアンと同じく線の細い優し気な少年だ。

 学院入学前のアスール印象は、大人しく従順で、妹思いのちょっと頼りない弟といったところだった。

 それが久しぶりに会ってみれば、身長も少し伸びてきて、健康的に日に焼け、ハキハキとした物言いのできる快活な少年になっているではないか。

 正直、その成長に驚いた。何がアスールを変えたのだろう? 学院に入学して良き友人でも得たのだろうか? それならば喜ばしいことだ。



 折角なので学院祭とは関係ないが、残りの姉妹についても語っておこう。


 そういえば、姉のアリシアは学院には通っていなかった。王女としては、もしかするとそれが普通なのか?(ヴィオレータが規格外過ぎる可能性は否めない)

 姉とは母親が違うせいだろう、ほとんど接点が無い。姉が物静かな性格だということもあって、親しく話したことも無い。だが会えばいつも優しく微笑んでくれる、とても美しい人だ。

 もうすぐその姉の婚約式が王宮で執り行われる予定になっているため、今王宮内はその準備に皆慌ただしく動いている。

 来年の夏にはハクブルムでの結婚式に私も王家の一員として出席する。その後は幾つかの国を訪問する予定になっている。今から楽しみだ。



 終いは末の妹のローザだが、彼女には昨日も怖がられてしまった。いったい私の何があの子を怖がらせるのか?

 前にアスールから急に抱き上げたり、振り回したりしてはダメだと言われ、それからはなるべくそうしないように心がけてはいるが、ローザを見かけると、ついつい構いたくなってしまうのだ。可愛いのだから仕方がない。

 卒業後、私も父王の政務の手伝いをすることになり、執務室に居る時間が長くなった影響で、ローザとも顔を合わせる機会が増えてきた。

 もうちょっと打ち解けて貰うために、今度は城下で美味しいと評判の焼き菓子でも買って来よう。聞いた話では近頃はマカローナという菓子が人気らしいから、それならきっとローザも気に入るに違いない。



 ああ、そう言えば学院祭の話をしていたんだったな。

 我が母校。今年も沢山の学生たちの心からの笑顔が溢れる、とても素晴らしい学院祭だったと思う。

 優勝を逃したという永遠に回収できない忘れ物をした私にとっては、学院は楽しいだけの場所では無くなったが、それはそれ。いつか良き思い出となる日も来るだろう。

お読みいただき、ありがとうございます。

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